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「ジルベルト様っ!本当に、ここまでしないとしないといけないんですか?」


「勿論だ。マリベルの怪我の酷さをみんなに見てもらわないといけないからな」



 そう言ったジルベルト様は私の足元に跪いて、怪我をしていない足に包帯を巻いている。


 いつもは見上げるジルベルト様の頭が下にあるのが不思議な気分だ。


 包帯を巻くジルベルト様の手が足に触れて、私はふるりと体を震わせる。



「……ッ。自分でします!」


「その腕でか?背中を打って屈むこともでないのに?」


 

 そうだった。背中を打って痛めているせいで、身を屈めることも、腰をひねることも出来ないでいた。


 ジルベルト様の言葉に何も言えず、フイっと顔を逸らすと「おねがいします……」と消え入りそうな声で言うと、ジルベルト様は肩を震わせて笑っていた。



 羞恥心に耐えながら、どうして怪我をしていない足、頭、首に包帯を巻かれているかというと。


 不特定多数の人に大怪我をしたのを見せるためだ。


 私が婚約者の幼馴染に階段から突き落とされた噂は、研究室から滅多に出てこないジルベルト様でさえも知っているけれど、私の復讐計画において『階段から突き落とされて大怪我を負った』という事実を広める必要があった。



 その為に、ジルベルト様に意識のない私を馬車まで送ってもらう必要があった……のだが。思いがけず、ステファンと幼馴染のエミリーに出くわしてしまった。


 眠っている設定の私は、ジルベルト様とステファンが話しているのを目をつぶって聞いていることしか出来ない。



 ジルベルト様は意外にも演技派らしい。

 自分に言われている訳ではないのに、ステファンを非難する冷たい声には身体を震わせそうになった。


 ジルベルト様は本当に私のことを思って怒ってくれているようだった。



 ジルベルト様とステファンの会話に割って入ったエミリーが「ステファンを責めないでください!」と、言ってからのステファンとエミリーの会話は酷いものだった。



 自分が階段から突き落として、傷だらけで意識がない人が目の前にいるにも関わらず、まるで自分が悲劇のヒロインのように振る舞える神経には拍手を送りたくなる。


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