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「誰のこと?」


「もう忘れたの?彼よ」



 分かって当然よねという風に言うエラに、誰のことだろうと考える。



 私には頼めるような男性の知り合いは少ない。ジルベルト様?クリス先輩?屋敷の使用人ならエミリー様の手紙を処理させたりしたけど、証言には弱いような……。



「まぁ……。あいつが一番近くで見てはいるな」



 一番近くで……??


 しばらく考え込んだ後、クリス先輩の言葉で考えもしなかった人のことを思い出す。



「もしかして、ステファンのことを言っているの!?」


「そのもしかしてよ。彼以外の適任がいる?」



 エラは悪戯っぽく笑って言った。



「確かにそうだけど……」


「元婚約者のためとはいえ、あいつが素直に証言すると思うか?」



 クリス先輩の言葉に同意する。

 ステファンに頼んで証言をしてくれるだろうか?婚約破棄にもなったし、幼馴染であるエミリー様が犯罪者になるかもしれない裁判で……。


 正直な話。学園に入学してから、私といる時間より、ステファンにくっ付いて回っていたエミリー様といる時間の方が長い。



「彼に良心があるなら証言をするだろうし、なかったら元婚約者より幼馴染の方が………んん。まぁ、それまでの男だったってことね」



 証言してくれるか不安げな私に、エラは励ますように言った。



「そうね……。頼むだけ頼んでみるわ」



ーーー


 

 ステファンが裁判の証言をしてくれて、話し合うことになったら「私も立ち会うから」と言うエラと、今後の予定について話した後。今日は解散の流れになる。



「それと、この嘆願書の効力についても調べないと。知り合いにこういうのを調べてくれる人がいるから頼んでみる」



 だから嘆願書を見せて欲しいと言ったのねと納得すると同時に、ある疑問が浮かぶ。



「どうしてそんな人と知り合いなの?」



 調べてくれるといえば、お金さえ払えば色々なことを調べてくれる情報ギルドとかだろうけど、エラとの接点が分からない。


 エラは私の言葉に罰が悪そうな顔をして、視線を逸らした。そんなエラをクリス先輩は、何か言いたげな目で見ている。



「えーと……。この学園に留学する時に、いい所なのか調べてくれたの。ほら、親が心配性だから」


「そうなの?」



 エラの親が心配性なのは初耳だ。留学したことがないから分からないけど、情報ギルドを使って留学先を調べさせるのは当たり前なのだろうか?



「そうよ。ね?クリスも知ってるでしょ??」


「まぁ……、過保護なのは間違いないな」



 エラがクリス先輩に同意を求めると、先輩は含みのある言い方をした。


 そんな先輩にエラが罰が悪そうな顔をするのを見て、会ったこともないけれどエラの親には一癖ありそうだなと思った。



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