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「とてもお似合いです。マリベルお嬢様」


「そうかしら……」



 鏡の中のパープルのドレスに身を包む小さな女の子は、メイドの言葉に頬を染めて、照れながらクルッと回ってみせた。



「ステファンも可愛いって言ってくれるかな……」



 拍手をして「お嬢様が一番可愛いです」と褒め称えるメイドに、不安げに女の子は聞いた。



「もちろんです。お嬢様はステファン様の世界で一番可愛らしい婚約者ですわ」



 メイドの言葉に、女の子は花が咲いたように可愛らしく笑った。



「僕はいつものドレスの方が好き」


「えっ……?」 



 新しいドレスに身を包んで、婚約者であるステファンに会いに来た私は、ステファンの言葉に言葉をなくす。  


 

 褒めてくれると思っていたのに。

 予想していなかった否定の言葉に、私の顔は凍りつく。



「今着てるのは色が派手で僕は好きじゃないし、マリベルには似合わないよ」


「そう…かな……?」



 重ねられた否定の言葉に、私はドレスの裾をギュッと掴んだ。心臓はバクバクと音を鳴らして、瞳には涙が滲んでいた。



 私の気持ちを知らないステファンは、私が好きだった笑顔で言った。



「そうだよ。マリベルは派手な色じゃなくて、ピンクの方が似合うよ」 



 無邪気で純粋な言葉は、幼い私の心を傷付ける。


 ステファンの言葉に、私はピンクや水色の淡い色より、鮮やかな色の方が好きだという気持ちに蓋をした。



「可愛い僕だけのお姫様」



 そう言って、ステファンは私の手を握った。


 この時の私は、ステファンのお姫様になれると信じていたーー。



ーーー



 日が傾きはじめて暗くなり出した温室で、目が覚める。


 灯りが灯って、温室は日中とは違った顔を見せていた。



 エラとクリス先輩が温室を去った後。温室の暖かさと太陽の陽気に負けて、私は一人、椅子に座ってテーブルに突っ伏して寝てしまっていたらしい。



 最悪な夢を見たわ……。ステファンにはじめて自分で選んだドレスを見せた日の夢を見るなんて。



 あの時の私は、否定されるなんて思ってもいなかったものね……。



 フフッと乾いた笑みがこぼれる。

 


 テーブルから頭を持ち上げると、身体が悲鳴を上げた。



 はぁ……。頭が痛い……。

 肩も凝っているし、考えることが多過ぎてろくに寝れていなかったものね。



 人がいないのをいいことに、手を上にあげて背伸びをしようとすると、ある人物が目に入った。



「ジルベルト様……、どうしてここにいるんですか!?」


「あぁ…?起きたのか??」

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