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いきなり割って入ってきた声に驚いて、エラと同時に声をした方に振り返る。
そこにはエラが持っている棒の持ち主らしい、クリス先輩が立っていた。
「エラ、こんなところで何をしているんだ?」
クリス先輩はたまに見せる、笑っているようで笑っていない笑顔を携えながら、歩いてくる。
どう言う訳か、先輩はエラに怒っているらしい。
「あら?クリス先輩。さっきぶりですね」
そんな先輩の笑顔に気付いていないのか、エラは呑気に応える。
エラ!どうしてそんなに呑気に挨拶が出来るの??
エラの言葉に、先輩の笑顔が更に深くなったのを私は見逃さなかった。
「俺に面倒な報告を押してつけて、どこかに行ったかと思うと、こんなメモが置いてあった俺の気持ちが分かるか?」
そう言って、先輩はメモを突き出した。
メモに書かれている内容を読むと、『棒を借ります。止めないでください。 エラ』
「止めないでくださいって、何をするつもりだったんだ」
「すこぉーし、お仕置きするつもりだったの」
「お仕置きって、これは人を殴るための棒じゃない」
「いい感じの棒がこれしかなかったの。仕方ないじゃない」
そう言って棒を振るエラの言葉に、先輩はハァーとため息をついた。
「で、誰にお仕置きするつもりだったんだ?」
ーーー
「どういうこと!?」
さっきは話せなかった、エミリーとの裁判について話していると、エラが温室にあるテーブルをバンッと叩いて、椅子から立ち上がった。
「エラ、落ち着け」
エラの声が温室に響き渡る。
クリス先輩はエラに座るように言うが、エラは先輩の言葉をはねのける。
「落ち着いていられないわ!!どうして減刑の話が出てくるのよ!?!?」
「私も減刑なんてしたくないわ。だけど……、エミリー様は若いし、犯罪者にするには可哀想だと思っている人がいるみたい」
「そんなんじゃだめよ!!婚約者がいる男に言い寄って、マリベルを階段から突き落とすような女なのよ!?」
エラの言葉に私も同意する。私としても今までのことと、私が受けた被害を考えたら、減刑になんてするつもりはない。
傷害罪、接近禁止令と首都への立ち入り禁止を取り付けたいのだけど、エミリー側の弁護士が曲者であらゆる手を使って、エミリーの情状酌量を狙ってくるのだ。
「相手側の弁護士が、減刑の嘆願書を提出してきたの」




