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エラの言葉に驚いて、パチパチと瞬きを繰り返す。
乱れた髪に、乱れたローブ。
研究中毒でも、いつも身だしなみには気を使うエラが、慌てて駆けつけてくれたのは明らかだ。
これだけ感情を露わに、私のことを思ってくれるなんて……。
嬉しいという感情が溢れて自然と笑顔になる。
「大袈裟ね」
顔を綻ばせてクスクスと笑っていると、笑う私を見て、エラも嬉しそうに一緒に笑った。
「元気そうでよかったわ」
「心配かけてごめんなさい。エラ」
「本当よ。クリス先輩からこんな棒まで借りたのに」
「それ、クリス先輩のだったの?」
クリス先輩はエラと同じ国からの留学生で、一つ上の先輩だ。エラとは親戚らしい先輩は、自由なエラを諌める優しい兄という感じの、たまーに見せる笑顔が怖い、笑顔が似合う優しい先輩だ。
そんな先輩が苺がついた木の棒をどうして持っているの?
理由を聞きたかったけれど、何か知ってはいけない気がした。
「メモまで残して借りてきたのにどうしよう」
そう言ってブンブンと棒を振るエラを見なかったことにして、聞きたかったことを聞く。
「今まで何をしてたの?」
「えぇと……。今回は材料の採取に少し遠くまで行っていたの。帰る途中にマリベルが階段から突き落とされたって聞いて、慌てて帰って来たのよ」
学園にもいなかったのか、じゃあ姿を見なかったのも当たり前ね。
「そうなのね。エラが学園にいたらステファンと、エミリー様は大変なことになっていたかもしれないわね」
私が冗談で言うと。
「私のマリベルを階段から突き落とすなんて、八つ裂きにしてやろうと思ったのに」
真顔になったかと思うと、不穏なことを言うエラに笑ってしまう。
笑う私につられたように、エラも笑った。
エラは諦めていた私とは違って、ステファンとエミリー様に怒ってくれていた。
エミリーが私に失礼なことを言うのを横で聞いていたエラは、「猿は自分の檻に帰りなさい」と私より怒ってくれていた。
表情がコロコロと変わって、感情表現が豊かなエラに私は救われていた。
エラは棒を顔の横に持ち上げて、真剣な顔で言った。
「私は本気よ!!」
「何が本気なんだ?」