12
「お久しぶりですね」
お屋敷のとある一室で、男女が向かい合って座っている。
女は背筋を伸ばして真っ直ぐ前を見つめているのに対して、男は項垂れるように座っている。
テーブルを挟んで座る彼は、少しやつれて見える。視線を合わせずに彷徨わす姿は、私の知ってる彼とは別人に見えた。
「ステファン」
私に名前を呼ばれると、ステファンは瞳を震わせ私と目を合わせた。
酷い顔……。
その瞳は暗く沈んで見える。
「お元気そうでよかったわ」
心にもないことを言って、テーブルに置かれた紅茶を口に含む。
学園で階段から突き落とされて以来、はじめてステファンと顔を合わせて話しをする。
「マリベルの方こそ、元気そうでよかった……。その……、怪我は大丈夫……?」
私のロンググローブで覆われる腕を見て言った。
「あと数日もすればアザもキレイに治るそうよ」
「よかった……」
安心したようにホッと息を吐き出すステファンに目を細める。
「最後にマリベルに直接会って話したいっていう、僕のわがままを聞いてくれてありがとう」
「私も一度は話さないといけないと思っていたから」
「そうか……」
こんな機会がない限り、婚約破棄をした男女が話す機会なんて一生ないかもしれない。
そう言ったきり、私達の間に沈黙が続く。
時計の音だけが響く中、沈黙を破ったのはステファンだった。
「僕のせいで本当にすまない」
謝罪の言葉と共に、下げられた頭を見つめる。
今まで、ステファンと喧嘩をしたことも、謝罪をされたこともなかったら不思議な気持ちになる。
「何に対しての謝罪なの?」
「エミリーのことを放置して、マリベルに怪我を負わせたことと、婚約破棄になってしまったことを謝りたい」
「そう……」
手紙での謝罪は何度もされたが、直接頭を下げて謝られると、言いたかった怒りの言葉も口から出なくなる。
私の意気地なし……。
「私も限界を感じていたから」
怒りの言葉の代わりに出たのは、諦めの言葉だった。
私の言葉にステファンは頭を上げると、驚いた顔で私を見た。
そんなステファンに、私は困ったように笑ってみせた。