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「お久しぶりですね」



 お屋敷のとある一室で、男女が向かい合って座っている。


 女は背筋を伸ばして真っ直ぐ前を見つめているのに対して、男は項垂れるように座っている。

 


 テーブルを挟んで座る彼は、少しやつれて見える。視線を合わせずに彷徨わす姿は、私の知ってる彼とは別人に見えた。



「ステファン」



 私に名前を呼ばれると、ステファンは瞳を震わせ私と目を合わせた。



 酷い顔……。



 その瞳は暗く沈んで見える。



「お元気そうでよかったわ」



 心にもないことを言って、テーブルに置かれた紅茶を口に含む。



 学園で階段から突き落とされて以来、はじめてステファンと顔を合わせて話しをする。



「マリベルの方こそ、元気そうでよかった……。その……、怪我は大丈夫……?」



 私のロンググローブで覆われる腕を見て言った。



「あと数日もすればアザもキレイに治るそうよ」


「よかった……」



 安心したようにホッと息を吐き出すステファンに目を細める。



「最後にマリベルに直接会って話したいっていう、僕のわがままを聞いてくれてありがとう」


「私も一度は話さないといけないと思っていたから」


「そうか……」



 こんな機会がない限り、婚約破棄をした男女が話す機会なんて一生ないかもしれない。



 そう言ったきり、私達の間に沈黙が続く。

 時計の音だけが響く中、沈黙を破ったのはステファンだった。


 

「僕のせいで本当にすまない」

  


 謝罪の言葉と共に、下げられた頭を見つめる。


 今まで、ステファンと喧嘩をしたことも、謝罪をされたこともなかったら不思議な気持ちになる。



「何に対しての謝罪なの?」


「エミリーのことを放置して、マリベルに怪我を負わせたことと、婚約破棄になってしまったことを謝りたい」


「そう……」



 手紙での謝罪は何度もされたが、直接頭を下げて謝られると、言いたかった怒りの言葉も口から出なくなる。


 私の意気地なし……。



「私も限界を感じていたから」



 怒りの言葉の代わりに出たのは、諦めの言葉だった。



 私の言葉にステファンは頭を上げると、驚いた顔で私を見た。



 そんなステファンに、私は困ったように笑ってみせた。




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