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「落ち着いたか?」
「はい……。ご心配おかけしました」
今まで溜め込んでいたのが溢れるように、流れる涙はいつの間にか止まっていた。
顔を上げてグスッと鼻を鳴らす私を、ジルベルト様は恥ずかしくなるほどの慈しむ目で見ている。
その目に堪えられなくなって視線を逸らすと、ジルベルト様の肩に何かついているのに気付く。
あれは……!!
カッと目を見開いて見つめる先は、ジルベルト様の肩を濡らす私の涙だ。
「ごめんなさい……!ジルベルト様の服を汚してしまいました」
ハンカチで涙を拭こうと手を伸ばすと、ジルベルト様に手を掴まれる。
「気にしなくていい。これぐらいは自分で拭けるから」
そう言って自分で拭くジルベルト様を見て、所在なさげのハンカチを持つ手を引っ込める。
色々と迷惑をかけてしまったから、こんなことぐらいしか出来ないなんて……。
思い返せば、ステファンの幼馴染に嫌味を言われた時も、階段から突き落とされた時も、側にいてくれたのは、婚約者であるステファンではなくてジルベルト様だった。
ただでさえ、普段から下級生としても生徒としてもお世話になっているのに。
私ってかなり迷惑な人なんじゃ……。
自分の不甲斐なさにショックを受けていると。
「そんなに思い悩むなら、やめたらどうだ?」
ジルベルト様の言葉に首を傾げる。
やめる……??
何を?なんて聞くほどでもない。
「やめませんよ。やられたままでは終われませんもの」
泣いたからって全てが終わる訳ではないけれど、泣いたおかげか、霧が晴れたかのように頭の中がすっきりして何をすべきか分かった。
自分の手でステファンとの関係も、エミリー様のことも終わらせないといけない。
終わらせるにはまだ早すぎる。