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「ステファンを返して!」
次の授業の教室へと生徒達が行き交う廊下に、叫び声が響く。
婚約者の幼馴染の声と共に、私はドンと階段から突き落とされていた。
誰かの悲鳴が響く中、世界がスローモーションに見える。
離れた所にいる婚約者は驚いた顔でこちらを見ている。
間抜けな顔の婚約者を見て、私は後悔と怒りを抱いた。
幼馴染と話すって言ったのにどうして私が突き落とされているのか。
こんなことになるなら早く婚約破棄すればよかった……。
宙に舞った身体は冷たい床へと叩きつけられ、私は意識を失った。
ーー
夢を見た。
それは私がまだ幼く、記憶の端っこに追いやっていた美しい遠い過去の記憶だ。
「マリベルのことは僕が守るよ。だから僕と大人になったら結婚をしよう」
夢の中の私は「うん!マリベルはステファンのお嫁さんになる!!」と照れながらも笑って言った。
この時に戻れるなら過去の私に言いたい。
「この男は口だけの男。婚約者を自分の幼馴染からも守れやしない男だから信用するな」とーー。
アルファポリスにて先行して公開しています