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 近くの屋敷林は、思っていたより立派だった。方角によって植えている木が違うらしく、高さがまちまちなのも面白い。こう言うのは大抵理由があって方角ごとに植える木を変えているに違いない、そんな別の興味がむくむくと膨れそうになったが、首を振って考えを改める。


 今は精霊のこと!


「ここの家の者には許可を貰いましたので大丈夫です」

 サディスの言葉にお礼を言い、フィネリアは改めてカリーナにお茶の準備をお願いする。再び簡易的なお茶会の始まりだ。


 カリーナは先ほどより多くの種類のお菓子を出してくれ、紅茶も別の茶葉を使ってくれたようだった。

「精霊は楽しい雰囲気が好きなので、ここでしばらくお茶を飲みましょう。ノキア卿も、カリーナも一緒に飲んで下さい」

 立っていた二人に対しても座って欲しいと促す。二人は目を合わせると、少しして頷き合い、座ってくれた。その阿吽の呼吸のような動作に、フィネリアは首を傾げる。

 

「お二人は親しいのですか?」

 フィネリアの質問にカリーナが素早く答える。

「私は元々陛下の侍女でしたので、元の職場の同僚みたいな感じですよ」

「そうなのですね。カリーナがもし戻りたいようなら」

「待ってください!どうしてそんなことを仰るのですか!?」

 カリーナが困惑と焦りを混ぜた表情でフィネリアに問う。

「私が嫁いで来たことで異動になったなら、以前の職場の方が良いのではないかと」

「いえ、正直陛下の侍女はやることが無さすぎてやりがいを感じなかったので、自ら望んで立候補したのです。もし私に至らない点があるなら、どうぞ仰ってください」


 カリーナの言葉にフィネリアは目をぱちくりとさせた。

「いえ、カリーナはとても優秀だと思います。先ほどの紅茶もそうですが、細やかな配慮がとても有難いです。至らない点などありません」

 はっきりそう言ったフィネリアの言葉に、カリーナは驚きに目を見開くと嬉しそうに微笑んだ。

「それならどうぞ元の職場に戻れなどと仰らないで下さい。私はフィネリア様にお仕えしているのです」

 カリーナの言葉にフィネリアはゆっくり頷いた。カリーナが嫌でないならそれでいいとフィネリアは思う。


 フィネリアがお菓子に手をつけると、カリーナやサディスも同じように食べてくれる。しかし、フィネリアからは話題を出すことができず、お茶の席が静まり返ってしまう。これでは全然楽しそうな雰囲気ではない。精霊が寄ってくるような状態には程遠く、フィネリアは内心焦った。そんな様子を見て取ってか、カリーナがサディスに話題を振る。

 

「最近の陛下のご様子は?何か変わったことはないの?」

 カリーナの意図に気付いたのかサディスが少し考えながら、フィネリアに向かって話し始める。

「最近は以前と比べると健康的な生活になりました」


 あれで?


 フィネリアはレキアスの姿を思い出す。基本的に日中会うことは今のところ少なく、朝会わなければ夜だけである。朝も早いし夜も遅い。健康的な生活だろうか?


「結婚前の陛下はそもそも寝室に行くと言う習慣がありませんでしたから」

「確かにそうですね。執務室で寝ていらっしゃることも多々ありました」

 サディスとカリーナが頷き合う。


 逆にフィネリアはそんなことは考えられず驚く。国王であった父親だってそんな生活はしていない。むしろ、ニジエでそんな生活していた人を知らない。

「そんなにすごい量の仕事だったのですか?」

 フィネリアの言葉に、サディスが頷く。

「やはり戴冠されてからの忙しさは凄まじいものがありました」

 

 レキアスは皇帝の突然死により皇帝となった。急な帝位継承は、構えていた場合と違い大変な苦労があったに違いない。今はおそらくその状況をある程度越えたため、婚姻が進められたのだろう。しかも前皇帝から比較するとかなりの方針転換だった。


「ご存じの通り、前皇帝とは方針もガラリと変えられたこともあり、思うようには進みませんでしたからね。まともな引き継ぎもなく帝位を継承したのですから、帝国を維持し続けるだけでも一苦労です」

「当時は反発も大きかったですからね」

「前皇帝と違い穏やかな人柄と知った途端、意見を翻してくる連中も多かったからな」

 カリーナとサディスは当時のことをわかり合っているためか、頷き合っている。当然ながら、フィネリアにはわからない。少しモヤモヤとした感情が現れたが、よくわからず少し視線を落とした。


「皇后陛下?」

「……、ノキア卿、陛下は昔からああなのですか?」

 『ああなのか』と言うのが何を指しているのかは、レキアスと話をしていたサディスはすぐにわかった。カリーナは少し首を傾げたが、ピンと来るものはあったのだろう。

「あれは、陛下の決意の表れです」

「決意?」

「先帝と同じ道は歩まないと言う」

 サディスの話し方に迷いはない。レキアスのこともよくわかっていて、信頼しているのだろうと感じる。まだ結婚して数日しか経たないようなフィネリアには到底わからない。

「ただ、当然陛下の感情も動きますから、それを皇后陛下が受け止めて頂ければ、私としては嬉しいです」


 感情を受け止める?私が?


「誰かに自分の感情や気持ちを伝えるのは、勇気がいります。皇帝として隠さなければならない感情も、皇后陛下には見せてもいいのではないかと。それにより、陛下の心も自然と軽くなるのではないかと思います。ずっと自分の感情を溜め込むというのも、あまり良いことではないですよね」


 見たいわけではないが、自然と見えてしまう。フィネリアにとっては不可抗力なことではあるが、それを少しは役に立つように使えるのだろうか。

 人の感情が見える、または精霊から話聞くことで相手の感情を知り得てしまうフィネリアは、人から恐怖の対象として見られることはよくある。

 それが多少役に立つのだろうか。嫌がられることはあっても好かれることは少ない。


 陛下も感情を読まれるのは嫌だと思っているかもしれない。思っているかもしれないけど、もしかしたら、少しぐらい役に立てるかもしれない。


 サディスの言葉で前向きな感情が生まれて、思わず尊敬の眼差しで見つめる。

「サディス卿とお呼びしていいでしょうか」

「もちろん構いませんよ」

 にこにこ微笑むサディスときらきらした目を向けるフィネリアにカリーナが何かを察して、すっと二人の間に手を挙げる。フィネリアはすぐに気がつきカリーナを見た。

 

「どうしました?」

「フィネリア様には、陛下はどんな風に見えていらっしゃるんですか?」

 カリーナの質問にフィネリアは悩んだ。今のフィネリアに見えているレキアスは、おそらくとても断片的な姿ではあるが、正直に答えてみた。

「笑顔の仮面をつけた、何を考えているかいまいち分かりにくい、お説教が好きな人」


 その答えにサディスが思わずというように吹き出した。カリーナは少し手を額に当てて悩ましげな表情をする。

「陛下は、皇后陛下にお説教してるんですか?」

 面白くて笑いが止まらないままサディスが疑問を投げかける。

「はい。寝室に行くと大抵怒られてる気がします」

 その言葉にサディスはますます楽しそうに笑い、カリーナはとても深いため息をついた。


「陛下には進言が必要かと思います」

 ジロリとカリーナが厳しい目つきでサディスを見る。まだ笑っていたサディスがその目を見て慌てて姿勢を正す。どうやらこの二人の上下関係は、カリーナが上らしい。

「わかった。私から伝えておく」

 サディスの言葉にカリーナが強く頷いた。


 でも、優しい方なのだろうとフィネリアは心の中で付け足した。フィネリアの行動を自由にしてくれている。今もこうしていることを許されている。


「陛下は何がお好きなの?」

 フィネリアの質問に、カリーナの瞳がきらりと光る。サディスも興味深そうにフィネリアを見た。

「今はあまりする時間もございませんが、乗馬がお好きです」

「今回の視察は馬車でなく、最初は馬で駆けた方が速いとごり押ししようとしてましたからね」

「フィネリア様が同行すると仰ってくれて、皆ホッとしました」

 カリーナはそう言ったが、実はレキアスの楽しみを知らず知らず奪っていたのかと思い反省する。

「あと、無類の肉好きです」

「肉」

「はい。食事に肉以外は必要ないと思ってますものね」

 カリーナが呆れたため息を吐く。サディスも思うところがあるのか、ため息をつく。

「まだほとんど一緒に食事されていないでしょう?自分の偏食さに自覚があるからですよ」

 レキアスの表向きの柔和な雰囲気からは少しイメージの違う好みに驚く。むしろ野菜ばっかり食べてそうだ。

 

「フィネリア様は見たところ特に好き嫌いがないように見受けられますが、何か特別にお好きなものなどございますか?」

 カリーナから見るとフィネリアはどれも満遍なく食べ好き嫌いがないと思われているようだ。フィネリアは少し考えてから、答えた。

「パンがとても好きです。シンプルなパンが穀物の自然な味と噛みごたえがあって好きです。こちらに来てからバゲットがとても美味しくて気に入っています」

 その言葉に、カリーナの表情がパァッと明るくなり嬉しそうに頷く。

「料理長に伝えておきます!他にも好きな食べ物や、料理があれば教えてください」

「あまり量が食べられないので、もう少し減らして頂いて大丈夫です。でも、この間出てきた、オレンジのソースがかかったステーキが爽やかで美味しかったです」

「あれは、陛下もお好きですよ。甘酸っぱいのが合うと、毎回3皿ぐらい食べてる気がします」

 サディスの言葉にカリーナも頷く。

「陛下は食べすぎです。鍛錬しているからまだ許されますけど」

「鍛錬、ですか?」

「陛下は護衛が必要ないレベルでお強いです」

 カリーナの言葉にフィネリアは驚く。確かに今回の視察なども明らかに護衛人数が少なかった。いっそ文官まわりの側近の方が多い気がした。

「命を狙われることも非常に多かったので自然とそうなりました」

 サディスの言葉にフィネリアは、自然になるだろうか?と疑問に思う。恐らく相当な努力をしただろうし、それほどひどい目に遭ってきたのかもしれない。


 腹違いの兄弟のミラードとは方向性が違うと言っていた。そういうところも関係しているのかもしれない。

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