小話6:シルファの思考
掲載していなかった小話です。
「あ、なんか山の向こうに飛んで行ったなぁ」
レキアスたちが壊した黒い箱の残骸から飛び出した紫色の力を見ながら、シルファはそう呟いた。
人間は変わっている。
人によって差が大きい。
昔はみんな同じように見えていたこともあったけど、そうじゃないことを知った。
そうなると段々、僕自身も変わっていった。
相手を見て、自分で判断する必要が出てきた。
だから考えるし、自分がどうすべきか意思が出てきた。
世界は変わっていく、だから精霊もそのままではいられない。これはまだ僕たちにとってほんの始まりで、長い時間をかけて変わっていくのだと思う。
「なーんて、考えすぎか。……、面倒だけど、追いかけてみようかな。姫様たちは簡単に移動できないだろうし」
シルファはパタパタと黄緑色の力を放つ羽を動かしながら、上空へ上がった。
空の上まで上がるとこの辺り周辺の土地の様子が見える。きらきらとした土地の力が、戻っていくのが見てとれた。
土地の回復は簡単なことではないが、少しずつ変わって行くだろうと思う。
「できれば、姫様と王様には長生きしてもらいたいな」
精霊から見ると人間は簡単に死んでしまう生き物である。長く生きる精霊から見るとなんとも呆気ないのだ。
「山の向こう側が、ニジェラミエだったよね。どんな所なんだろ。こっち側はびっくりするほど精霊が少なかったからなぁ……。ってか、一部の土地が死んでただけなのに、精霊いなさすぎじゃない?」
そんな風に感じて、くるりと体ごと180度回って頭を下にしてみるが、答えは出ない。しばらく考えてもわからなかっため、シルファは諦めて元の体勢に戻る。
「ま、いいや!姫様にだけ挨拶してから行こっと」
さっと身を翻し、皇城の方へ真っ逆さま降りて行ったシルファだった。
人より長く生きる精霊すら、ゆっくりと変わっていくことが求められる世界は、やがて彼らの生まれる場所をも追い詰めるのだが、それはまた別の話。