小話5:見えない気持ち
陛下の気持ちのオーラが見えることは、表情との差異がわかるぐらいで大した意味があるとは感じていなかった。
不機嫌なのに笑顔だったりするちぐはぐは状態をストレスに感じるぐらいで、もし見えることを伝えて直してくれるなら、表情通りに見えるだけだと思っていた。
まさか、自分に向けられるオーラが特有のものに変化するとは思わず、正直若干気まずく、恥ずかしい。なるべく陛下の背後を見ないようにしていてはいるものの、目に入ってしまう。
でも、陛下は若干感情をコントロールしてわざと見せてくることがある。ただこの感情を強くコントロールはできないはずだろうとも思う。
そんなことを夜の寝室で、目の前にいるレキアスを見て考える。何故か二人は寝室で向かい合ったまま立っていた。
久しぶりにフィネリアが寝る前にレキアスが現れたのだ。
「どうしたの?」
いつも通り優しく微笑む表情に違和感はない。ただ、少しいつもよりオーラの色が深い気がして悩ましい。
強く想われていることがわかり、どんな表情で向き合えばいいかわからない。つい困った表情をしてしまう。思わず視線逸らしたフィネリアに、レキアスが笑った。
「見えてる?」
その言い方は敢えて見せているのだろうと思い、フィネリアは不満気な表情になる。
「まぁ僕は、フィネリアのことが大事だからね。しょうがない。感情と表情は一致させた方がいいんだろう?」
フィネリアが求めたことだが、こうなることなど予想はしていない。そんな感情を他人から向けられたことがないのだから。
「フィネリアは、遠回しな表現は嫌いだろう?」
「確かに、そうですが」
「だからできるだけ本音で話したいと思って」
レキアスの言葉にフィネリアが首を傾げる。
「本音、ですか」
「そう。隠しても仕方ないだろう?」
この現状のオーラで何を本音で話すのだろうかとフィネリアは構えてしまう。そんな様子が見て撮れたのか、レキアスが少し困った顔をする。
「そんなに構えられるとつらいんだけど」
レキアスのことはとても信頼している。最初の頃に感じていた印象とは今はずいぶん異なる。レキアスはフィネリアの意見を尊重し、大切にしてくれている。
少し視線を戻すとレキアスと目が合った。
「フィネリア、抱きしめたい」
はっきりそう言われて、フィネリアはパチクリと瞬きをした後、頬が熱を持ったのがわかる。以前抱きしめられてから、また少し時間が空いてしまった。気恥ずかしさにどう返していいかわからなくなると、突然レキアスが目の前で両手を広げた。
その行動の意味を理解できずに、驚きに目を見開いているとレキアスが少し気恥ずかしそうに笑った。
「来てくれるかな、と思ったんだけど」
まだ広げられたままの腕に、フィネリアはなるほどと思う。レキアスの顔と腕何度か見比べた後、フィネリアはものすごくゆっくりとした速度でレキアスの腕に近づいた。
するとレキアスの見た目よりずっと力強い腕がフィネリアを包み込む。その暖かな温もりは、フィネリアを安心させた。
抱きしめられると、幸せな気持ちになる。
「寝る前に、時間の合うときだけでいいから、こうして抱きしめても?」
そう問われてフィネリアは迷うことなく頷いた。フィネリアにとってもこの腕の中にいることは、とても嬉しいことだった。
それからレキアスはフィネリアの起きている時間までに執務を終わらせてくるようになった。ただ、
どうも朝がその分とても早くなったみたいですよとカリーナがこっそり教えてくれた。
相変わらず忙しくしているレキアスに申し訳なく思いながらも、止めるようにもいえず、むしろたまにレキアス来られない日があると寂しく感じる自分がいてフィネリアは不思議な気持ちに驚いた。
これは、どうしたらいいんだろう。