小話4:見つめる先(レキアス視点)
黒い箱の事件があってから、少しだけフィネリアとの距離が縮んだ気がしていた。
彼女には本音や思ったこととちゃんと伝えた方が、彼女もそれに真面目に答えてくれる、そんな風に感じた。隠せば隠すほど彼女には、相手がよくわからなくなって行く。ましてやレキアスの考えていることはオーラで大体わかってしまうのだから、表面上の嘘は意味を為さない。
執務を終えて夫婦の寝室に向かうと、広いベッドの隅っこにフィネリアが眠っていた。今日も遅かった自分が悪いと思いながらも少し寂しく感じてしまう。
彼女の眠るベッドの端に腰掛けて、すやすやと気持ちよさそうに眠るフィネリアの顔を覗き込む。化粧も落としたその顔は、昼間よりさらに幼く見える。起こさないように気をつけながら、レキアスは彼女の頬を指で撫でた。
「起きてたら怒るかな」
つい一人笑い呟いてしまう。昼間だったら無表情で離れるか、少し赤くなって距離を取られそうだなと思う。
正直レキアスは自分に欲が出てきていることを理解している。少しでも仲が良いようにしたいと思ってたところから、フィネリアに少しでもこちらを向いてほしいと思い、そしてもっと触れたいと思う。できればそれをフィネリアからも望んでほしいと思う。
「人は欲張りだなぁ」
自分の気持ちの変化に苦笑する。
見ていればわかるが、明らかにフィネリアは男女間の心の綾などには詳しくない。自分も大して恋愛を語れるような人生を歩んで来てはいない。
こんなに一人の女性を大事に思うことが来るとも思わなかった。それでなくても打算的な政略結婚だ。それなのに、こんなにも大切に思うのは何故なのだろうか。
淡い金色の柔らかな髪を撫でると、フィネリアが少し身じろぎした。起こしたか?と心配に思ったが、小さく寝返りを打ったぐらいで目を開けることはなかった。
しかしその寝返りのせいで、レキアスの目にフィネリアの胸元が目に入る。
(落ち着け自分)
レキアスは誰にも見られていないのに無駄に表面的な笑顔を取り繕って、フィネリアからずれてしまった掛け布を戻す。
戻した後に盛大にため息をついたのは言うまでもない。
「明日はもう少し早く執務を終わらせよう」
そう呟き、レキアスはベッドの空いている側で眠りについた。
フィネリアには素直に気持ちを伝えた方が良い。
会って話す時間を少しでも増やさなければと改めて思うレキアスだった。
小話はクスッと笑えるものをと思ってたんですが、笑いどころは特にありませんでした……。