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小話1:近衛騎士からみた皇帝

サディスの弟目線のお話です。

 オレはノキア公爵家の三男。ノルト=ノキア。


 うちの家はどちらかというと皆よく出来た頭だった。頭脳明晰で知られる2番目の兄は、気づけば今や皇帝陛下の右腕だ。最も信頼されている側近として、常に忙しそうにしているのを皇城で見かける。

 

 でもオレは兄たちのように頭はよくなかった。どちらかというと本を読んだり勉強をしたりすることより、体を動かすことが好きだった。両親には反対されたが、すぐに自分は兄たちと同じ道は無理だと判断して、騎士になることを選んだ。


 先代の皇帝の時は、それこそ戦争ばっかりで、いつ命を落とすかもわからないような騎士になるなんてと両親は嘆いたが、皇帝の代替わりで方針がガラリと変わった。現皇帝はもう戦争をする気はないらしく、全ての戦争や侵攻をやめた。

 血に飢えた騎士も一部はいるが、ホッとした連中が大半だと思う。


 この国には大きく分けて二種類の騎士がいる。直接国の指示、皇帝の指示に従い動く騎士と、土地を守るため領地に属する騎士だ。戦争をしているときは関係なく戦いに向かうことになっていたが、今は大体元の形に戻っている。領地に属する騎士は数は制限されているものの、地元出身の騎士が多く連携が強い。


 オレは元々国に属する騎士で、丁度昨年運良く上級試験に合格し、上級騎士に上がったところだったのだが、突然騎士団長に呼び止められた。


「ノルト、お前は明日から陛下の近衛騎士だ」

「え?近衛騎士?」

「あぁ、そろそろ交代が必要だと思ってたところでな。お前が受かってくれて丁度よかった」


 皇帝陛下の近衛騎士は基本的に上級騎士だけが務めることができる役職だ。しかし、皇帝が騎士並み、いや騎士以上に強いことは有名で、近衛騎士はお飾り状態だと聞いたことがあった。まさかそんな役回りが自分にくるとは思わなかった。

 しかも四六時中陛下の側にいるということは嫌でも兄と顔を合わせることになる。


「頼んだぞ」

 力が半端なく強い騎士団長にバンバンと肩を叩かれると息ができなくなりそうだった。

 

 皇帝陛下とは小さなころに何度か会ったことはある。2番目の兄と仲が良く、昔からよく家に来ていた。ただ、歳が離れていたこともありあまり印象には残っていない。皇帝になってからの姿の方が記憶に新しい。

 

 オレの中では穏やかで優しく微笑んでるだけの皇帝って感じ。やっぱり先帝の印象は強烈で、どちらが皇帝らしいかと言われると圧倒的に先帝の方がそれらしいと騎士目線から行くとそう思う。でも国民や城内の侍女などには人気が高い。ついでに兄の人気が高いのも知ってる。



 翌日朝一に皇帝陛下の執務室に行くと、すでに陛下の姿がそこにあった。当然というべきか、そばには兄が横にたっていた。朝は早いと聞いていたが、騎士団の朝の訓練より早いらしい。

 

「今日から近衛騎士となりました、ノルト=ノキアです」

 そう言って頭を下げると、陛下に優しく微笑まれた。

「久しぶりだね。よろしく。一応私の近衛なんだが、場合によっては皇后についてもらうときもあるから頼むよ」

 そんなことがあるのかと思いながら頷くと横で兄がため息をついていた。

「だったらさっさと皇后陛下の近衛騎士を選んでくださいよ」

「男をフィネリアの側に四六時中置いておくなんて無理だ」

「ノルトなら良くないか。信頼できるだろ」


 その言葉に、陛下がじっとこちらに視線を向けてきて心臓が飛び跳ねる。先ほどまでの優し気な瞳ではなく、何かを見定めるような瞳だ。視線に耐えてドキドキと待っていると、陛下が首を横に振った。


 どうやら皇后の騎士としてはダメらしい。ちょっとショックだ。

「サディスの件があるからな。私よりフィネリアと上手く仲良くなりそうだからダメだ。ノキア家は却下だ」

 どうやら騎士の能力的に問題な訳ではなかったようで救われる。兄はいったい何をしたのかは気になる。

「そんなんだからいつまで経っても決まらないんだよ」

 完全に兄の口が皇帝陛下に向ける口調じゃなくなってて不敬罪に問われないのか見ていてハラハラする。そんな思いが顔に出たのか、陛下に微笑まれた。

「大丈夫だよ。いつものことだから」


 いつものことなのか。それはそれでどうなんだ。

 というか噂で聞いていた、陛下がニジエからきた精霊姫にベタ惚れという噂はどうやらマジだったみたいだ。意外。


「あ、そうそう。注意してほしいことが1個あるんだ」

「何でしょうか」

「皇后に対して『精霊姫』って言葉を使わないように。有名な言葉だと思うけど、良くない意味もある言葉だからね」

 頭の中を覗かれた気がして、無言で頷くしかなかった。陛下はもう一度優しく微笑んだ。

「じゃあ、これからよろしくね」


 その言葉に姿勢を正して礼を取った。

 ただ穏やかなだけの皇帝じゃないな、そんなことを思った。そりゃそうか。 


 そんな感じで皇帝陛下の近衛騎士としての仕事が始まった。

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