閑話4 笑顔の理由
掲載漏れの閑話です。
レキアスは16から18歳までの間を、留学という名目で他国で過ごした。様々なことが受け入れられず、心も荒んでいた自覚がある。
そんな留学中に、自分と似たような立場の人物にであった。留学先での出会い、その時のレキアスの目にはとても彼が眩しく映った。
「なんで、お前はそんなに笑ってられるんだ」
レキアスの問いに、彼は不思議そうな顔をする。心底意味がわからないのか、答えは返ってこない。レキアスはもう一度聞き直す。
「いつも笑ってるだろう。疲れないのか」
レキアスはいつの間にか笑顔を失っていった。母が亡くなってからは特に、苦しいことが多くなった。笑うことができなくなり、感情の起伏さえ拒んだ。
そんなレキアスの主張にも彼は笑って返事をしてみせる。
「何言ってるんだ。笑顔が最強に決まってるだろ。仏頂面したって誰も寄ってこない。恐怖で従えたって、いつか破綻する。なら、最初からどうあるべきかなんて、明白だろう?」
確かに彼の周りは常に人がたくさんいた。だから何故わざわざレキアスの方に話しかけにくるのかはよくわからなかった。
一人でいても話しかけられ、最初は鬱陶しくてしょうがなかったが、だんだんそれもどうでもよくなる。
「お前もいい顔貰ってるんだから、笑えよ。笑顔は、自分の感情や機嫌にも良い影響がある。女子からもモテるし、いいことしかないぞ」
それが、彼の言葉だった。
ふざけた言葉のようにも思えるが、それはレキアスの人生に大きく影響を与えた言葉だった。
帝位を継ぐことになった時、最初に思い出したのは彼の言葉だった。自分はどういう国を作り、どういう君主でいるべきか。
だから、笑顔を選んだ。
――フィネリアは予想外だったんだ。
レキアスはフィネリアと初めて会った時も、あの結婚式の夜もその言葉を思い出して、笑顔でいることをいつも以上に意識していた。
しかし、それにもかかわらず彼女は、こう言った。
「その表情、どうにかなりませんか」
…………、全然ダメだなこの仮面。肝心なところで全然役に立たない。
恨みがましく心の中でそんなことを思いながら、レキアスはゆっくりと歪んで行く仮面を外し、懐かしい友人を心の中で呪った。