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 フィネリアはカリーナを押し切り、レキアスの視察地を彼の行った通りになぞり始めていた。


 必死に止めるカリーナは、フィネリアを1人にしないためについてきているが、まだ止めることを諦めていない。

 フィネリアはこれでも皇后だ。レキアスがいなければ、簡単に止めることができない。



 すでに以前来た穀倉地帯に来ており、レキアスが最初に視察に訪れた場所だ。


「フィネリア様、本当にこのまま行かれるのですか?フィネリア様までもしものことがあったら!」

 カリーナの必死の声にフィネリアは申し訳なく思いながらも、歩くのをやめようとはしない。

 

「カリーナ。陛下は護衛騎士がいらないほどの剣の腕前なのでしょう?そんな方が行方不明になるって、普通じゃないと思わない?」

「それは、そうですが……」

「たぶん、人の力じゃない何かのせいだと思うの」


 フィネリアの言葉にカリーナが押し黙る。

「サディス卿も一緒に視察に行ったのでしょう?カリーナは他に何か聞いてる?」

 その言葉にカリーナが口を閉ざす。

「カリーナ、なんでもいいの。教えて」


 フィネリアの懇願にカリーナは、迷った末に教えてくれた。

「本当に突然消えてしまったとのことでした。地中に埋まっていた、黒い物体の側に寄ったところ、一瞬にして。ノキア卿が一緒にいたらしいのですが、彼が近づいても何も起きなかったそうです」



 何か判別してるの?

 陛下はオーラが強いから、そういうのも関係してるのかしら。



「そう。ありがとう、カリーナ」

 心配そうに見つめるカリーナに大丈夫だと微笑む。


 そうしているうちに一箇所目の場所に来た。穴が掘られたらしく、人が落ちないように周りが簡易的な柵で囲まれている。

 フィネリアはその柵を躊躇いもなく潜り抜けると、カリーナがびっくりした顔で後に続けずにいる。

「カリーナは待ってて」



 フィネリアはカリーナを置いて穴の方に進んでいく。黒い地面に手を突き覗き込むと、真っ黒な四角い物が見えた。フィネリアには、それに仄暗い紫色の靄が掛かっているように見えた。

 レキアスのオーラや、精霊の力に近いものだ。


 闇かな?闇の精霊が作ったにしては人が作ったものって感じだけど。


 精霊のいたずらというものも結構存在する。石や木に精霊がいたずらで力を加えることで、人を騙したり、惑わせたりするということもある。


 ただ、今回は自然のものへ力を加えたわけではない。禍々しい黒い物体に精霊の力が加わっている。



「フィネリア様!」


 後ろを振り返ると泣きそうなカリーナがいた。どうやらフィネリアの真似をして柵を潜ったようだが、慣れていないのか、所々汚れてしまっている。

 慣れているフィネリアの方がおかしいのだが。


「待っててくれてよかったのに」

「そんなわけには参りません!」

 カリーナの真剣な表情に、申し訳なくなる。彼女は本気で心配してくれているのだ。その気持ちに、じんわりと心が温かくなる。


「ありがとう、カリーナ」

「私は怒っているのですよ、フィネリア様!」

 その言葉にフィネリアは笑顔が溢れる。久しぶりに、本気で怒ってくれる人に会った気がした。


「ここは、闇のオーラが見えるけど特にすぐに危険は感じない」

 フィネリアはそう結論付け、すぐに2箇所目に移動する。



 次の場所も深く掘られており、1箇所目と同じような状況になっていた。黒い物体は紫色の靄がかかり、嫌な雰囲気はあるものの、すぐにどうにかなりそうな危険性は感じなかった。

「陛下が消えた場所に行きましょう」



 馬車で3番目の場所に向かう頃には、辺りはすっかり日が落ちていた。オレンジ色に染まる空を見ながらも、フィネリアは自分の行動を止める気にはならなかった。


 3番目の場所には近辺の捜索をするために、大勢の側近や、騎士たちが残っていた。フィネリアがその場所に降りると、すぐにサディスが現れる。


「皇后陛下、申し訳ございません」

 サディスの顔色は良くない。

「陛下の消えた場所に案内してください」


 フィネリアの言葉に、サディスはちらりと後ろに控えるカリーナを見たようだったが、カリーナは諦めたのか何も言わなかった。

「わかりました。ただ、一番近くまでは近づけません。少し離れたところから確認してください」


 サディスは、周りにいた騎士たちを遠ざけ、フィネリアが通れるようにしてくれる。サディスの案内に従い歩くが、フィネリアは不気味な紫色の粒子が浮遊するのが目に留まり立ち止まる。


 何これ?


 そう思いながら手を伸ばし、捕まえてみる。紫色の粒子を手に取ると、まるで雪の結晶のようだったが、手のひらから何が奪われていく気がして、慌てて手を離す。


 その粒子が進む少し先を見ると、大量の同じ物が見えた。しかも、紫色の靄が渦を巻いている。よく見ればこの先には、先ほどから見てきた黒い四角の物体と同じ物が地表からわりと浅い部分にあり、既にそれが見えた状態だった。


「他と様子が違う」

 フィネリアは完全に先に進むことをやめた。


「どうされました?」

 サディスにはこの異様な光景が見えていないようだ。フィネリアは強い闇の精霊の力を感じて、近づくべきか迷う。


 あの渦は、黒い箱の中に向かっているわ。近づいたら……。


 そこまで考えたところで、はたと思い出す。


「サディス卿、陛下はあの物体に近づいて、突然消えたのですよね?」

「はい。一瞬のことでした」

 サディスは非常に悔しそうに頷いた。本来あってはならないことだ。



 フィネリアはしばらく、黒い箱のような物体と、渦の様子を離れた場所から眺めた。紫色の粒子と、紫色の靄の中、一瞬だけ別の力が見えて、フィネリアは目を凝らす。


「シルファ!」


 思わずそう呼びかける。周りの騎士たちは不思議そうな顔をしているが、そんなことは気にしない。


「シルファ!!」

 そう呼びかけると、紫色の靄のなか、黄緑色の別の力が一瞬過ぎる。


「やっぱり」

 ただ声を返すことができないのか、声は聞こえない。

「吸い込む一方みたいだから、こっちに声が届かないのかしら」


 順番に巡ったこと自体は問題ではなさそうだと思い安心した。ここの黒い物体だけが本来の状態と変わってしまったのではないかと推測する。


「これ以上近づくと私も吸い込まれそう」

 そう小さく呟くとサディスがその言葉を拾い上げる。

「吸い込まれる?陛下はあの中に吸い込まれたんですか?」

「恐らく」


 しかし、物体の大きさはせいぜいフィネリアの片腕の長さぐらいの四角形だ。物理的には一致しない。

「中はたぶん、見た目通りの空間ではないと思います。サディス卿は近づいても吸い込まれませんでした?」

「陛下が消えたときにすぐに近寄ったのですが、何も起きませんでした」

「そうですか」


 判別してると言うより、本来の機能がすでに壊れちゃってるのかしら。


 そんなことを思いながら、どうすべきか迷う。外から破壊するのは、中への影響を考えると危険な気もする。


 あの渦を逆にするには?

 中にいるシルファだけじゃ足りない気がする。



「サディス卿、私も中に行きますね」

「え?」


 そう言ってフィネリアが数歩進むと、黒い物体から随分と手前の位置で彼女の姿が消えてしまった。


 後には青ざめたサディスとカリーナが残された。

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