事象
小一時間眠って起きると女はベッドのすぐ隣にある丸いこたつ机でパンをかじっていました。男の起床に気づいた女は一つ口を開き「最後の朝食。食べる」とパンを渡しましたので、快く受け取り、かじりつき「おいしい」と言うと、女は微笑みます。
弊害がなくなったように、異常な興奮を覚えた男はズボンの上から股間を掴み、深呼吸しますが、女は追随して「はは、変態野郎」と囁きました。
その夜男は思いが交差してどうしても眠ることが出来ませんでした。あの時女は「答えが見つかったら一週間後同じ時間においで。君が警察に行こうが勝手だけど」と言い残し去って行きました。すぐに警察に行けば良いのに、男はその選択肢をすでに消していることに気づく事はなく、次の日。そして次の日もその次の日も、一週間経ったが何も答えは出ず、殺すためでは無いと、答えを知るためだと自分に言い聞かせ、約束の場所へと向かいます。路地裏に入りまっすぐ進み曲がり、そしてまっすぐ進み曲がりましたが、そこには誰も居ません。男は急に怖くなり、走って帰ろうとしたそこに女が立っていました。「答えは出た」と聞きますが、数秒のタイムラグと共に首を横に振ります。その途端女は男を睨み付け「来て」と言い、手首を引っ張り、その瞬間男は抵抗しましたが、すぐに自分の足で前に進み、女の家まで連れられました。「だれもいない」と意味深な言葉をつぶやいて、招き入れられます。2階建ての一般的な家です。二階の女の部屋らしき場所に連れられ、そこには衰弱した大型犬一匹と猫が二匹ベッドの上とそのすぐ下の床で寝そべっています。「虐待じゃないよ。ここにいるのはすべて拾ってきたの。すでに焼失していて死にかけだった、私が拾わなきゃ死んでいた。だから安心して」という女の発言につい正当化しようとした自分がどこかにいた事に不安を感じましたが、男は考えを改め「そんなことは理由にならない」と言い返します。おんなは笑って「まだ何も言ってないけど」と言うと続けて「でも正解。殺して良いよ。だれにも見つからない。だれもいないよ。」と耳元も囁かれた男は洗脳に近いようで一瞬正義が分からなくなりますが、自我を取り戻します。
「俺は君みたいな人間ではない」
途端に頬に強い痛みと共にそれに追随して銃の発砲音のような音が脳に反芻して響きました。一瞬意識が飛び、何が起きたか分かりませんでしたが、現状把握をするとすぐに気づき、簡単に言うと頬をはたかれたのです。
「殺せよ、さっさと殺せよ。君は怖いんだ。でも目を逸らしてばかりではいつか爆発する。」
「なんで。なんでそんな事が分かるんだよ」
「だって私も同じだから」
それを聞いた瞬間、押し殺した欲望が解放され、無意識が意識になっていままでたまったモヤモヤが解消されたようで大変心地よく感じました。それでも理性の最後の一本が引き留めてくれていましたが、それも時間の問題でこの異様な空間と女の言葉が最後の紐を引きちぎって「分かった。殺します」と言ってしまった自分を幾度も後悔することになりますが、すでに時遅し、本能の暴走が始まったのです。僕は何で生まれてきたのだろう。何のために。社会に何の有益にもならない有害な存在なのです。神様どうして僕は生まれてきたのですか。ただこれだけは言えます。僕の人生の目的は幸福であること。僕は女に刃物を渡されます。今僕はどんな顔をしているだろうか。上手におびえているだろうか。その時の顔を知る由もありません。何をどうしたのか覚えていませんが、本性をむき出しに、射精に至った事をいつまで経っても忘れることができないのです。




