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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
99/605

ブランド野菜

本館から管理棟へ戻る途中。

「リオさん?」

と声をかけられた。以前レイカがミリィと呼んだ女性だった。

「はい、お久しぶりです。ミリィさん」

挨拶すると、ミリィは朗らかな笑顔で挨拶を返す。

「レイカは元気にしてますか?寒がりだから気になって。寒さが厳しくなってからは会えてないから。」

「あー、完全防備で寒いと何度も叫んでました。」

「元気そうでよかった。」

「あの、私に御用ですか?何かレイカに言付けましょうか?」

「あ、ごめんなさい。さっきね、出入りの商人さんが来ててシノノメの貴重な野菜が手に入ったから魔法省職員で黒髪で無表情のお嬢さんに渡してほしいって。他の方達は誰の事か分からないようだったけど、私はリオさんかなって思ったから受け取ったの」

手提げ鞄から野菜の詰め合わせ袋を取り出す。

「よくわかりましたね。ありがとうございます」

出入りの商人とは謹慎中に知り合い、その後もタイミングが合えば買い物をしていた。陽気なおじさんで、野菜の調理の研究に余念がないと話していた。子どもが野菜嫌いで、毎度の献立に困るようだ。意気投合して、調理方法を話す仲になった。

「だって、レイカがよく話してくれるもの。無表情と中身の違いが面白いんですって。あと問題児?今週のリオさんはどうだったとかこうだったとか」

レイカは私の無意識の気障な行動もミリィに話していた。

他人から聞く自分の姿に恥ずかしさが込み上げてくる。

「もういいです。大丈夫です。」

恥ずかしい。

「ふふ、ありがとう。レイカがリオさんのおかげだって言ってたわ。私も感謝してるの。」

以前のレイカは生きる屍だったからと言うミリィは思い出したのか辛そうだった。

「レイカさんを助けて下さってありがとうございました。ミリィさんは恩人だと言ってました。恥ずかしいから絶対言うなと言われているんですけど」

「私も恥ずかしいから絶対言うなって言われてたわ。内緒ね」

「はい」

それじゃあねとミリィと別れ、管理棟へ戻る。

シノノメの貴重な野菜か、調理してアランに食べさせよう。特徴があるなら事前に知れた方がいい。

食べ物の好みの違いは結構辛いらしく、冬の間のジュリエットは朝、食堂で昼の分まで包んでもらっているそう。

レイカほどではないけどジュリエットも寒さには弱い。

疑問に思ってローブの温度調整の術式を使えばいいのでは?と聞いたら消費魔力が大きいし、基本的に温度調整は非常時に使うものの認識があると言われた。

そこまで魔力消費したっけ?と思ったけど口に出していいのか判断がつかなかった。

元々の魔力量に違いがあるし、私はローブの温度調整術式に更に足して改造してるので黙ることにした。

因みに私は毎日使っている。

「ただいま戻りました。」

「おかえり。なにその袋。」

丁度朝の家事を終えて勉強を始める頃合いだった。

「途中でミリィさんから渡されました。出入りの商人のおじさんから私宛のシノノメの貴重な野菜だそうです。手に入ったからと」

「野菜やー」

クリスが一目散に逃げだした。その後をオスカーが追っかける。そんなに嫌なのか。

ニコルもアランも興味深そうにこちらをみる。テーブルに袋の中身を出していく。出てきたのは至って普通の野菜だった。

普通といえば普通だが、ちょっとだけ異世界人は戸惑う。

ラドは見た目と味は人参だが、色は紫。

オーニオは見た目はかぶ、味は玉葱。

ジャモは見た目はアボカド、味はじゃがいも。

ドドーヌは形と味はカリフラワー、色が黒。

マノンは見た目とうもろこしで、味が栗。

これらの野菜はこの世界では一般的だが、違和感が凄い。

でも他の野菜に変な物はない、クラリスの記憶にあった生姜はそのままだった。

「あれ?」

「貴重な野菜って言ってなかった?」

「あー、緑子様の育てた野菜はみずみずしくて新鮮さが長続きするのが特徴で甘味も強く苦味が少ない。是非食べて感想を聞かせてほしいって手紙が入ってました」

「へー、有名農家が作った『ブランド野菜』ってとこ?」

「そうみたいですね。」

野菜を袋に戻す。

「ニコル先輩、調理してアランに食べさせようと思うんですけど」

「?なんでだ?」

アランが不思議そうに尋ねる。

「シノノメでこの野菜が一般的かはわかりませんが、近い味の野菜が流通してた場合、味を知っておくと向こうに行く前に必要な調味料とか用意できるじゃないですか。あっちに行ってから、探すよりかはいいかなっておもったんですけど」

「うん、なるほど。食の好みの大切さはジュリエットさんが教えてくれたからね。食堂で昼食の後使えないか確認してごらん」

「はい」

「じゃあ、勉強を始めようか」

「野菜やーなの」

クリスを連れてオスカーが戻ってくる。

「スープに入ってる野菜は食べてるのに?」

「レイカとアランがぷんぷんだから食べてるのよ。残したら二人共怖いの」

クリスの言葉にレイカがにこっと笑った。

「レイカ、違うよ。えいよーまんてん、だから食べてるよ」

その笑顔をみたクリスが必死に言い直してるのが可愛かった。

アランとレイカの勉強している内容が難しくなってからは、クリスの勉強は別々に行なっている。

「動物の名前を覚えよう」

「はーい。くまさん」

クリスは熊が好きらしくいち早く「くまさん」を覚えたそう。テディベアをもっているらしい。

動物図鑑をめくりながら、発音していく。向こうにいた頃の記憶はあまりないようで、見たことないと大はしゃぎだった。

お昼まで、図鑑を読みながらクイズをだしたりして、動物の名前を覚える。

「ピンポーン!」

愛称から鳴き声まで色んな動物の勉強をした。

お昼を食べながら、クリスが覚えたてのクイズを出題していた。

「これはなんでしょー。ニャーニャー」

ニコルとジュリエットが可愛さに悶絶している。

アランはいつもと変わらず、おしゃべりしてないでちゃんと食えと世話を焼き、レイカは

「猫ね」

淡々とクイズに正解する。そして

「耳が長くて、ミューミューと鳴くのは?」

出題までする。

「うさぎさん!」

「正解」

「おい、レイカまで。ご飯食べた後にしろ」

「はーい」

「ふわふわしてて、なでなでしたいなぁ」

クリスは言ってから、口を押さえる。思わず口にしてしまったようだ。アランがクリスの頭を撫でて、

「今度猫連れてくるから、」

慰めている。わかりづらいけど。

「ほんと?」

「ああ」

ぶっきらぼうな物言いだが、耳が真っ赤だ。

「わーい」

クリスは満面の笑顔で喜ぶ。ニコルとジュリエットが拝み始めた。それを隣りでオスカーが楽しそうに眺めている。



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