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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
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半魔獣

半魔獣の中間報告書を読んだ後、すぐにジャックへの面会依頼を出した。即刻受理されて、翌朝局長室で向かい合う。

「本当に申し訳ございませんでした」

謝罪の礼ではなく、土下座に近い、テーブルに頭がぶつける程低頭して謝る。

完全にやらかしてる。

あの半魔獣を追求していったら、加護障害を起こす人達が実験体になりかねない。

危険な内容の報告書だった。

「いや、リオさん。頭を上げてくれ。実験に賛同したのはフレッドと私だ。我々が想定すべき事だ。すまなかった」

魔獣が出来る過程、高濃度魔素に晒される事で変化する。が、今回の半魔獣はその過程を経てない可能性があると報告書にはあった。

体内の魔素量が普通の動物と変わらないのだ。

魔生物局で飼育されている魔生物の体内の魔素量は野生の魔獣と同じだ。

魔素に晒されていない可能性があるなら霊素ではと考える研究者がでてくることを否定できない。

「局長は加護障害はなんだと考えていますか?」

付与された霊素だと私は思っている。

「精霊ないし眷属から付与された霊素の余剰分かな。加護に変換出来なかった分と考えているよ。君の場合は、グラッド君の報告にあるような表現を鑑みるに霊素自体も闇属性を持っている。」

「霊素に属性はないのですか?」

「一般的には属性はないが、一部それを否定するような論文もあるから、ある特定の状況下では付属すると思っている。」

「なるほど」

「加護や加護障害の情報は殆ど神殿が管理している。忌々しい事にな。別に隠匿している訳ではないから、神殿を訪れればいいだそうだ。なら、我々に開示してもいいだろうに」

「神殿に行って書き写せってことですか?」

「膨大な情報があるからな。まぁ、大分書写は進んでいる。あそうだリオさん、君は絶対に神殿には行かないこと。」

「危険なのは知っていますが、一応理由を聞いても?」

「神殿には加護属性を計測する為だけの部屋がある。そこに入ったら自動で加護を計測される。君の意志は関係ない。誤魔化しも効かない。もしかしたら、神殿に入った時点で計測されているかもしれない。だから、絶対に駄目だ。」

「わかりました。クラリス様は計測用の魔道具を握ってましたが、」

「あれはカモフラージュ。」

「え、じゃあ何でわかったんですか。」

「君、私の事誰だと思っているの?」

「魔法省魔導局局長にして、名門ラングストン家の当主様です」

「よろしい。これでも莫大な権力を持っているからね。下手したらフレッドより持ってるから」

そういうことで納得するようにと念押しされる。

「それ言ったら、サイス領出禁になりますよ」

「わかってるから言わないけど、君は結構こういうの疎そうだからわかりやすく言ってみただけだよ」

「ありがとうございます」

「それで、話を戻すけど」

半魔獣について再度確認をされる。

魔力で包んで、捕獲。

その後、守り石を外したら気絶、それから魔獣化が始まった。守り石をつけたら魔獣化が止まった。ミラは変化が完了しなかったのは予想外だと言っていた。

「ミランダ嬢は動物の死骸が魔獣化するのを目撃してるからな。魔生物界隈では有名人だ」

「本にも載ってました。」

魔獣化は一気に進むと読んだ記憶がある。

「今回の変化の要因はなんだろうな。属性のついた霊素か、魔力と霊素の組み合わせか、はたまた両方か。別の要素か?」

「その霊素と魔力の組み合わせで魔獣化が完了したとしても体内魔素量って、普通の魔獣と同じになりますか?」

「ならないだろうね。特殊個体というしかない。」

報告書には変化要因が不明瞭の特殊個体と記されていた。渋々特殊個体とした感じが報告書から伝わってきた。

「発生は特殊でしたが、他の魔獣と同じような変化をさせられないのでしょうか。このまま研究が進めば、気づく研究者も出ると思います」

魔力で包んだのに体内魔素量が変わらないなら、どうすればいいのか。

「うーん、そうだな。魔素濃度をあげても駄目だからな。リオさんは普通の魔力で包んだんだよね」

「はい。属性特化魔法は使用していません」

ジャックは考え込む。

「ならあと試していないのは、……闇属性を付与した魔素に晒すか?」

「魔素は属性ないですけど、霊素と同じく属性がつくんですか?」

「空気中を漂う魔素には属性はない。加護を持つ人や動植物の体液には魔素が含まれている。それには属性がある。あの兎魔獣は闇属性の耐性が特にない種だからな試してみるか。魔生物局局長に、話してみよう」

「お願いします。」

その他にも報告書には、幻獣ではないかとか、属性神の眷属の可能性、精霊そのものでは?と様々な説が書かれていた。

申し訳ない気持ちでいっぱいです。

と言うと私もだとジャックが同意した。

「あ、そうだった。局長、実は報告をすっかり忘れていたことがありまして」

「今度はなんだ」

ジャックが身構える。

「謹慎中に各施設をウロウロしたんですけど。その時にですね。魔生物局に行った時に闇属性のない魔獣に怯えられまして、」

魔生物局の飼育棟は魔獣の檻の前に種族名や性質などが書かれたプレートが貼られている。

「……」

「闇属性持ちの魔獣には威嚇されました。勿論守り石はつけたままです。姿を隠す魔法は使用してました。魔法の程度を変えて試したんですけど最大にした時だけ反応がありました。」

「何で忘れたの?」

もっともな疑問に胃が痛い。報告を忘れるとか。

「……あの日、魔生物局の後に魔術式局に行きまして、」

「あの開発中の術式を見つけた日か」

あの日は寮の部屋で一人大興奮して、めちゃくちゃメモした。

「はい。あれで興奮して、メモを紛失してたんですけど昨日、ベッドの下から出てきたのを見て言ってないことを思い出しました。すみません。魔生物局は危険って思った事と魔法の程度変えたりしたことをメモしてたことは認識してました。」

今思い出しても不思議だ。メモしたらスッキリして忘れてた。見学リストには済みの印が入っていた。

実験した感覚、それを書いたことを覚えているから、リストを見ても気づかなかった。

「昨日か、」

背中を嫌な汗が流れる。

「はい、昨日気づきました。」

丁度報告書を読み終わり、明日は局長に面会依頼出さないと寮のベッドの上で考えていた。どうしようと焦りが膨らんで頭を冷やそうと窓を開けた。冬の終わりとはいえまだ寒い。風が吹いたので、寒さに驚き慌てて閉める。ベッドの下から紙が出てきた。

「もしかして、クラリス嬢の記憶より召喚以降の記憶で違いがある?」

ジャックが考え込む素振りをみせ、そう尋ねる。

前からちょっとした違和感はあった。でも、あまり気に留めてなかった。

「クラリス様の記憶は、基本的に鮮明で何度でも思った通りにみることが出来ます。でも、私の記憶は、曖昧なところもあって普通なんですけど、クラリス様との記憶との違和感はあります」

「そう。入れ替わり召喚の記述にもあったから確認しただけだ。身体の持ち主の記憶は本のように閲覧するもので、自分の記憶は記憶らしいものだと。人は全ての出来事を覚えておくなんて出来ない。忘れたり、衝撃の強い記憶に塗りつぶされたりするものだ。気にしないでくれ。」

「はい」

「それにしてもあれは確かに興奮したな。魔術式局局長に話を振ってもとぼけるし進捗が気になってたんだ。」

揺さぶりをかけられたから助かったと笑う。

「半魔獣の所では試した?」

「いえ、警備が厳重だったので」

色んな魔道具があちらこちらについていて危険な匂いしかしなかったので、断念した。

「そうか。召喚課で見学ができないか打診しておこう。」

「助かります」

「君を見ただけで怯えるかもな」

ニヤリと笑うジャックの言葉が冗談に聞こえない。

「想像できるので、やめて下さい」

「属性特化魔法でも影響があるのか。面白いな。魔獣や動物が敏感なのかもしれないが」

「だといいです」

「他に忘れていることとかないかい?聞きたいことでもいいが」

ぐっと言葉に詰まる。ちょっと考えて、疑問を口にする。

「神殿が加護についての情報を独占する理由ってなんですか?」

「有望な研究者を取り込みたいようだ。『ミイラ盗りがミイラに』を狙ってる。情報がそこにしかない、なら知りたい人間は情報がある所に集まる。戻って研究するよりも神殿に留まって研究すればいいと唆し取り込む。純粋な好奇心だけならいい。倫理観無視したとんでもないことしでかす阿呆もたまにいるから気が抜けない」

その点上手くやれてるのは、コランダム、シノノメ、サイスで見習って欲しいとぼやく。

コランダムとシノノメは神殿の研究成果や人材を軍や領が買い上げる。研究場所は神殿、所属は別の人間を増やすことで自浄作用をあげた。

サイスは他領より神殿の役割が多岐に渡っている。そのため様々な人間が出入りできるようにして、隠匿を防いでいる。

王都含め他の神殿の愚痴がつらつらと出てくる。

辟易しているのが伝わってくる。

「報告書にあった幻獣って本当にいるんですか?」

「古い文献にしか記述がないからな、本当の所はわからない」

「御伽噺の域をでないということですか」

「幻獣を調べている職員もいるが、成果はないな」

「そうですか」

その他二、三質問をして局長室を後にした。


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