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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
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仮説

後日魔術式局局長から菓子折りが届いた。

それ以降変わった事はなく、冬の寒さが緩んだ頃ニコルが一週間寝込んだことがあったくらいで、至って平穏な日常が続いた。

「そろそろ、外回りの任務に戻ろうと思う」

とヒジリが宣言したのは、冬の終わりが近づいてきた頃だった。

今年の冬は変なことが目白押しだったから、休暇をしばらく延ばしていたが、特に問題なくなったとの判断だそう。

「僕は春の始まりまでは、休みをとります。」

オスカーは春まで残ることになり、ヒジリは宣言の二日後、外回りの任務へ早くも出かけていった。

春の始まりには、アランの研修旅行も決まった。

ジャックお手製の試験をアランが自力でクリアできたため、オスカーが提出していた申請が通った。

試験内容を見て召喚課全員で震えた。

本当によく合格したと思う。

「リオ、ここはどう書くの?」

レイカは、あの日以来オスカーから課題をもらっては私を教材に甘やかしたり、世話焼いたり、難度の高い資料を読んだりしている。綴りや読み方を教える事が増えた。

「こう、です」

「ありがとう」

真剣な表情で勉強するレイカは活き活きしている。

「なんですの?これ」

術式管理地図をみていたジュリエットが声をあげた。

ニコルが、直ぐに近づき何があったか確認する。

「オスカー先輩、リオさん、あとレイカもちょっと来てください」

術式管理地図の所に集まる。地図の一点を見てオスカーが、苦々しい表情で呟く。

「やはり始まりましたか」

「リオさん、ジュリエットさん、レイカ。地図のウパラ領の一部黒くなっているのが見えるね。あれは、魔障発生地域に設置した魔素濃度探知魔道具を表している。それが、黒くなったということは、壊れた。つまり」

ニコルが指さした箇所が黒く変色している。

「魔障が始まった」

私の言葉に、オスカーが頷くと

「そう。ニコル、急ぎ局長に連絡。各領へ通達。」

指示を出す。

「はい」

ニコルが急ぎ出て行った。

「オスカー先輩、魔障が始まるのがわかっていたんですか?」

さっきオスカーはやはりと言った、それが引っかかっていた。

「この冬の終わりに発表する予定の仮説があります。」

「仮説、ですか?」

「情報が少なくて、集めるのに時間がかかりましたが、やっと仮説として発表できるだけの情報を集めることができました。転移者の発見数と魔障発生時期の関係性です。」

「どういうことでしょう?」

ジュリエットは首を傾げる。私は何となく疑問に思ってたことを思い出す。

「リオさんは、転移者の年間発見人数の資料はご覧になりましたか?」

「はい」

「国内の発見人数がゼロの期間が一年位続くと魔障が発生すると仮説を立てました。魔障発生中も転移者は発見されません。」

「三年連続ゼロの年があったのは、そういうことでしたか。サイス領の魔障発生時期と被ってたので、引っかかってたんですよね」

なるほどなと納得する私の側でジュリエットとレイカがこそっと話していた。

「何でサイス領の魔障発生時期を知ってるのかしら」

「彼氏がサイス領なんじゃない?」

「彼氏、」

「婚約者いるらしいわよ」

「あぁ、やっぱりあの指輪はそうなんですね。羨ましいですわ」

小声過ぎて聞こえない。

「あの、何の話を」

「なんでもないわ」

なんでもない顔じゃないんだけど、と言うと二人は咳払いして誤魔化す。

「オスカー、これからどうするの?魔障って危険なんでしょ?」

「いや、僕達に出来ることはないからね。いつも通りに過ごす。じゃあ勉強に戻ろうか。ジュリエットさん、引き続き宜しく」

「かしこまりました」

席に戻って、勉強を再開する。気になっていたことを聞いてみた。

「オスカー先輩この仮説ってどなたの説なんですか?召喚課で調査してたってことですか?」

「これはね、ヒジリが十年かけて調べたんだ。魔障発生時期は各領で保管されている情報で開示義務は基本ないけど、王都、コランダム、サイスは大規模だから自主的に入領制限を出す。その履歴から時期を割り出して、ウパラやマウリッツは噴火や入山規制の時期を調べて。途中からは僕も参加したけど、大変だったよ」

魔道具の開発、設置許可。地図との連動。

外回りの任務の合間に調査して、あまり怪しまれないように少しずつ情報を集めた。

僻地やリーベックとシノノメにいる間は調べられないし、その他の調査もある。

「ヒジリってもしかして凄い人?」

「普段の姿から凄さは想像できないけどね」

レイカが意外過ぎると驚く。

しばらくすると、ニコルが戻ってきた。何故か眉間に皺が寄っている。手には大量の書類を持っていた。

「半魔獣の中間報告書を局長からオスカー先輩に。」

「ありがとう、ニコル。うーん、どうなったのかな。」

「ニコル先輩。なんでオスカー先輩に、なんですか?」

「僕は魔獣退治歴長いからね。何か気づくなら、実際対峙する人間だってことだろうね。後コランダム出身だし」

「そういうこと」

大量の書類を凄い勢いで捲っていく。

一通り目を通したオスカーは立ち上がると、この場をニコルに任せて

「散歩してくる」

と出て行った。

一体何が書かれていたのか。

「ニコル先輩、後で私も読んでいいですか?」

「ん、持ち出し厳禁だから、この部屋の中だけでなら構わない」

「半魔獣、か。どんなものなんだ?それ」

「兎が魔獣になりかけてるって感じだよ。」

アランの問いにニコルが答える。目線から、喋るなと言う空気を察して黙って聞いている。

アランに出された試験の中に、魔獣の事を勉強するというものがあった。

それを知ったアランが私に

「これリオさんが関わってる?」

と尋ねたのを複雑な気持ちで否定したのを覚えている。

「魔獣ほど凶暴性はないし、縄張り意識もない。魔生物局で飼育している魔生物と似た性質をしていると初期報告にはあった。」

「魔素循環器に何らかの欠陥があるってことか?」

「お、いい線いってるんじゃないかな?僕もまだ読んでないから推察だけど。アランも報告書読んでいいよ。」

まだ顔色は悪いけど、アランは魔獣の事を調べたり、話したりすることが出来るようになった。

「わかった。読んでみる」

動物に触るよりかはマシと呟く。

召喚課全員が震えた試験内容その2、動物を触る。

難度は五段階、四段階までクリアしたら合格。

兎、猫、牛、馬、犬の順で馬までは触れた。

その挑戦の中で、アランの触れない範囲が明確になった。

犬科の動物、顔立ちが犬科を彷彿とさせる動物がはっきりと駄目だった。

むしろ猫より馬の方が怯えは少なかった。

今は天気の良い日に乗馬訓練をしている。他領へ行くなら必須技能だそうだ。

馬は、可愛いと呟いてたのを、こっそり聞いてしまったことがあった。怒られそうだから、黙っている。

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