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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
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因縁の仲

その日の夕方。

局長から呼び出しがかかった。

昨日の冒険者の報告だった。

局長室に入ると、ジャックとヒジリがお茶を楽しんでいた。側務めはいない。

「ご苦労様、こっちにかけて」

「はい、失礼致します」

「じゃあ報告しますね。」

ヒジリの報告によると、依頼者は魔生物局副局長。依頼内容は冒険者ミラについての細かな情報と交友関係の調査。依頼主の要求する情報が足りず、依頼自体は取り下げられている。

昨日はウォルター工房の再調査に訪れ、女性が入って行くのを見たので聞き耳を立てていた模様。会話からミラの知り合いと推定して尾行した。

「ウォルター工房になんの用だとさんざっぱら脅しといた。ミラよりもウォルター工房の関係者だという印象は植えつけられたと思う。」

「ありがとうございます」

「リオさんは私と魔生物局副局長の話を盗み見してたから知ってると思うけど、あの人の背後にはウパラ侯爵がいる。あの狸爺は元々魔導局とは因縁がある。今回の事も色んな事が重なったが故の嫌がらせだと考えている。不運は関係ない。いいね?」

「はい」

不運は関係ない。はっきり言い切ったジャックに頷く。

「ただ、君はウパラ侯爵から目をつけられないように。注意すること。」

「目立たなければいいだけさ。私は目立つからそう言うのは無理だけど」

「ヒジリは何もしてないのに、目をつけられましたからね」

「全くだよ、あの爺。」

ウパラ侯爵の孫から求婚されたけど身分差も甚だしいと断った。至極当然な理由だ。

何故か、それ以来目をつけられている。

「え、それ無理じゃないですか?私、サイス領の人間になるんですよ?魔導局所属でサイス領なんて、目つけられるに決まってるじゃないですか」

「気づいたか」

「気づきますよ!」

「取り敢えず冬の間は気をつけよう」

「はい。」

ジャックは疲れた顔をしていた。

さっさと代替わりすればいいのにと悪態をつく。

「じゃあ、帰るか。リオ、送ってく」

「あ、ありがとうございます」

局長室を後にして、寮までの間。こっそり因縁について教えてもらった。勿論防音の魔力壁を発動させる。

神殿で不当に行われる実験や研究を摘発する仕事が魔導局騎士課にはある。大体それを率いるのはジャックの役目だ。数年前、ウパラで大規模な摘発があり、侯爵の関与が疑われる事件があった。それ以降仲は険悪だという。その事件の内容が、人工魔獣の製造。

「今回の魔獣擬きはウパラでの事件に関わった研究者なら垂涎の代物ってわけ。だから、本当に侯爵が関わっていたならこの件にもしゃしゃりでてくる可能性があると局長はみている。魔生物局副局長のおっさんはさ、長い物に巻かれたい願望がなければ有能な研究者なんだけどな」

「何故、魔獣を造りたいんですか?」

「安全に造って飼育して、人の言うことを聞くなら対魔獣兵器にしたいんじゃないかと局長は考えている。後はウパラ領は流行の発信地を目指していて、実際に様々な流行を生み出している。だから物流効率化の為に馬の代わりに?とかも考えた。魔障発生地域ではあるが、魔獣被害が少ない。騎士の数、質もそこまで高くない。だから、騎士に代わる物を考えたのでは?という推察もある。魔獣被害の多い王都やコランダム、サイスからしたら片腹痛いってとこ。魔獣の恐ろしさをしらないからできる暴挙でしかない」

指折り数える。確かではないが、恐ろしいことだ。

サイス領で魔獣関係の本は大分読んだ。その生態や性質。中には魔獣を懐柔出来れば被害が減らせるのでは?と考えた学者の本もあった。

それは同種動物を襲わない性質に着目した研究だったが、結論は実現不可。

凶暴性と縄張り意識が強すぎるためだ。

人に飼われた動物を同種魔獣の群れに近づけると攻撃されたことが決め手になった。そこからどうしても懐柔出来なかった。

魔獣を造る?

「なんて馬鹿な研究を」

危険極まりない。神殿で行われていた研究がもし、成功して魔獣を造れたとして。街に出たら、どんな被害がでていたか。

「相容れない考え方ですね」

「まったくだよ」

魔生物局のような設備もなく、やることじゃないわとヒジリは呆れた声をだした。

魔生物局では魔生物の飼育を行なっているが、飼育されている魔生物と野生の魔生物とでは完全に異なる点がある。

魔素循環器が一部破損しているということ。

飼育されている魔生物は全て魔素循環器が一部破損している。その影響で凶暴性が抑えられているそうだ。

完全に破損すると死ぬので、出会ったら迷わず胸のあたりを狙って下さいとミラには言われている。

基本は動物なので呼吸器を破壊するのも有効だ。

ただ死骸から魔生物に変化したものには関係ないので、一番は魔素循環器だと教わった。

「はーい、到着。じゃあ、またな」

「ありがとうございます、ヒジリ先輩」

寮の部屋に入り、灯りをつける。

いつもと同じように部屋全体に魔力を走らせる。自分以外の魔力反応があれば違和感があるとミラ直伝だ。

多分局長も似たような原理で私に気づいたのだと思う。

違和感がある。

そんな時は、慌てず騒がず服の術式に魔力を通しつつ、いつも通りに行動する。

『状況確認』

姿を隠す系統なら闇属性特化の魔力を走らせると破れるが、まずは違和感のあった地点から距離をとる。

部屋窓側の天井付近。

台所へ移動して、いつもと同じ行動をする。

手を洗う、うがいする。

『属性特化魔法使用』

属性特化の魔力を部屋全体に走らせる。違和感のあった地点に魔力人形が現れる。

それめがけて、闇属性特化魔法を使用する。

魔力吸収という魔法がある。使用者からの接続を無理矢理切り、魔力解除の出来ない状態にする。同レベル以上じゃないと抵抗出来ない魔法ですと悪い笑顔のミラを思い出す。

更に視界を奪う魔法も追加する。

『相談』

取り敢えず局長に相談だ。

帰ってきたばっかりだが、本館へ戻ることにした。

姿を隠す魔法や影を消す魔法を総動員して、本館の局長室へ向かう。

ドアをノックして、中へ入る。

ジャックが険しい顔でこちらをみている。

自身にかけた魔法を解除し、寮の部屋に現れた魔力人形について相談する。

「ミラ嬢の教育が、本格的すぎて若干引いてるよ」

「これ、どうしましょう。」

「ああ、そうだな。」

これの上に乗せてくれと、ジャックが分厚い本を用意した。本には『魔力簿』と書かれている。

本の上に捕らえた魔力人形を乗せる。

「魔法は解除しますか?」

「いや、そのままでいい。万が一視覚が繋がっていたら余計な情報を与えたくないから」

「聴覚は大丈夫なのですか?」

「ああ、そこに関しては君がそれを見せた時から封じている」

話をしている間に本に変化があった。魔力人形を飲み込むと勢いよくページが自動的に捲られる。

そして、とあるページを開いて止まった。

「なるほど、ボルス・セイヤンツ、魔術式局局長の魔力人形か。」

「魔術式局局長、ですか?なんで」

ジャックは眉間に皺を寄せ、言いづらそうに口を開く。

「彼はな、魔術式局を運営できる人材を探しているんだ。年中と言っても過言ではない。偶に、やり過ぎる」

「それが、今日のこれですか?」

「ああ。私から苦情を入れておく。すまなかった」

「わかりました。でもどの程度覗くつもりだったんでしょうか。気づかなかったら、……着替えとかも覗かれた可能性ありますよね」

「その通りだな。ただ彼の弁護を一つ許されるなら、顔の確認だけで退散したはずだと言わせて欲しい。」

すまなかったと重ねて謝罪された。

人が居る寮の部屋には術式の一種で他人の魔力人形は入れないようになっている。ただ無人の部屋は別で入れる。入った状態で人が戻ってきても、出る事は可能だ。ただ再び入る事は叶わない。

これは、寮の部屋だけに施されている。

「また居たら嫌だな」

一応部屋の灯りはつけたまま出てきたけど、憂鬱だ。

「私が送っていこう。その足でボルスには苦情を入れに行く」

姿を隠す魔法をかけ、ジャックに寮の部屋まで送ってもらう。他の人に見られると何かと困る。

今度は特に問題はなかった。

ほっとした。

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