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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
94/605

???

腑に落ちない事がある。

ミラの情報を探るのが遅すぎる。

レイカを連れて、本館の受付でジャックへの面会依頼を出す。

「ご案内いたします」

それは直ぐに受理され、局長室へ通される。

「やあ、いらっしゃい」

荷物を持って入ってきた私達をみて、ジャックが驚く。

「買い物は楽しかったかい?」

「楽しかったですよ、局長。」

「それは、良かった。こちらにかけてくれ。話を聞かせてほしい。……お茶を」

控えていた側務めに指示を出し、ソファに腰掛ける。以前みた側務めだった。今日も、女性に見える。

ジャックの趣味?

「今、失礼なこと考えなかったかな?」

「いえ。局長、今日はお時間を頂きありがとうございます」

レイカと一緒にソファに腰掛ける。

お茶を飲みながら、今日の話をした。側務めの男性が退室してから、ウォルター工房を出た時の話をする。

「不審者、姿は確認できた?」

「いえ、私達は振り向かず帰ってきたので。ヒジリ先輩がその場に残りました」

「それは良かった。下手に相手の顔を見ると危ないからね。それにヒジリなら問題ない。彼女は、こと魔法戦闘にかけては特級冒険者並だからな」

特級冒険者、最高ランクの冒険者並か。それは、凄い。

「何故、今頃になって」

「ああ、それはね。ミラ嬢があの魔獣擬きを持ち込んだ日に、ギルドにミラ嬢の冒険者情報凍結依頼を出してるんだ。ミラ嬢の提案でね。冬の始まりまで」

「冒険者情報凍結依頼?って何?」

レイカに耳打ちされたけど生憎私も知らない。

「それは、冒険者の情報をギルド長の許可がないと表に出せないように依頼したってこと。ギルドに依頼を出す際冒険者指定ができるんだが、その時にギルド側から提示される冒険者一覧に名前がのらない。その一覧をこの期間に確認した人物の情報は私が持っている。」

「冬の始まりからはもう一ヶ月程時間が経ってます」

「冬の始まりに私がミラ嬢の情報を、開示した。それから情報を集める動きが活発化したが、本人はもう王都に居ないから情報は集まらない。しかもミラ嬢と行動を共にしていたリオさんも謹慎中で見つからない。謹慎は意図したものではないけどね」

「じゃあ、今日のは」

「偶然、おそらく情報集めに出遅れた人達かな?最初の休みは外出する場合誰かつけようと思ってたし。」

「初めての外出に、誰もついてきていませんでした。こっそりついてきてました?」

「遠くからね」

「そうだったのですね。気づかなかった。」

「リオさんの外出の時は、何もなかったから。今回のことは、まぁヒジリが戻ってきたらはっきりするね」

しばらく、初めての王都の街にでたレイカの話を楽しく聞いていたジャックの元に退室した側務めが戻ってきた。

「局長、ヒジリ様がいらっしゃいました」

「通して。」

ヒジリが局長室に、入ってきた。振り返った私とレイカはヒジリの姿を見て頭が真っ白になった。

何故か見知らぬ男性を担いでいる。

「きゃ」

レイカが私に抱きつく。

「ヒジリ、流石に私も驚くよ。彼は誰かな?」

ヒジリは担いだ男性を部屋の隅に下ろす。気を失っているようだ。

「ウォルター工房で、私達の会話を盗み聞きしていた冒険者だよ。依頼失敗で依頼主から無能扱いされて、ムカついたから依頼取り下げられても粘ってたみたいですよ。リオは引きが強いなぁ。」

よいしょとジャックの隣りに腰を下ろす。

依頼主については守秘義務があるようで口は割らなかったですね、まぁ局長が魔力責めしたら喋るんじゃないっすかねと飄々と話す。

魔力責めと言ったらアレか。アレは恐怖だよ。

「レイカも見てく?局長の魔力攻めは恐怖だよー」

笑顔で勧める内容ではない。

「ヒジリ。私はレイカの話を楽しく聞いていたのに、台無しだよ」

「あ、私の話も聞きます?屋台で串焼きを食べたんですけどホント美味しくて」

「あの状況で、食べたの?」

レイカが嘘でしょと引き気味だ。信じられない、同感だ。

「レイカ、怒んなよ。今度奢ってやるから」

「怒ってないわよ」

「洋服も可愛いの買えたし、あ、局長に見せたら?」

真っ赤になるレイカに抱きつかれたまま、この状況をどうにかして下さいよと恨めしい目でジャックを見る。楽しそうにレイカを見ているジャックとは視線は合わなかった。逃げやがったな。

「レイカとリオさんは、戻っていいよ。彼については、私の方で対処しておこう。ヒジリは詳しい報告をしてもらうから、残って」

「いや、もういいと思いますよ。ね、レイカ?」

「怒られればいいと思うわ」

「同感です」

お先に失礼しますとさっさと局長室を出る。

訳が分からないわとぶつぶつ文句を言うレイカは、ここが本館だという事を意識していない様子だった。

そしてそのまま管理棟までレイカを送り、荷物を分ける。ヒジリの分は、宿直室へ置き、寮へ戻った。

楽しかったけど、最後は少し緊張した。

不運体質の実験が、こんな風になるとは考えてなかった。考えられてなかった。

「駄目だなぁ、行動の結果とそれが及ぼす影響も考えないと」

頭の中がごちゃごちゃしている。

ベッドに横になって、目を閉じる。

何も考えないで、呼吸だけに集中する。何度も何度も深呼吸を繰り返し、気づけば涙が出ていた。

「何だろ、疲れてるのかなぁ。」

笑った、つもりだった。

一気に涙が溢れて、止まらなくなった。

「うっぅぅ」

何故泣いてるのか、分からないまま泣き続けて、気がつけば眠っていた。

「あ、れ?」

目が覚めたのは、夜だった。

「瞼が腫れぼったい気がする。冷やさないと」

台所で、タオルを冷やし瞼に当てる。

「なんで泣いたんだろ。こんなの召喚酔いの時以来?あ、駄目だ。また」

冷やしながらまた泣いて、冷やしてを繰り返す。いつの間にか寝てて気づけば朝だった。

「頭がぼんやりする。お風呂入ろう」

欠伸を噛み殺しながら、支度を済ませる。いつものように寮の食堂で朝ご飯を食べて出勤する。

「おはようございます」

「おはよう、寝不足か?」

アランと管理棟の入り口で遭遇した。台車には鍋が乗っている。どうやら食堂に食器を返しに行く所のようだ。

「ちょっとだけです」

「無理すんなよ」

アランを見送り、棟の中に入る。部屋にニコルの姿はなかった。その代わりオスカーの姿がある。クリスはいつものようにテーブルを拭いていた。今日も元気いっぱいだ。

「おはよう、リオ。ニコルは今日休みだよ。」

「リオさんおはよう」

「おはようございます。オスカー先輩は休暇中ですよね?どうしてここに?」

「寮の部屋はありますけど、こっちの方が楽なので」

「ニコル先輩も似たこと言ってました」

「あ、そうだ。これ、昨日届いてました。リオさん宛で」

オスカーが台所の戸棚から小さな袋を取り出す。

はい、と手渡された。袋を開けるとお菓子が入っていた。添えられた手紙には、見覚えのある筆跡。

『セシルのお菓子のお裾分けです。毎日頑張っているリオさんへ』

グラッドの文字だ。

会いたいなぁ。声聞きたい。ぎゅってしたいな。

泣くのを、必死に我慢する。

「リオさんには新しい課題を出しますね。午前中はレイカの教材になってもらいます」

オスカーの言葉が頭に入ってこない。

「どういうことですか?」

「レイカが召喚課で働くために必要な勉強の手伝いです。レイカが洗濯から戻ってきたら説明します。それまでは、アラン君の今後について考えていきましょう」

アランに提示した情報の確認と、今後必要となってくる技術や学力、生活の基盤をシノノメに移す場合に必要になることなどをリストアップしていく。

「寒い。寒い。寒い」

「レイカ、去年と同じこと言ってる」

「寒いものは寒いの」

完全防備のレイカが洗濯籠を抱えて戻ってきた。アランは呆れ声だ。

「リオ、今日は資料室じゃないのね」

「はい。レイカさんの教材になるらしいです」

「よく分からないけど、洗濯物干してから聞くわ」

冬の寒い時期や雨天荒天の時だけは、洗濯場で干さずに管理棟内で干していいことになっている。殆ど人の出入りがない管理棟ならではだ。奥の廊下は今の時期、物干し台が並んでいる。

「今日考えたから、レイカにも言ってないんだよね」

オスカーが朗らかに笑う。


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