表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不運な召喚の顛末  作者:
第一章
93/605

買い物

翌日。

王都で初雪が降った。

「なんで雪なんて降るのよ」

「雪自体珍しいですからね、王都では」

厚着してモコモコのレイカが雪に文句を言うのを宥めながら、魔法省の門をくぐる。

「足元気をつけて」

門番のお姉さんに心配されながら、街へ出た。道の端に雪が積もっている。

「レイカ、本当に寒がりなんだな」

「うるさいわよ」

ヒジリはレイカと対称的に薄着で、見てて寒くなる。

今日はコートで正解だった。

ミランダが言ってた浮きますとはこのことだ。

心の中でミランダに感謝して、レイカに手を伸ばす。

「レイカさん、滑りますから手を繋ぎましょう」

「うん」

「ヒジリ先輩は、風除けになって下さい」

「はっきり言ったね、リオ」

「寒がりさんを守るにはこの布陣が一番かと」

「まぁ、仕方ない。行くか」

観光地図片手に、道順をヒジリに伝えて店まで歩く。

初めは人とすれ違う度、びくついていたレイカだけど段々慣れてきた。

少し顔色は悪いけど、街に出たのが初めてだからか、表情は柔らかい。珍しい物が多いのか、キョロキョロしている。

「何か気になるものがあれば、言って下さいね。レイカさん王都初散策の記念に奢りますよ?」

「べ、別にいいわよ」

「リオ、私は?」

「先輩は自分で買って下さい。後輩に集らないで下さい」

今歩いているのは普段から人通りの落ち着いている店舗通りだ。市場は寒くても人が多い。雪ぐらいでは客足は落ちないと予想して避けて歩いている。

「あ、ヒジリ先輩ちょっと待って下さい。レイカさんもここで待っててくださいね」

そう断り、ある店に入る。目当てのものを素早く購入して、店の外に戻る。

「はい、お待たせしました。ここの塩パン美味しいんです。どうぞ食べて下さい。丁度焼きたての札が出てたので」

「あ、ありがとう」

「やったー、ありがとう」

食べながら歩く。

「美味しい」

隣りから感想が聞こえてきて、ホッとする。

雑貨系の屋台がある区画と工房区画の境目辺りにある服屋を目指している。

店舗通りにも服屋はあるが、値段が高い。オーダーメイドの店舗なせいか展示している服も豪華だ。

普段着となれば、工房区画の付近の店が一番だった。

他に古着屋もあるが、利用しないので省く。

店舗通りも中央通りと交差する所はやっぱり人が多い。私の手を握る手に力が入る。

ここは王都庶民の憩いの場でもある。大樹が道の中央にあり、その周りをベンチが囲っている。馬車も通り人の行き来もあるが待ち合わせなどに使う人も多い。

王都での市場調査の時はここで休憩したなぁとそんなに時間は経っていないはずなのに懐かしく思った。

「ここを正門側に行くと市場通りです。後、ここの建物が冒険者ギルドですよ」

「へぇ、大きい建物ね。」

冒険者ギルド、異世界感たっぷりの言葉にレイカがまじまじとギルドの建物を見上げる。

他にも商人ギルド、職人ギルドとあるが、後一つ奥の大広場通り側にある。

「この辺りから職人工房が連なる区画、工房区画です。お目当ての店は工房区画と雑貨露店のある市場通りの境目にあります。」

工房区画に入ると、店構えが変わってくる。華やかな雰囲気から簡素な雰囲気へ。

「リオ、あっちの公園みたいな所は何?」

「あそこは、奥に屋台が並んでいるんですけど、屋台で買ったもの食べたりする場所です。夜はもっと賑やかになりますよ。焼きそばっぽいものもありました。」

「焼きそばっぽい」

「見た目は焼きそば、味はちょっと違いますが、美味しかったです」

「へぇ」

「王都に住んでる転移者は多いからね。しかも結構特徴があって向こうで食べてた物を再現しようという意欲が強い。」

「少し分かるわ」

「私も、経験済みです」

「何したのよ」

「なんですか、そのまたやらかしたんでしょ、みたいな言い方は。『茶碗蒸し』作っただけです。あ、ヒジリ先輩、そこを左です」

目的の店がみえてきた。

「この辺りに別の服屋も四軒位あるので趣味にあうお店があれば、いいんですけど」

手前の店から順に入ることになった。

「レイカに似合いそう」

「どういう基準で選んでるのよ」

二人が楽しそうに服を選んでいる。レイカはシンプルなデザインと可愛いデザインとの狭間で揺れてるのが分かる。ヒジリは特に拘りが無さそうだった。

今回レイカが一緒に街に出るので外出申請をしたら

「レイカの生活必需品分は経費で落とせるので領収書を出すように」

と本館の職員に言われている。お金の心配はない。手持ちも半魔獣を売りつけたお金があるので問題ない。

あるのはその金額だが、考えないようにした。

各店毎の個性があって中々楽しい買い物になった。

「えっと、工房に寄っていいですか?」

ホクホク顔の二人に言いづらいなとは思いつつ、切り出す。

「元々そのつもりだったでしょ、何遠慮してるのよ」

「そうそう。じゃあ、行こうか」

「良かった、こっちです。」

ウォルター工房のある方へ歩き出す。

工房区画の鍛治屋が集まっている区画では金属の加工音が響いている。

「結構な音ね。」

「へぇ、こんな感じになってるのか。初めて来たよ」

王都に住んで結構な年月が経っているけど、意外と知らない所ばっかりだなぁとヒジリが言う。

魔法省の中ばっかりで生活してるから、王都にどんな店があるかわからないそうだ。出入りの商人に用意してもらったり、貰い物だったり買い物にでることも少なかったようだ。

「王都より、他領の方が詳しい可能性がある。」

「それは、ある意味凄いわ」

「ここです。ウォルター工房、どうしますか?」

「どうって?」

「親方は男性です。別にレイカさんが話をする訳ではありませんが、厳しいようならヒジリ先輩と外で待っていて下さい。すぐ戻ります」

「外は寒いもの。中に入るわ」

「レイカ、私は別に外でも構わないけど」

「私が構うわ。寒い中待てないから」

「わかりました。中に他のお客さんがいる可能性もありますから、無理なら外に出て下さいね」

レイカが頷くのを確認して、工房に入る。カランと音が鳴った。

「いらっしゃい」

「こんにちは、親方」

店には親方と、見習いの少年が一人。少年は作った物を棚に並べていた。

「おや、今日は大人数だね」

「はい。先輩と友人です。近くに買い物にきたので、商品を受け取りにきました」

ヒジリとレイカは入り口近くで工房内を珍しそうに眺めている。レイカも今のところ好奇心が勝っているようだ。親方の細さに驚いている顔をしている。

「これですね、確認して下さい」

アクセサリーとワイヤー、料金を支払いコートの内ポケットに収める。

「ありがとうございます。取り敢えず、試作してまた来ます。あ、あとナイフなんですが」

腰に巻いている道具一式の入った鞄が付いたベルトを引き抜き、カウンターに置く。

その他の道具もみてもらう。

「ああ、なるほど。お嬢ちゃんは結構丁寧に使っているんですね。他の方ならもっと早く見せにきてますよ。カウツ」

「はい、親方」

カウツと呼ばれた少年が、カウンター内へ入ってきた。

「お嬢ちゃん、この子はカウツ。お嬢ちゃんの使っているナイフや他の道具を作っているここの見習い。」

「いつもお世話になっております」

「え、あ、ああ、どうも」

「ありがとうございます、ですよ。今日は彼の新作があるんですが試してみませんか?」

「そうですね。取り敢えず握って決めていいですか?」

「勿論です」

カウツがさっき棚に並べていたナイフや道具一式を持ってくる。

今使っているナイフやその他の道具の修理を依頼して、取り敢えず一通り握ってみる。

しっくりきた二本分と道具のお金を払う。新作の道具はそのまま鞄に挿しベルトを戻す。店を出ようとした時、親方が

「お嬢ちゃん、ミラ君は大丈夫かい?」

声を掛けてきた。

「どういう意味でしょうか?」

「聞いていませんか?変な魔獣をお偉方に売りつけたみたいで、それで魔獣を研究してる人達がミラ君のことを調べてるらしいんです」

「ああ、その件でしたか。親方、安心して下さい。あのミラですよ?大丈夫です」

「それならいいんですが」

「でもそれって、最近の話ですか?ミラが売りつけたのは、もっと前ですよ?」

「そうなんですか?最近ウチにもきたんだよ。ミラ君のこと聞き回ってる人達が。それで、つい」

「心配してしまったと。ミラに伝えておきます」

「やめて。聞かなかったことにして」

「わかりました。修理代で勘弁しておきます」

「お嬢ちゃん、そんなとこミラ君に似なくていいんだよ」

「光栄です。では、また」

店を出る。私の後について無言で出てきた二人が、何故かめちゃくちゃみてくる。

「どうしましたか?」

「なんか、リオって凄いな。外回りもいけんじゃねぇ?」

「冒険者っぽかったわ」

「正真正銘の新人冒険者ですけど?」

「信じてなかった」

「酷い」

「まぁ、面白いもんもみれたし帰るか」

「はい」

レイカの持っていた荷物を少し分けて持ち、手を繋ぐ。背後に感じる気配に、用心しながら、少し魔法を使う。気配が紛れる魔法。

人通りの多い所にでるとその効果を発揮する魔法だ。

工房区画を抜けた辺りで、ヒジリが真剣な表情で

「リオ、わかってると思うけど」

「はい。ヒジリ先輩」

振り向いた。そして、ある一点を指差して

「私はお腹が空いたので屋台に行ってきます。君達はそのまま真っ直ぐ寄り道せずに帰ること。いいね?」

堂々と宣言する。

「は?」

「わかりました。荷物は私が持って帰ります。」

「うむ、宜しく。」

小声で、気配を紛れる魔法を使っていることを伝え、別れたら最大限効果をあげた姿を隠す魔法を使うことも付け加える。

ヒジリの荷物を受け取り、ヒジリと別れる。

「じゃあ、後で」

「え?」

戸惑うレイカの手を引き、店舗通りを歩く。魔法の効果を最大限に上げたので、周りが私達に気づくことはない。だから、避けながら歩かないといけない。

「どうしたの?リオ」

「今、魔法を使って姿を隠してます。」

「へ?」

「だから、人にぶつからないように気をつけて帰りましょう」

「ちょっと、説明になってない。」

「帰ったら説明します」

「わかった」

レイカは釈然としない表情ながらも、頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ