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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
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デリカシーの行方2

親睦会はつつがなく?終わった。

ジュリエットは珍しく頬が緩んでいたし、レイカもアランもニコルですら、リラックスしているのが分かった。

クリスはお腹いっぱいで、うとうとしている。アランが寝かしつけに席を外したのをきっかけに、みんなで片付けを始めた。

「私、鍋返してきます。」

アランの手伝いは何度かしているので、場所は分かっている。

「じゃあ私も行くよ」

「ヒジリ先輩はゆっくりしていて下さい」

「いやいや、食堂のおっさんに挨拶ついでだよ」

「そうですか?分かりました」

配膳台車を押し、外へ出る。

ジュリエットの婚約者候補の話の後は各領の特徴を話していた。

アラン達は興味深そうに、私もクラリスの知識に更に肉付けをする気持ちで聞いていた。

因みにヒジリの老後の希望はサイス領一択だそうで、理由が温暖な気候だから。今は仕事だと割り切ってるからリーベックにも行くけど、仕事辞めたら移住すると力強く宣言していた。

「リオ、私とオスカーは君の事は局長から聞いて知っている。」

「はい」

召喚者だと知っている。言外に告げられた。

『私もそうなんだよ、十八の頃に大陸の東の国によばれた。聖女召喚って知ってる?』

日本語で話すヒジリの言葉にジャックの話が甦る。

『はい、大陸の果ての四国で行われているって』

『そうそれ。大陸は大陸神である女神達の領域だ。その女神の声を聞き、災害に備える。その為に必要なのが神の声を聞く聖女。私はそれだった。でもさ、嫌で嫌で仕方なかった。私のしょうにあってなかった。だから、女神の眷属と契約して聖女を辞めた。まぁ、あの国では別の聖女が召喚されているだろうけどね。』

明るく話すヒジリ。

『眷属と契約とはどういうことをするのですか?』

『ああ、死後女神の眷属になることだよ。私は二十三の頃に人としての成長を捨てた。半分は眷属だからね。でも、老いはしないけど太りはするんだよね。不思議だ』

あと死ぬ程の事が起こればちゃんと死ぬ辺りは人なんだよねと軽い口調で話す。

眷属は属性神だけでなく、大陸神にもいるのかと驚く。

この世界の神は主神の領域神、大陸神の四女神、属性神の八神。属性神の眷属はよく知られている。

「大陸神にも眷属っているんですね」

「いるよ。女神は人が大好きなんだよね、だから眷属は人由来ばっかりだよ。属性神の眷属とは反対だね」

人由来の眷属が多い。確かに動植物や精霊由来の眷属の多い属性神とは違う。

「召喚者の件は、内緒な?」

「はい、わかっています」

「実はさ、」

リオが暴走しかけた時、実験施設にいたの私とオスカーなんだよと小声で教えてもらう。

「そうでしたか、」

「だから、その指輪の意味分かってるから」

「?」

「?愛の証でしょ?」

一気に体温が上がる。

「あれは凄かった。マジで覚悟してたけどグラッド様のおかげで今があります。」

神妙な顔と変な敬語で合掌するヒジリに

「あ、あの。あの時の事、教えて下さい」

と願い出る。

「?教えてもらえてないの?」

「いえ、何があったかは聞いてます」

暴走してグラッドとミランダに助けてもらった。でも、それ以外は分からない。

ヒジリ曰くニュアンス的にちゃんと説明できるのは日本語なんだと日本語で教えてもらった。

黒い魔力の渦が私を包み、それに近づいたグラッドをジャックが引き戻すが、それを伯爵夫妻が止めた。ミランダの協力でグラッドが魔力渦の中に進み、私を助け出した。

『伯爵夫人がめっちゃくちゃ怒ってて、つか、ジャックに逃げていいとか宣ってた。あの人達凄いわ』

心臓の音がうるさい。

下手したら死ぬ所だったのに、私を気遣ってくれるあの人達。どうしたら、私は気持ちを返せるだろうか。

「え、な、泣かないで。リオ、マジで泣き止んで」

頬を伝う温かいものを拭う。

「レイカに怒られる」

ヒジリの焦りように、思わず笑ってしまった。

食堂で鍋を返すと料理のおじさんが、ヒジリを見て驚いていた。久しぶりじゃねぇかと暫くはなして、管理棟に戻る。

その時にふと思った事を聞いてみる。

「レイカさんに下着をあげたのってヒジリ先輩ですか?」

「ん?そうだよ?なんで?」

「いえ、何となくそんな気がしたので」

実際に話した感じ、話を聞いた感じ、何よりオスカーのヒジリの評と胸のサイズから思っただけだが。

「リオも貰う?」

「いえ、いりません。」

「そう。また買い替えなきゃだから、今のはどうしようかな」

???

「下着ってお古だったんですか?」

「うん、え?なんで、怒ってるの?!」

「新しい下着を贈りませんか?」

感覚が現代日本人相手にお古の下着はありえない。しかもそこまで親しくない相手の。

ヒジリはデリカシーがない。オスカーのセリフが頭の中でこだまする。

レイカはよく受け取ったと思う。もしかしたら、今回みたいに困ってて他に相談できなかったのかもしれない。

「気軽かなと思って、」

「服ならまだしも、下着は無いです。ヒジリ先輩」

「すいません」

「下着は私の方でなんとかしたので、もういいです」

「なんとかしたんだ。凄いね、まだ一ヶ月くらいでしょ?レイカ達の懐きようからして、リオってやり手?」

「……問題児です。三日で謹慎くらいました」

「わぉ。モンダイジ」

管理棟へ戻ると、午後の授業をオスカーが仕切っていた。

ニコルは所用でいないらしい。

「マジで、殺しにいったんじゃないよな」

不穏な呟きに、背筋が凍った。

「まさか、」

「ニコルはオスカーのこと、大好きだからな。恩人且つ片想いの相手だ。やりかねない。」

私の耳元で囁き、ヒジリはすぐに部屋を出て行った。

「リオさん?ヒジリは?」

オスカーの問いに

「あ、寄るところを思い出したらしく出て行きました」

無難な答えを返す。嘘ではない。

「そう、リオさんは参加するよね?こっちおいで」

席に着き、授業を聞きながらもニコルの動向が気になって仕方ない。

「リオさん?大丈夫?集中できてないようだけど」

「あ、すみません。オスカー先輩。切り替えます」

控えめに深呼吸をして切り替えを意識する。

「勉強の気分じゃないけど、僕達の話を聞いて各領に興味が湧いた時に知識を定着させたいからね。」

「それは分かります。お願いします」

オスカーの教え方は、ニコルの教え方と一緒だった。ニコルがオスカーから習った事を実践しているんだと気づいた。

教え方って意外と個性が出るものだ。

それなのに、完全にオスカーの教え方をニコルがなぞっているとは思わなかった。

「気候に関しては、ヒジリも言ってたね。サイス領が温暖で夏は内陸部では暑いけど、海側は風が涼しく過ごし易い。冬は王都よりも温かい。刺すような寒さはない。寒さに関してはコランダム領南部、ウパラ領南部も一緒だ。北部からは王都とそう変わらない寒さがある。」

王国全土の気候のおさらいをする。レイカがいつもより真剣に話を聞いていた。

「やっぱり生活をしていくとなると、気候は重要です。地形も勉強すると災害を避ける手助けになります。街で生活するにはその土地の風習、文化、習慣を知らないと馴染んではいけません。今まで学んだことをより深く知っていくとずっと生きやすくなります。どうですか?今の学習進度なら大分この国のことを知っていると思います。貴方達の希望を聞かせてください」

優しい、ただただ優しい笑顔でオスカーが二人に語りかける。


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