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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
9/605

召喚8

初耳だった。

それはグラッドも一緒だったようで、そんな噂が?と半信半疑だった。

すると、ミランダから発言の許可を求められた。急いで許可する。

「その噂は、ここ1ヶ月ででてきた新しい噂です。ウパラ領辺りで聞かれるようになったもので、出所はモーブ伯爵令嬢様周辺とされています。なんでも新しいドレスを作る際にエレーナ様が口にされた言葉からそのような噂がでた、と。他領にはほとんど出回っていない噂です。」

「ミランダ、ありがとうございます。ニコル様はどちらでこの噂を?」

「ウパラ領の三人を取り調べした際に、『エレーナ様の憂いをなくして差し上げたかった』という言葉がありまして、無視できないじゃないですか。」

「もしかして、他の方々も似たような事言っているとかですか?」

「そうなんです。リオさん、本当に勘がいいですね」

勘ではありませんとは言えなかった。人は何故か大義名分があると普段はしないような事を簡単にしでかす。それを知っているだけだ。

「集団心理でしょうか。確かに、爵位のない貴族である彼等が仕える主人としてエレーナ様をみていたのなら、あり得るとは思いますが、どこか不自然な気がするんですよ」

「そうですね、コランダム、ウパラ、マウリッツ領の学生が、王都のネイプルス公、しかも末娘のエレーナ様を主人に選ぶことがあり得るのか、という所ですね」

ニコルとグラッドの話を聞きながら、中学生の頃の事を思い出していた。


『魔女!アンタさえいなければ、佐久田君は怪我なんかしなかった!』

ヒステリックに叫ぶ女生徒と彼女の取り巻きに、憎悪の目で睨まれ、口々に罵倒される。

『魔女』『厄病神』『出て行け』『近づくな』『あっちに行け』『お前のせいだ』『消えろ』『死ね』

その感情は、元々私を薄気味悪く思っていた他のクラスメイトにも伝染した。『やっぱりアレは、アイツのせいだったんだ』『厄病神だ』『気味悪い』

この件からは、あの時のような狂気を感じないのだ。ただ、あの時と同じ感覚がする。

あ、そうだ。あの日あの子は、みんなに責められる私を見て、笑ったんだ。昏い嗤い。

とても気持ち悪い感情。虐げることに快感を覚えた顔をした彼女に恐怖した。人が堕ちる瞬間を見た。

思い出に重なるように嫌な考えが脳裏をよぎる。

直感のような根拠のない推察ですらない妄想。

とある一人の令嬢の姿が浮かんだ。


「リオさん、大丈夫ですか?少し顔色が、悪い」

グラッドの声で我にかえる。マイナスな感情に引っ張られ過ぎた。

「いえ、大丈夫です。ニコル様、お願いがあります」

気持ちを切り替えるように首を横に振る。

大丈夫、あの時の私じゃない。大丈夫。

自分に言い聞かせる。

「リリアナ・パイライト伯爵令嬢を注意して、探っていただけますか?どうか気付かれずに。」

私から飛び出した名前に、ミランダが「リオ様、何故」と呟く。その声に反応したのは、グラッドだった。

「ミランダ、どう言うことですか?何か知っているのですか?」

ミランダは俯き、返答を渋る。が、グラッドの刺すような視線に口を開く。

「リリアナ様はクラリス様とよく似た、性質をした方です。ただ、リリアナ様のそれは演技であり、心内ではクラリス様を疎んでいらっしゃいました」

私はミランダの言葉に補足する。

「クラリス様はその事に気付いていませんでした。しかも、リリアナ様を心持ちを同じくする同士だと思っていた節があります。もしくは憧れを抱いていた。ミランダの忠告も聞き入れることはありませんでした。…ミランダは、リリアナ様の真意をクラリス様にかけられた言葉で気づいた、そうですよね」

「はい」

「どのような言葉をかけられたのですか?」

グラッドが促す。

「『クラリス様はリュミの花のようですね。』と仰られました」

ニコルとグラッドは、首を傾げた。花に例えられただけに感じたのだろう。

リュミの花は、クラリスの髪色に似た黄色の美しい花だ。王都で栽培されている、鑑賞用としてとても人気のある花。花の色も複数あり、それぞれに花言葉がある。黄色は輝き、赤は華麗、紫は優美、青は洗練、そして、

「花言葉が、白は無邪気。ですが、これは最近、人気がでてから変更したものです。以前の花言葉は、無知。」

サイス領領主が公式で使用する領地の色は黒、白、灰色。

すぐに二人はピンときたのか、合点がいった顔で頷く。

「それだけではなく、この花は、王都でしか栽培していない花です。しかも、温室で育てられます。そのことからも、箱入り娘と揶揄されたのだと思います」

ウパラ領は織物、衣服と交易の盛んな領地だ。土地持ちの公爵、伯爵の一族は全員が幼い頃から領地の事業に関わって成長すると聞いた。そんな領地で成長したリリアナからしたら、クラリスはどんなに愚かに映ったのか。しかも、自分よりも他者に人気があると知ったら。その感情が、何処に向かうかは明白だった。

だから、ミランダはリリアナとの付き合いを控えるように進言したり、伯爵や伯爵夫人へ報告したり、手を打ってきた。クラリスが害される可能性を消したかったのだろう。

伯爵からの言葉もあった。でも、クラリスはその忠告を聞き入れなかった。

『わたくしの気持ちを理解してくれるのは、リリアナ様だけです』

『わたくしとリリアナ様が仲良くしていけば、領地間の溝も埋まりますわ、どうしてお父様はわかってくださらないの?』

流石のクラリスも伯爵から理由を説明されて、花言葉を調べた。でも、最近変更になったのだからリリアナだって以前の意味を知らなかったに違いないと考えたのだろう。以前は以前だと反論している。

「わかりました。彼女の周辺も合わせて探ります。ご協力感謝します。」

ニコルは捜査資料を鞄に収めながら、

「リオさんは、どうしてその悪意に気づいたのですか?あちらには、遠回しに貶めようとする方々で溢れているのですか?」

疑問なのですが、と聞いてきた。

「溢れてないですよ。私はただ、ミランダの忠告を受け入れただけです。クラリス様の感情を追体験していないので、客観性が保てただけ。」

嘘はついてない。でも、ニコルの視線から目を逸らしてしまう。言いたくないことがある。

あの狂気を目の当たりにして怯えた自分を隠したかった。厄病神なんて呼ばれていたなんて、知られたくなかった。


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