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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
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デリカシーの行方1

「リオは、無表情だね。楽しんでる?」

真面目な顔で尋ねられた。

「はい、楽しいです」

頷くと

「マジ?」

ヒジリは目を大きく開き驚く。

「ヒジリ、今日のリオさんは分かりやすいくらい浮き浮きしてるわ」

「わたくしも、今日は何となく分かりますわ」

レイカとジュリエットが、フォローしてくれる。

「でも、それではリオの成長に良くないだろ。これから先も周りの人達が汲み取ってくれるとは限らないし」

ヒジリの言葉に、自分の甘えに気づかされて情けなく思う。つい、俯いてしまう。

すると、

「…ヒジリは初めてあった人にそんな風に言うの?それは、先輩でも、し失礼だわ」

レイカがヒジリから私を庇った。

「確かに、無表情かも知れないし、改善していく必要があるかもしれないけど、今ここでそれについて言わなくていいじゃない。親睦会でしょ?」

「いや、楽しんでるか、わかんな」

ヒジリの言葉を遮る。

「リオの淹れた紅茶を飲んで、楽しんでるヒジリが言うことじゃないわ。紅茶って味に気持ちとか技量が反映されるっていうじゃない!美味しいって感じるならきっとリオも気持ちよく淹れたのよ」

「ごめんって、レイカ」

「私にじゃなくて、リオに謝りなさいよ。…ちょっと、何で泣いてるのよ。ほら、もう」

私の方を向いたレイカが、驚いた顔をした。私の所まで来て、ハンカチをあててくれる。

「レイカさん、あ、ありがとう」

「ふん、別に。ヒジリが失礼だったから、怒っただけで」

「呼び捨て、嬉しい」

「そっち?そっちなの?」

「呼び捨ても嬉しい」

「ふん。倍以上も歳の離れた相手に取る態度じゃないもの。大人として恥ずかしいわ」

倍以上歳の離れた?

「リオ、ごめんね。気分悪くさせてごめんなさい」

謝る姿は、悪さをして怒られた大型犬のようだった。

そして外見は完全に二十代の女性にしか見えない。私はレイカに17歳って挨拶してるから、倍で最低でも34歳、下手したらもっと上の可能性もある?

言葉の意味を飲み込めない。ジュリエットもヒジリの顔を凝視している。

「ヒーは、38歳だよ」

可愛い声が聞こえたが、やっぱり飲み込めない。

「え?」

「ヒジリさんは、精神年齢が幼いって局長によく怒られてるくせにリオさんのこというからですよ。レイカに怒られて」

ニコルが心底楽しそうに笑う。

「ごめんね、リオさん。ヒジリにはデリカシーってものがないんだ。本当にごめんね」

オスカーが申し訳なさそうに謝る。

「リオさん、ヒジリはこんなんだから、一年前レイカに敬遠されてたんだ。レイカの好感度では、アンタが勝ってる」

アランはやっぱりぶっきらぼうな口調で慰めてくれる。

「うぅ、謝ってるのにー。ジュリエット助けて!」

「え?!わたくしですか?ヒジリさん、場の空気を悪くするのは淑女としては如何なものかと思いますわ」

「ジュリエットまで!」

「リオさんは無表情かも知れませんが、空気は読めますわよ」

「追い討ち」

「あれで、薄く微笑まれた日には情報が読み取れなくなって更に厄介さが増すので何も言わないでいただきたかったですわ」

「完全敗北。すみませんでした」

再度謝るヒジリに、

「あ、あのヒジリ先輩。気にしてませんから、これからも宜しくお願いします」

微笑んでみせると、ジュリエットとニコルが頭を抱えた。口々に厄介さが増した、胃が痛いと呟く。

ヒジリは

「やっぱり笑顔可愛い」

すぐに元に戻った。

「調子づかせて、どうするのよ。まったく、」

「あの、レイカさん?私、もう大丈夫ですよ。どさくさに紛れて頭撫で撫ではもういいのではないかと思います」

「ふん。年下は年長者に甘えてればいいのよ」

「あ、それ。私のセリフ、『パクられた』」

ヒジリが叫ぶ。

日本語だった。

召喚課のベテラン職員だから、不思議はないけどちょっとだけ気になった。

その後、レイカは椅子を移動させて、私の隣りにきた。またヒジリが何か言ってきたらアレだから、らしい。

アランがふっと小さく笑っていた。

「ヒジリさん、その殿方年上過ぎません?」

「駄目?」

「もう少し年の合った方がいいですわ」

「ジュリエットさん、コランダムの騎士なら知り合いがいるけど、どう?」

「是非教えて下さい」

「ジュリエット、ベルナー的にはどうなの?他領って」

ヒジリはウパラ、パイライトの貴族を中心に案内していた。オスカーの申し出を受けるジュリエットに疑問を感じたようだ。

「いいんですの。結婚についてはわたくしに一任されてますので」

「へぇ?珍しいね」

普通の貴族家庭だと家長の意志が大きく影響するものだ。

「じゃあ、王都の未婚貴族の情報も出しましょう」

「ヒジリには負けられないね。僕もコランダム、リーベックの未婚貴族の情報をだそうか」

ヒジリとオスカーが楽しそうにジュリエットの婚約者候補を上げ始めた。

その情報をメモりたいって思ったけど、ぐっと我慢する。

「凄いわね。」

「でも、アレは正解か?」

「ちょっと違いますよね?」

「確かに、二人共に間違えてるわ」

私達の会話が聞こえたのか、ヒジリとオスカーがピタリと動きを止めた。

「どういうこと?」

「ジュリエットさんに必要な情報が欠如しているのよ」

レイカの言葉に、ジュリエットも驚いた。

本人も気づいていないのかもしれない。

「何が、足りてないの?」

「肩書きよりも、人柄よ。」

「そうだな、ジュリエットさんは真面目だし、仕事もしっかりしてる。貴族であることに誇りをもってる。でも、俺達のことを下に見たりしない。よく手伝ってくれる。」

「同じ価値観は絶対必要ですね。性格は誠実な方がいいです」

「あ、あと紅茶派。意外と可愛いもの好きだから、そういう趣味を可愛いと思ってくれる人よね」

「ジュリエットは、優しい。カードゲーム好きよ」

はいはい、とクリスが手を挙げてジュリエットのことを教えてくれる。

「肩書きや釣り合いも大事だけど、ジュリエットさんにはそれ以外が大切だよ」

ニコルも加わる。

二人が出した情報の中から、数名を選ぶ。この人は、周囲が認めるほどの紅茶派だとか、この人は真面目な仕事ぷりが有名とか。情報を追加する。

誠実、優しさ、貴族の誇り、信条、趣味を足していく。

「皆さん、」

「ジュリエットさんはちゃんと自分のことを考える。これは、君の課題だ。」

「ニコル先輩、課題好きですよね。私も貰いました」

わたくしの課題、呟いたジュリエットの

「リオさんの課題とどちらが大変でしょうか?」

その問いには答えられなかった。

色々やらかしてる私としては、何とも言えない。

「ジュリエットさんはすぐクリアしそうね」

「あぁ、確かに。」

アランとレイカの評価に私も頷いた。

「リオさん、頷いたら駄目でしょ。」

ニコルのツッコミにジュリエットが笑う。

「いい雰囲気が作れてるようだね。ニコルの成長を感じますね、ヒジリ」

「私も驚いてるよ、ニコルがここまでできるとは思ってなかった」

二人の会話は私達の所までは届かなかった。


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