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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
81/605

召喚課三日目

翌朝、召喚課へ出勤すると直ぐアランとレイカの二人に昨日ニコルに指摘された『踏み込み過ぎ』を謝った。

何故か二人にきょとんとされた。

「別に謝る必要はない」

「少しアレだったけど、嫌じゃないわ」

「ほ、本当ですか」

「嘘ついてどうするのよ」

「無理してませんか?」

「大丈夫だ。嫌なら嫌と言う」

良かったーと笑うとレイカに

「所々気障なのはどうにかならないの?ウインクとか」

と言われた。

母親譲りですと返答する。

というか、ウインクまでしてたのか私。

「お母さんが、」

「お父さんは何か言わないの?」

「いえ、母さんの気障さに落とされた感があるので、特に何も」

「まさかの」

「レイカさんは気障な言動嫌いですか?」

「嫌いじゃないけど、恥ずかしいわ」

「だそうですよ、アラン」

「俺にふるな」

三人で盛り上がっていると、ニコルに抱っこされたクリスが歯磨きから戻ってきた。

「リオ!おはよう」

「おはようございます」

その後、ジュリエットが出勤してきた。

「ジュリエットさん、リオさん、ちょっといいかな」

三人で召喚課の打ち合わせを始める。

「本格的な冬を前に、外回りの二人が戻ってくる。基本的にあの人達は休暇に入るが、この部屋への出入りが増えると思う。ジュリエットさんも会うのは初めてだね。戻り次第紹介する。」

「かしこまりました」

外回りの二人。

オスカー・ラリマー、男性。カップは茶色。

魔道具局、魔導局騎士課の事務員を経て、召喚課へ配属。

ヒジリ・ウィステリアラヴィーン、女性。カップは紫。

ベテランの召喚課職員。外回りの職員が年齢を理由に引退後、外回りの任務についた。

「どんな方達なのですか?」

ニコルに尋ねると

「ジュリエットさんは、報告書を読んで思うこともあるんじゃない?」

ジュリエットへ話を向ける。

「わたくしの所見では、オスカー様は非常に細やかな方だとお見受けいたします。報告書の内容が事細かに書かれていることからも明らかです。後、この任務を楽しまれていますね。たまに、旅先の美味しい料理の報告もありますし」

「確かに、オスカー先輩はそうだね。正しい。じゃあ、ヒジリさんは?」

「ヒジリ様は、大雑把とまでは言いませんが、オスカー様よりは記述が簡素だと思います。どちらかと言うと魔道具の点検よりも他の報告が多いです。そちらに重点を置かれていると思われます」

「ジュリエットさんは、観察眼が良いね。二人の人物像はジュリエットさんのいう通りで間違いないよ」

ニコルの言葉に、ジュリエットが自嘲の笑みを浮かべた。

「観察眼ですか、それがあればわたくしはここにはいませんでしたのに」

「いい経験にしなよ。どうしたって一般貴族は高位貴族に使われる立場だ。比較的善良な主人を見つけるか、自身の器量で成り上がるか。上手く立ち回らないといけない、その技術や人脈を築く期間にしたらいい。」

「はい……」

「後、リオさん。」

「はい」

「入省前も説明したけど、リオさんは、明日休みね。三日働いて、一日休みの周期で取り敢えず一ヶ月。慣れてきたら働く日数を増やすから」

「わかりました。」

「ニコルさんはもっと休まないといけないのではなくて?」

「僕ですか?ちゃんと休んでますよ。七日に一日は休んでますし、こんなに精神的な圧迫感のない職場は初めてですから」

さらっと前職は真っ黒だったことをバラす。

「寮に帰れてないって」

「休みはとってますから、寮は面倒臭い人がいるので元々帰りたくないです」

あ、そういえば。昨夜の探索でちょっとアレな人がいた。

「僕の話はいいですから、はい。仕事に戻りましょう。今日も宜しく」

各自の持ち場に向かう。机を移動させ、資料室に籠る前に気になったので、ニコルに確認する。小声で尋ねる。

「ニコル先輩、寮でニコル先輩の事を悪く言う方がいましたが、あの方のことですか?」

「まぁ、ね。何言ってた?」

「トライラト家の面汚し、ラングストン家の威を借る卑怯者、後は、ニコル先輩が私の部屋の掃除を手伝ったじゃないですか。あれも、使用人の真似事とか言ってましたね。アレ誰ですか?」

はぁ、とため息をもらす。

「アレはトライラト家の次男だよ。僕の兄だ。トライラト家は騎士の家系で騎士爵の中でも名門なんだ。騎士爵は知ってる?」

「はい、騎士の家系に与えられる爵位ですよね。土地持ち貴族よりは爵位は低いですが、領地により価値が変わると。力のある騎士爵は高位貴族と同等の発言力があるとも言われてます」

「そう。王都では中々の位置にいるトライラト家の四男が僕。長男と三男は超優秀で、王城で働いてる。二人とは仲良くやってるんだけどねー。なんでか、あの人だけは僕のことが気に食わないみたいでさ。寮でばったりあった日には面倒で面倒で」

心底嫌だと零す。何度始末しようかと思ったことかと続いた言葉は聞かなかったことにした。

「よく絡まれなかったね。」

「まぁなんとか」

対面してないので、なんでもない。

「何かあれば、言うんだよ。」

資料室で今日の分の資料を読み、言語の勉強、昼食、その後のクリスの運動と昼寝、文化や習慣の勉強。今日は何事もなく仕事を終える。

「レイカさん、ちょっといいですか?」

洗濯物を取り込みにいこうとしたレイカについていく。下着の趣味を確認したかった。

「変態」

「じゃないです。明日は休みなので、下着の購入のため街にでようかと思いまして。それで聞いただけです」

レイカの半信半疑の冷たい視線に異議を唱えながら、下着の趣味を探る。

「ふりふり、すべすべ、レース、柔らかい生地、派手、可愛い、シンプルとか色々好みがありますからね。」

「貴女はどうなのよ」

「レース多めが気分が上がります。結構びっしりレースがほどこされてるのが好きです。あ、あと揺れない」

「確かに。それ大事よね。」

下着の趣味でわいわいしながら、洗濯場についた。干してあるシーツや服を回収して、戻る。

いつもは女性で混雑しているが、今日は珍しく空いていた。

『ラッキーだったわ』

ラッキーか、あんまり経験したことないなぁ。箇所箇所で発揮しているんだけど、小さな幸運を喜んだことがなかった。

「レイカさん、言葉」

「あ、そうだった。私はシンプルな物がいいわ。」

「……」

「下着の話よ」

「色は?」

「へ、あ、ベージュとかでいいわ」

「ピンクとか黄色、藤色、水色も似合うと思いますよ」

「な、何よ、別に妥協してるわけじゃないし、透けて見えそうじゃない。だから、影響が少なそうな色がいいんじゃないかと」

「アランの好みも聞きましょうか」

「何で、ここでアランの名前がでるのよ!!」

叫んだレイカと対照的に、え、付き合ってるんじゃないの?と何気なしに答える。

すると、レイカが全身真っ赤になった。肩が震えている。拳を握り、睨まれる。瞳は潤んでいた。

怒られると思ったら、

「付き合ってないわ。」

思いの外冷静な声でレイカが答える。

「アランは私以外の人と幸せになればいい。」

俯き、涙声になりながら絞り出すように言葉を続ける。

「何故、そんな事言うんですか?」

「私では、アランに釣り合わないからよ」

「?どのあたりが?お似合いですよ。お互いの事を大事に思い合っていて、素敵だと思います」

しばらくの沈黙の後、

「私は、…汚いもの…」

小さな声で言う。

性被害にあった転移者の証言を読んでいて、よく出て来る言動がある。自分が汚い、気持ちが悪い。肌が擦れて血がでるほど、洗わないといけない強迫的な潔癖。自罰。

自分を許せない罪の意識からくるものだと書かれていた。

自分を許す必要なんてない。だって、最初から罪なんてないのに。罪の意識に囚われる事が多くみられた。

「汚い、ですか。では、」

言葉で何度、汚くない、汚れてなどいないと訴えても心の中の自罰の意識が薄れることはない。

私はレイカに右手のひらを向けて、魔法を使う。

闇属性特化魔法。黒い魔力で、レイカを覆う。

その光景を見ていたのか、アランの焦った声が聞こえた。私の後ろから、飛び出してきた。

「レイカ!!」

レイカに駆け寄ったアランは私を睨みつける。

「リオさん!レイカに何をしている!」

「魔法です。もう、終わります」

魔法を解除した。レイカが、その場で膝をついて座り込む。茫然としている。急に何がおきたのか、訳がわからないといった表情で、私をみる。

アランに支えられて立ち上がる。

「今のは闇属性特化魔法です。属性の性質に特化した魔法で、闇は影や闇を操るだけではなく、吸収という概念があります。私は、レイカさんの汚れを吸収しました」

「そんなの、わからないじゃない」

「そうですね、それならレイカさんのいう汚いも、同じです。目には見えない概念なら、今私が取りました。あるのは、心の傷だけです。」

「傷、」

「汚れてなんていません。あるのは、理不尽に傷つけられたという事実とその時の傷が癒えずに残っているだけです。自分で自分を罰することはありません」

涙を流しながら私を見つめる、レイカに言葉を重ねる。

「汚れを感じたら、いつでも私が吸収してあげます。レイカさんは、自分をこれ以上罰しないで下さい。傷ついているんだと認めて、苦しいんだと叫んで、傷を癒やすために、自分を大切にいたわって欲しいです。」

アランがレイカを抱きしめる。その胸の中で、レイカが声をあげて泣き出した。

急いで防音の魔力壁を張る。


泣き腫らした目をして戻ってきたレイカと険しい表情のアラン、そして私を見たニコルは、レイカをクリスと一緒に部屋に入れた。そこに座りなさいと、怒った笑顔でテーブルを指さす。

「何があったのか、説明できますね」

ニコルとアランに睨まれながら、事情を説明する。

「君は、昨日僕が言ったことを聞いていなかったのかい?急すぎる、それに君の言っていたことと反するのではないか?これは、寄り添えているのか?」

「申し訳ありません」

目を瞑り、謝罪する。

「はぁ、君はしばらく休むように。謹慎だ。勤務三日目で謹慎って初めてだよ。はぁ」



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