召喚課二日目4
途中でクリスが起きてきたので中断して、別の勉強をしたり、再びリーベックの勉強をしつつ、将来の展望について話し時間はあっと言う間に過ぎていった。
今クリスはジュリエットとカードゲームをしている。
「負けませんわよ」と楽しそうな声が聞こえる。
「アランは多趣味ですね。」
アランは歴史とスポーツの好きな高校生だった。テニスに野球、フェンシングに剣道、両親の趣味から始めたと話していた。
「そのおかげで、生き残れたのかもな。」
ぽつりと呟いたアランの背をレイカがさする。
二人のお互いを思いやる気持ちが伝わってきた。
「この世界には、魔獣という生物がいます。」
アランがビクッと肩を揺らす。
「その魔獣に出来るだけあわないように生きていくことも、出来ます。例えば、魔障という現象が起こらない土地に住むことです。」
アランが拳を握る。その上からレイカが手を重ねる。
「今日勉強したリーベック領やシノノメ領がそうです。このソルシエールでは、この二領のみです。あとは規模や発生頻度も様々ですが魔障発生地域です。」
アランの様子を注意深く見ながら、ゆっくり言葉にする。
「魔障は、魔獣を生むのか?」
「正確にはそうではありません。魔獣は元々は普通の動物です。それが、魔素というこの世界特有の元素によって変化した動物が魔獣です。凶暴性が増し、縄張り意識がとても強くなります。魔素が高濃度で土地に留まる事を魔素障害、魔障といいます。」
情報を手に入れることで、知らない恐怖、不安は薄らぐ。記憶の中で膨れ上がる正体のわからない怖いだけの物ではなくなる。言語化して枠を固める。形がはっきりしてくると人は大分冷静になれる。
「魔障発生期間の魔獣発生数が通常時とは段違いです。サイス領、王都、コランダム領の魔障は規模が大きいです。」
顔色は悪いけど、表情は悪くない。
今日はここまでか、ニコル先輩良いタイミングで戻ってこないかな。
「リオさん、何勝手に教えてるのかな?」
急に聞こえたニコルの声に、驚きで小さな悲鳴が出てしまった。肩を強めに掴まれる。それと同時に防音の魔力壁をニコルが張った。周りの音が消えた。
「お疲れ様です。何か問題がありますか?」
ゆっくり振り返り、にっこりと笑って答える。
「アランには時期尚早だ」
と告げられたが、それに関しては反論がある。
「ニコル先輩がアランのことを大事にしていることは分かります。ですが、アランは大分冷静ですよ」
「召喚課にきて、二日目の君に何が分かる。アランはまだ苦しんでる。レイカにしてもそうだ。君達は踏み込み過ぎている」
「君達、私とジャック様のことでしょうか。踏み込み過ぎていると言われましても、踏み込んでいかないといけませんよ。寄り添うには側にいかないと」
「君達がそういう気持ちでいることは知っている。だが、ゆっくり時間をかけるべき問題だってある。寄り添う前に関係の構築が大切だし、相手から招き入れられた時にすべきだ」
「……そうですね。今回、何の準備もなく流れにのった事は反省しています。申し訳ありませんでした。」
謝意を表すと、ニコルも肩の力を抜いた。
「ニコル先輩、カッコ良かったです。」
「?何を、」
私がアランとレイカの方に向き直ると、二人は顔を真っ赤にしてニコルを見ていた。
「リオさん、何したの?」
「何したの?は、ニコル先輩の方ですよ。あんなに熱く二人のことが大事って私を叱ったじゃないですか」
「は?防音の魔力壁を」
「ふふふ、解除して二人に聞いてみたらいいですよ」
ニコルは魔力壁を解除すると、緊張した面持ちで尋ねる。
「アラン、レイカも顔が赤いが、どうした?」
アランとレイカは照れて視線を逸らし早口で答える。
「いや、ニコルがそんな風に思ってたなんて知らなくて」
「私も見直したわ。いつもへらへらしてるから何も考えてないのかと思ってた」
「リオさん、どうして二人に聞こえてるんだ?何した」
「えーそれは、秘密です。」
「おい」
いつもより何倍も低い声で圧をかけてきた。
「二人だけに聞こえるように細工しただけです。これ以上は言いませんよ」
ミラから魔力壁の破り方を教えてもらったとは口が裂けても言えない。二人に聞こえるように魔力の筒を伸ばして耳元にあてたなんて言えない。
「ほら、もう君は帰れ。ジュリエットさんも帰っていいから」
疲れた声で追い払われる。その前に、
「ニコル先輩、いい所で帰ってきてくれてありがとうございました」
小声で礼を言うと、ニコルが嫌そうな顔をした。ジャックの名前を聞いた時と同じ顔だ。
「ニコル先輩はもう少し二人にちゃんと伝えた方がいいと思います。取り敢えず、ニコル先輩不在の間にこの教科書の」
と引き継ぎをして、ジュリエットと一緒に寮に帰る。
寮の食堂で夕食をとり、部屋に戻った。
寮のご飯も、美味しかった。
お風呂を済ませて、ベッドの上でぼんやりとしている。
浮かんでは消えるのは今日のやらかしだ。
「やっぱり、距離感がわからない。うう、やっちまったー。今は友達が千加しかいないからなぁ。……はぁ」
友達は少ないけど、中学の頃もいた。
千加のような親友と言える程ではなかった、話をするクラスメイトのような、学校での友達だ。外では遊ばない。
それに千加とは一気に仲良くなった。
最初は戸惑ったけど、オーラやら神様の存在やら色々あって警戒心が直ぐ崩壊した。時間にして一日。
それからグラッドやミランダとの接し方は当てはまらない気がする。
ミランダには世話してもらってるし、グラッドは観察と甘やかしが入り混じってるし、こちらが翻弄されている。
唯一ジュリエットとの方が中学の時にいた友達、いやクラスメイトっぽい付き合いができている。
踏み込んでいかなくてもジュリエットの方からラインを引いてその中で交流しようという意識が伝わってくるから?レイカとジュリエットとでは、接し方が違う。
「普通の人付き合いの回数が少な過ぎる。言ってて悲しいな、これ。それにしても、私の対人行動が母さんと似てた。恥ずかしい」
母さんは行動の一つ一つが、気障だ。しっかり踏襲していた。うわぁぁ。
そういえば、千加にも「なんか恥ずかしい」って一回だけ言われた。
「はぁ、レイカさんには一回謝っておこう。アランにも距離を一気に詰めすぎた。でも、ニコル先輩には感謝だよ。あのタイミングで戻ってくるとか、不運が仕事しないことを実感する。あ、そうだ。属性特化魔法使っておかなきゃ。」
影人形をトカゲ型にして、寮の廊下を走らせる。
寮内の情報を得てみよう。
就寝まで寮内を駆け回り、召喚課二日目は幕を閉じた。




