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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
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召喚7

あの後、ミランダからクラリスはグラッドを呼び捨てにしているから、練習して下さいと言われた。ついでにミランダも呼び捨てなければいけない。

2日経ったが、言える気がしない。

ミランダは、女性でお姉さんだが、年上の友人がいたから名前のみで呼べる。

でもグラッドは、難易度が高い。元々男の子の友達がいた事ないし、クラスメイトは君づけで、名前を呼ぶわけでもない。

しかもあんな美形。クラリスの記憶を見れば、容姿の整っている人が多いのは知ってる。でも、グラッド並みの美形が、クラリスの父親しか見当たらない。美的感覚が麻痺しそうだ。

そういえば、グラッドの事を遠回しに好きってアピールしてた娘がいたなぁ、クラリスには全然伝わってなかったけど。

「…グラッド…グラッド…グラッド」

何かの単語だと思えばイケる気がする。

「はい、なんでしょう?リオさん」

変な汗が一気に吹き出し、頭が真っ白になる。今日に限って、カーテンは開いている。恥ずかしい所を見られて若干パニックになりかけた。が、グラッドの言葉で一気に冷静さが戻ってきた。

「今、驚いてますね。目がちょっと見開いてるかな。当たってますか?」

ん?どういうことだろうか?私は百面相しているつもりだったんだが、まさか。

「表情筋が仕事をしていないですか?」

「素晴らしいポーカーフェイスだと思います」

たしかに、私は無表情が常だった。

でも、体はあの天真爛漫、表情を繕う?なにそれ?なクラリスだ。勝手に仕事してると思っていた。驚愕の事実に衝撃をうまく飲み込めない。

「リオさんは表情が読めないので、読めた時は凄く楽しいです」

本当に楽しそうなグラッドを見てると、まぁいいかという気になってきた。

「グラッド様、今日はどうしたんですか?」

「グラッドですよ、リオさん」

聞き流してくれるかと思ったが、そう甘くはなかった。

「グラッド、、、今日はどうしたんですか?」

「養父から、サイス領に戻ってくるよう手紙が届きました」

「卒業間近ですが、いいのですか?」

クラリスとグラッドは今年15歳、学園の卒業と成人を迎える。が、卒業の認定を受ける前に、長期休暇以外に家に戻る事は余程の事がない限り許されない。

それは、退学を意味する。今は、夏の終わり。卒業は冬の終わりだ。秋の長期休暇前だが、いいのだろうか?

体調が落ち着いてから、呼び捨て練習以外のことも考えていた。長期休暇まではクラリスのふりをして、学園生活を送ることもその内のひとつだ。

「申請をして、早めに長期休暇に入ることになりました。私も一緒に帰ります。まぁ、私はすぐ戻りますが」

苦笑いするグラッドに何か企みの匂いを感じた。何か進展があったのかも、知れない。もしくは、領主からなにか指示があったのか。

「グラッド様、リオ様。ニコル様がいらっしゃいました」

ミランダの声に、思索を切り上げる。

グラッドは応接間に先に移動し、ニコルを迎える。ミランダに促され、私は服を着替えることにする。手早く着替えて、応接間に向かう。

「お待たせ致しました。お久し振りですね、ニコル様」

「急にお邪魔して申し訳ありません。体調が落ち着いたと聞いたので、早めにお伝えした方がいいかと思い参上致しました」

今日のニコル様は白衣ではなかった。黒の詰襟のシャツにズボン、黒に赤のラインの入ったローブを着ている。赤銅色の髪とよく合っていた。

「その服、よく似合っています」

「あはは、この服は魔法省の正装なんです。先日は研究途中で急行したので、白衣でしたが」

ニコルに席を勧め、私も席につく。グラッドが、私の横に座る。ミランダがお茶を淹れるのを横目にニコルが切り出した。

「早速ですが、学生達の聴取が終わりましたので、報告です。こちらが、今回関わった学生のリストです。」

私は紙の束を受け取ると目を通す。

確かに、クラリスに不満を持つ令嬢が多く関わっている。が、グラッドを妬んでいたり、敵愾心を持つ令息も同じだけ関わっていた。しかし、それだけにしては繋がりが薄い気がした。いや、繋がりが強い人達も中にはいるが、そことどうやって事を起こすだけの繋がりを持てたのか。最近、急速に近づいた?この相関図に違和感を持ち、リストをグラッドに見せる。

「グラッド、は、どう思いますか?意見が聞きたいです。」

リストを見るグラッドの目が眇められる。暫し沈黙していたグラッドが

「腑に落ちません。此方と此方の派閥が近づく理由としてクラリスだけでは足りないと思います。」

リストを指さしながら、難しい顔をして話し出す。

「たかだか悪戯計画で協力して事に当たるでしょうか?何か、双方の利になる何かがあったはずと考えます。彼らでは身分も足りない。上の身分の誰かが関わっているはずです。ニコル様、此方のコランダム領の二人とマウリッツ領の二人は元々召喚クラブの人間ではありませんよね?」

グラッドの問いにニコルは、満足そうな笑顔をした。

「いやぁ、流石はフレッド様の御子息ですね。私共も、同じ様に感じて調査致しました。それで、出てきたのが、ネイプルス公の末娘のエレーナ様です」

ネイプルスはソルシエールの名門貴族だ。現当主は文武両道の天才でその娘、エレーナもまた優秀な学生だ。

私とグラッドは首を傾げた。何故ならエレーナ嬢との接点がない。これまでの学園生活を振り返っても一切交流がない。優秀な方だというのは、周りから幾らでも入ってくる。でも、それだけだ。クラリスが積極的にエレーナ嬢と関わっていないのだから。

「エレーナ様主催のお茶会で知り合ったそうです。エレーナ様のお友達の紹介もあって参加したと一様に話しています。あと、召喚は成功しないけど召喚クラブが主体になったことを仲間内で顕示するために召喚術式を用いたとも話していました。大分、クラリス様、グラッド様同様にお互いの事も嫌いなんでしょうね。罪の擦りつけあいが酷いです。」

げんなりした様子で話したニコルは、お茶を飲んで一息吐く。

「グラッド様が仰った通り、その4人は召喚クラブの人間ではありませんでした。何故、そう思われたのかお伺いしてもよろしいですか?」

「それは、彼等の成績が伴っていないからです。召喚術式は基礎術式、応用術式の更に上の、特殊術式です。彼等の応用術式の成績を見れば、不得意は自明ですから」

「成績、ですか。皆さん把握されてるものなんですか?それ」

ニコルが、驚いた顔で私に尋ねる。

「グラッド、の趣味みたいなものです。クラリス様は把握してないです」

「趣味ではありませんよ。情報収集の一環です。リオさん、少し誤解があるようですね、後でじっくりと聞かせて下さい」

あ、まずった。呼び捨ての方にばかり気が向いていて、つい口走った。笑顔が怖い。

「お二人は随分仲が良いんですね」

そんな私達を見つめるニコルが安心したように笑った。

「それから、こちらもご覧下さい。最近の彼等の行動履歴です」

ローブに隠れて見えないが、今日は鞄を持ってきましたと言うニコルから前回笑った二人が、視線を外す。

「結構、頻繁にお茶会に参加されてますね。他に参加されている方の名簿はありますか?…ありがとうございます」

ニコルから受け取った資料を見ながら考える。何処かで聞いた覚えのある単語が、並んでいる。何処だったか。

「私共は、エレーナ嬢の関与の有無を調査していますが、余り芳しくありません。しかし、やや気になる噂を耳にしたので調査はしなくてはいけません。お二人は『エレーナ様がクラリス様を羨んでいる』と言う噂について何か知りませんか?」


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