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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
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召喚課二日目3

ジャックの話に触れないのは不自然かな?でも、わざわざ自分から聞く?

レイカは席に戻るとお茶を飲み、じっと私を見ている。

「レイカさん、視線が気になります」

「ジャック様とはどういう関係?」

彼女みたいな質問がきた。

「召喚事件の時に、お世話になりました」

「そう。貴女もジャック様が好きなの?」

「いえ、異性としての興味は一切ありません」

探りを入れられているなら、一刀両断するしかないと力強く断言すると、

「言い切らなくてもいいじゃない。そうなの」

レイカは口を窄め呟く。

「あらぬ疑いをかけられる前に払拭しようかと」

「ふふ、別に疑っているわけじゃないの。ニコルはジャック様の名前を聞くだけで微妙に嫌そうな顔をするし、ジュリエットさんは畏れ多いと何も話してくれないし、貴女ならジャック様の話しができるかもっと思って。変な言い方したのは悪かったわ」

え?ジュリエットさんはわかるよ、ニコル先輩?!

ジャック話をしたいレイカの気持ちはわかる。

私もたまに刺繍とか裁縫の話が無性にしたい時がある。

「ジャック様の話ですか?いいですよ」

「そうね、まず。ジャック様、かっこいいわよね。」

レイカの目がキラキラ輝く。

「はい、容姿も整ってますし、体格もいいですね」

「そうなの、声もいいの。私みたいなのにも優しいし。話し方も素敵」

きゃーっとは叫んでないけど、何故か聞こえた気がする。

つらつらと出てくるジャックのカッコいい所。

完全ファン心理だった。

うんうんと頷き、話を聞いているとニコルが戻ってきた。私達の話が聞こえたのか、嫌そうな顔をしている。

「リオさん、局長が呼んでる。本館に行こう、レイカも行く?」

「ニコル、わかってて言ってるの?」

レイカはニコルを睨みつける。

「あぁ。局長もレイカがリオさんの付き添いで本館にこれるようなら一緒で構わないと言ってる。」

「ジャック様が、」

レイカは青い顔で俯く。

「無理はしないでいい。途中で戻ってもいい。一緒に行くか?」

「レイカさん、無理しないでいいです」

「……行くわ。」

立ち上がったレイカの顔色はまだ悪いが目に力があった。

管理棟から出る。

レイカは私の少し後ろを歩いている。胸の前で手を握り少し震えていた。

「レイカさん」

歩く速さを落とし、隣りを歩く。握り合わせた手を取り、繋いで歩いた。

「ジャック様はよく召喚課にくるんですか?」

「……そんなに頻繁には、いらっしゃらないわ。」

「やっぱり局長は忙しいんですね。うぅ、迷惑かけたので胃が痛いです」

「なにしたのよ。」

あ、ちょっと笑った。

「変な生き物押し付けました」

本当は売りつけたが正しい。

「なにそれ」

「魔生物局はてんやわんやの大騒ぎだったよ。アレ」

「何してるの、貴女」

「ただの不運体質な異世界人です」

「ただの、の使い方間違ってるわよ」

顔色はまだ悪いけど、表情の強張りはとれてきた。

「不運体質って大丈夫なの?」

「私は大丈夫ですよ。一個一個は大袈裟な物じゃないんで、慣れてます。それに不運体質を解決できたので最近は、外を日傘無しで歩けますし、好きな刺繍も思いっきりできます。」

「日傘無しで歩けないって何?」

比較的日常系の不運と実害はない旨を伝えると、ニコルは眉間に皺が寄り、レイカは開いた口が塞がらなくなった。

「まさか、球技と人混みが苦手って」

「はい、不運関係です。被弾率が高くて、痣ができたりしてました。人混みは、不運の余波が怖くて行けないんですよ。」

「さっき実害はないって言ったのに、怪我して、不快な思いもしてるわ。」

「それは実害の範囲じゃないですよ。実害は、私以外の人にでるので。それが辛かったな。一番酷かったのは階段から落ちて怪我した子がいました。それ以前にも、何人か、私と似た不運が続く子がいてその子達は直ぐ離れていったから、それ以上気持ちが強まることがなくて無事だっただけで。」

繋いだ手が離れたと、思ったら抱きしめられた。

「実害は出てるの。本当馬鹿。」

柔らかい胸の感触、頭を優しく撫でられ、目を瞑りされるままになる。温かくて、

「レイカさん、いい匂いがします」

「急に変態みたいな事言わないでよ」

さっきまでの空気が一瞬で霧散した。レイカにちょっと距離を取られた。ちょっと寂しい。

「酷い」

「酷いのはそっちでしょ。急に」

「レイカさんに引っ張ってもらわないと行きたくないなぁ。」

手を出す。

「な、何よ。もう、子供じゃないんだから」

また手を繋ぎ、本館へ向かう。

耳まで真っ赤なレイカを見ながら、アランには黙っておこうと心に決めた。

本館入り口に、ジャックが立っていた。

遠目から見ても目立つ。近づく私達に手を挙げ合図する。局長もローブなんだぁと思わずどうでもいいことを考えた。あ、ちょっと生地の質がいいし、豪華な刺繍がされている。

「ジャック様」

「やぁ、レイカ。久しぶり、あの時は慌ただしくてごめんね」

「いえ、リオさんが変な生き物を押し付けたって聞きました。お仕事大変ですよね、お疲れ様です」

耳も頬も赤くて、目も伏せ気味のレイカはより可愛くみえる。

「リオさんと仲良くしているみたいだね。じゃあ、行こう。レイカ、頑張ったね」

ジャックがレイカの空いた手をとる。

「ちゃんとご飯を食べられている様で良かった。」

「お気遣いありがとうございます」

二人でレイカを挟んで、本館を移動する。

受付に男性の職員がいたが、ジャックが視界を塞いでいたのでレイカの目に入らなかった。

廊下を占拠しているようで気が引けたが、手を離そうとするとぎゅっと握られるのだから離せる訳もなかった。

廊下を歩く職員と鉢合わせる事もなく局長室へたどり着いた。

人払いしたのかな?とジャックを見ると、目があった。ニヤリと笑う顔を見て、合点がいった。

ダシに使われた気がする。まぁ、いいけど。

局長室は広くて、造りが豪華だ。絨毯も、ソファも高そう。その室内で執務机が一番浮いている。豪華絢爛の中に質実剛健がいる。

ソファを勧められレイカと並んで座った。

控えていた側務めがお茶を準備している。

一瞬、女性かと思ったが、よく見れば男性だった。

「ジャック様、局長室はとても高そ、豪華ですね」

「隠せてないよ。歴代の魔導局局長が使った部屋だからね。流石に地味では駄目だし。後、魔法省では局長と呼ぶように」

「はい、失礼いたしました」

配膳し終えた側務めは直ぐに部屋を出て行った。レイカは気がついていないようだった。

「それでは、話をしようか。」

不運の実験を王都へ来てからしたこと。その時の不運の出方が少し違和感があること。

フレッドへ報告した内容に付け加えて自作品に不運が移ることも伝える。実践している不運を軽減する方法も。

そして不運は現在抑えられていること。アクセサリーをつけた状態の二週間、グラッドに何もなかったことが証明している。

不運にも大小があり、耐性がなく親しい人が一番強く影響がでて、物に移った不運が一番影響はない。

「もし、今リオさんが守り石を外して、街に出たら」

「日傘必須で、多分不審者にも遭遇しますよ。角では何かにぶつかる。もしくは、店先の商品棚が壊れて、商品が雪崩れ落ちてくるとか。動物に遭遇したら、逃げられるか威嚇されるか。つまづいて、転んだり、後は目当てのお店が急に休みもありますね。これが私のみの不運で、グラッドは屋内にいれば大丈夫ですけど。屋外にいたら、以前より被害が大きくなりそうです。考えられるのは、術式の実技で暴発とか、楽器の弦が切れて今度は首の近くを怪我するとか、落馬もあると思います。街にでたら、事故もあるはずです。」

「それに、範囲が広くなっていたり、普段の不運なら影響のない所まで影響がでている気がするんだよね?」

ジャックの確認に頷く。

「ねぇ、それなら、属性を持ってても少し影響するのかもよ?」

「ニコル先輩、それ一番考えたくないです。」

「リオさん、ちょっといいかしら?」

今まで黙って話を聞いていたレイカが口を開く。

「不運の軽減をしてるって言ったわよね?それにも優劣があるんじゃないかしら。自作の物に不運が移るのは、小さい不運よね。なら、料理や刺繍、裁縫は小さい不運軽減策にならない?」

目から鱗だった。今まで、刺繍で不運を軽減してきた。この世界にきてからは、諸事情により属性特化魔法をメインの軽減策とした。どちらも同じ軽減策という認識だった。優劣を考えたことがなかった。

「レイカ、その可能性はあるかもしれない」

たしかに、実験の前まで、属性特化魔法を使ってない。洋服に術式を組み込むのに夢中で料理以外の軽減策はとってない。言ってしまえば術式を組み込むのも軽減策になると思ってた。

「うぅ、でも範囲外の説明はできないです」

今までと違う状況ということは、それを生むきっかけがあるはず。今までと違うのは、守り石のアクセサリーを身につけたことで不運体質が抑えられていること。不運は私との心の距離感と耐性が関係している。

何かとっかかりが欲しい。

不意にグラッドの言葉を思い出した。

『少しの反応から強い反応になった』

私がグラッドへの気持ちを自覚した頃の守り石の状態についてそう評していた。

もしかして、

「濃度?」

「濃度か、属性特化魔法を使用していない期間は?」

「三週間位でしょうか」

「ニコル、サイス領と連絡をとってくれ。何か変わったことがなかったか確認を」

「かしこまりました。」

「流石に実験は危険だな。取り敢えず、これからは日常的に属性特化魔法を使って」

ジャックは難しい顔をして、守り石で抑えられているとはいえ気をつけることと注意する。

「はい。そうします。」

話し合いが終わる雰囲気の中、ローブが控えめに引っ張られる。

レイカが躊躇いながら、

「あの、グラッド様?って誰?」

尋ねた。

クリスには婚約者、将来結婚すら相手だと何の気なしに言えたのに、何故だろう。凄く照れる。

「こ、」

「こ?」

ジャックとニコルがニヤニヤ笑っているのが目に入った。

レイカは尋ねたからにはちゃんと聞こうと真剣な眼差しで私を見ている。

「婚約者です」

「?コンヤクシャ?……婚約者?!」

理解に時間差があった。

「はい、春には正式に婚約します」

「ちょっと、貴女、騙されてない?大丈夫?」

「大丈夫、です」

「ジャック様、本当に大丈夫なのですか?」

「他の貴族よりも何倍も大丈夫だよ」

心配されていることは嬉しいのだけど、

「恥ずかしい」

両手で顔を覆う。

「無表情だけど、それは伝わるわ」

気をつけないと表情筋が仕事しない。


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