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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
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召喚課二日目1

熱中癖をなんとかしないと駄目だなと何度目かの反省をしている。

よく母さんにも怒られた。千加やミランダにも強制的に止められた。

「ストッパーって大事。」

つい、夢中になって試作品が出来上がった。

そこまではいい。これが駄目だった時の代替案を考え始めたのが間違いだった。

夜更かしし過ぎた。眠い。

寮の食堂で軽食を食べて、管理棟へ出勤する。

「おはようございます」

ドアを開けたら、何故かニコルが机に突っ伏して寝ている。

「おはよう。ニコルは久しぶりに寮の部屋に戻ったけどベッドの寝心地が悪くて寝れなかったらしい」

アランが、洗い物をしながらニコルの状況説明をしてくれた。自分の机に荷物を置き、台所スペースへ移動する。

コップを取る。

「うわー、悲しい。あのアラン、紅茶はあります?」

「ある事にはあるが、俺は上手く淹れられない。」

「そうなんですね。意外です、水場の主だからなんでも出来るのかと。あ、大丈夫ですよ、自分で淹れるので。」

初めて紅茶を淹れた時、ジュリエットに微妙な顔をされたそうだ。

「私もここにくるまでお茶を茶葉から淹れたことないですよ、『ティーバッグ』でした。」

「俺も。『ペットボトルのお茶』だった」

茶葉をアランから受け取ると、お茶の準備を始める。その様子を興味深そうにアランが見ている。

「アランは緑茶派ですか?ハーブティー?そういえば麦茶っぽいのもあるって言ってましたよね。」

「俺はコーヒー派。ここでは手に入りにくいから、中々飲めないけど」

「コーヒーもあるんですね。勉強になります」

「あら、リオさんは紅茶を飲むの?」

「あ、ジュリエットさん。おはようございます」

「おはようございます」

ちょうどドアを開けて入ってきたジュリエットが、私の持っているポットをみてそう尋ねる。

「一緒にどうですか?」

「よろしいのですか?では、いただきます」

素早くかつ優雅に近づいてきた。

カップに注ぐと、ジュリエットは目を閉じ香りを楽しみ始めた。それから、口にする。

「はぁ、素晴らしいですわ。我が家の侍女にも負けず劣らずの味ですわ。」

「それは良かったです。アランもどうですか?」

「あ、ありがとう」

「うん、上出来。美味しいな」

三人で紅茶を楽しみ、ジュリエットが結構饒舌に紅茶を淹れる技術がどうのと語っている。

「あ、いけませんわ。お仕事の時間ですね。それでは失礼します」

紅茶を淹れたカップを持ち、ジュリエットは持ち場に向かう。ポットは早くも空になっている。洗おうとするのをアランに阻止された。

「これよりも、ニコル起こせ」

「あ、はい。宜しくお願いします。」

アランの言葉に甘え、ニコルを起こす。

ニコルはめちゃくちゃ気持ち良さそうに寝ていた。

凄いな、机でこんなにいい顔で寝れるとか。

「ニコル先輩。起きて下さいよ、本当に起きて。……ヤバいですよ、ジャック様来てますって」

体を揺すっても起きなさそうだから、耳元で真剣に囁く。ビクッと肩が揺れた。

「……おはよう、リオさん、でも心臓に悪いから、やめて」

低い声でニコルが唸る。

申し訳ない気持ちで一杯だったが、仕方ない。

「アラン、ニコル先輩起きました。」

「おー、凄え。」

「ところでアラン、レイカさんは」

「あぁ、今は歯磨きを嫌がるクリスに悪戦苦闘してるところだろうな。」

確か、子供は歯磨きを嫌がる生き物だと何時だったか、兄貴の友達が言っていた。

「リオさん、今日の予定の話をしようか。眠い」

「はい、お願いします。寮のベッドで寝れないって、いつから帰ってないんですか」

「まず、昨日の続きの話を隣りの資料室でしよう。その後は、レイカ達と勉強、昼食挟んで、クリスは運動とお昼寝、その間は書き取りや文化や習慣の学習。クリスが起きたら、クリスはその他の勉強。適宜休憩を挟みつつ夕方まで。……三ヶ月かな」

「何か、すみません」

絶対召喚関係だよ。つい、謝った。

昨日の話の続きをするべく、椅子を持って隣りの部屋に移動する。机の必要性を訴えて勝利をもぎ取った。

じゃあ机取ってきますと廊下に出たら、

「おはよう、リオさん」

「おはようございます、レイカさん、クリス」

朝から少し疲れた顔をしているレイカと対照的に元気なクリスと鉢合わせた。私の周りをちょろちょろと走り回る。

「危ないですよ。クリス」

「リオ、あのねあのね。今日のお昼はハンバーグだって、アランがりょーりのおじさんに聞いたって」

「楽しみですね。」

「うん」

「ほら、クリス、行くわよ」

あ、そうだ。クリスを連れ、部屋に戻ろうとしている背中に声をかける。

「あのレイカさん。試作品出来たので、」

見てもらえますか?と言葉を続けることは出来なかった。

勢いよく振り向いたレイカに

「はぁ?貴女、昨日の今日よ?馬鹿なの?」

怒られた。

「あはは、そうみたいです」

笑って誤魔化せないだろうか。

「っ、ちょっと来なさい!」

無理だった。一応、レイカに怒られてきますとニコルに声かけて、レイカについていく。

「アラン、ちょっとクリスをみてて」

レイカに手を掴まれ、奥の部屋に引っ張られる。荷物に手が届かなかったので、魔力を伸ばして確保し引き寄せる。

レイカは『なんなの、本当信じられない』とぶつぶつ呟いている。なんの反論もできない。

レイカの個人スペースにお邪魔して、取り敢えず試着してもらう。

ぬいぐるみを作って余った布やミランダから貰った布を使って作成した。

「どうですか?」

「……悪くないわ。」

「よかったー、ちゃんとした下着を買ってきますから、それまでこれで凌いでいただいて」

「ありがとう、リオさん」

ぽつりと呟いたレイカの頬が紅潮している。

種類を用意したので、使える物だけ選んで貰う。

「馬鹿なの?本当に馬鹿でしょ。いくつ用意してるのよ。限度があるでしょ。って、貴女寝てないんじゃ、」

喜んでいただけて良かった。

後、長めの布を使ったホルターネックビキニ風になる結び方を教える。

「今使ってる下着は貰ったって言ってましたけど、最初から合わなかったんですか?」

「最初はよかったわ。最近合わなくなって、コルセット部分を切って胸だけで着てたの。それなら調整して着れたから」

「あぁ、下着が縮んだか、胸が大きくなったか、悩むとこですね。大丈夫です、レイカさん。ちゃんと下着用意しますから、安心して下さいね」

「なんで、こんなにしてくれるのよ。」

レイカの質問に、ドキリとした。

「同郷って言うのもあると思いますけど、」

「けど?」

「レイカさんは私の事どんな風に説明されました?」

「異世界人って聞いてるわ」

身体はクラリスのもので、初めは戸惑いが大きかった。

髪も顔、手指、そして、

「召喚されたんです。でも、身体は私の物じゃなくて、精神だけの入れ替わり召喚なんです。元の体では、胸が大きくてですね。結構悩みというか、気にしてて。だからっていうのもあります。でもちょっと急でしたね、ごめんなさい」

クラリスは胸のサイズが控えめだったから、肩が凝ることもなかったし、動きに気をつけたり等の気を遣わずにいられた。

「あと、最近下着が合わなくなってて、買いに行かないとと内心思ってたから、敏感になってまして。」

「そう、へんなの。そんな理由って」

レイカが笑う。美人の笑顔はやっぱり威力が凄いわ。


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