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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
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召喚課一日目4

「リオさん、集中力が凄いね」

声をかけられて資料から視線をあげる。

と、クリスとニコルが至近距離で資料を覗き込んでいた。

「リオ、もう、夜だよ」

「そうそう、ジュリエットさんなんて『もう時間ですね』ってさっさと帰ったよ。」

「もう、夜なんですか?」

「うん、ぼくはね、これからご飯なの」

就業時間は夕ご飯の前までだ。

「ご、ごめんなさい。すぐ帰ります」

急ぎ資料を閉じ、片付けようとした私をニコルは止める。

「いやいや、いいんだよ。ところでどこまで読んだのかな?」

私は、転移者支援の大まかな歴史と支援の差、転移者の生存に関する資料、現状把握の為に近年の生存者の証言を中心に読んでいたことを伝える。

「なるほど、それでどう?」

「女性生存者の性被害の割合の高さに動揺しています。あと、転移者支援の差に疑問がつきません」

「じゃあ、夕ご飯食べてから話そうか」

「リオも一緒?」

「ですが、レイカさんは」

「さっき早めの夕食をとって部屋に戻ったから、気にしないで。顔を合わせるのを避けていられない、明日明後日ずっと続くわけだし。」

メモをまとめ、資料を棚へ戻す。

ニコルとクリスが、机と椅子を隣りに戻していた。明日も使おうと思っていたのに。

「この部屋に机と椅子は危険だと判断しました」

と笑顔で断言された。クリスも神妙な顔で頷いている。

何度声掛けても、気づかない。控えめなアピールでは駄目だと至近距離での声かけに至りましたとニコルに言われてはぐぅの音もでない。

資料室から戻ると休憩用のテーブルには、料理が並べられていた。

アランは、部屋に入ってきた私達に気づくと、

「お疲れ。ニコル、リオさんのコップはこれ?」

緑のコップを見せてきた。

「そうそう。」

「なんで、リオはミドリなの?」

「さぁ、何故でしょうか」

クリスと二人首を傾げる。

クリスは赤、レイカは青、アランは黄色、ジュリエットは桃色、ニコルはオレンジのコップを使っているらしい。その他にも、ジャックの黒、外回りの職員の茶色と紫があるそう。

欠番だからかな?と思ってたら

「そんなの決まってますよー、婚約者さまの瞳の色じゃないですか」

とニヤニヤ笑いながら隣でニコルが言う。

思わずニコルの腹に拳を撃ち込んだのは、ミラの冒険者教育の賜物かもしれない。

「あ、ニコル先輩、ご、ごめんなさい。つい」

「ごほごほ、つい?ついでこんな強めの拳飛んでくる?」

「リオ、こんやくしゃさまってなーにー?」

蹲るニコルを無視して、クリスがローブを引っ張り尋ねてくる。

「えっと、将来の結婚相手です」

わかるかなと思いつつも正直に伝えると、クリスは驚愕の表情で固まってしまった。

「リオ、結婚するの?」

「はい。時期は決まっていませんが」

するとクリスはしょんぼりと肩を落とし、アランの所まで走って行った。アランの足にコアラのようにしがみつく。

「ニコル、リオさん、料理が冷める。手洗って席について。何飲む?お茶とジュースがあるけど」

足にしがみつくクリスをそのままに、アランは各人のコップをテーブルに並べていく。

「僕、お茶。」

「あ、私も。アランさん、すみません。手伝いもせずに。」

「?構わない。レイカもニコルも手伝った試しがない。」

アランの言葉に

「違いますぅ。水場の主導権をアランが握ってるからですぅ。僕もレイカも自分でお茶位淹れられるもん」

水場で手を洗い席に着いたニコルが反論する。

その隣りに私も座る。アランはクリスをそのままに自分も席に着く。

アランの淹れたお茶はこの世界に来て、初めての緑茶だった。サイス領は紅茶が盛んだから、気にもしなかったが、緑茶があるのか。

「緑茶があるんですね」

思わず呟いた。

「ん、初めてか?麦茶っぽいやつもあるぞ」

麦茶もあるのかと驚く。でもそれよりも気になるのは、

「あ、あのアランさん、クリスが」

テーブルの下のクリスだ。

「アランでいい。クリスはリオさんが結婚するのがショックだったみたいで拗ねてるだけだ。ほっとけば、お腹がすいて離れる」

「ですが、」

「しつこい。」

アランはさっさと食べ始め、ニコルも食べだした。

私は食べづらくて、料理に手を出せないでいると、テーブルの下からクリスが顔をだした。

「ん、手出せ」

アランはクリスを椅子に座らせると、その手を布巾で拭き、フォークを握らせる。その様子をみて安心して食事を始められた。

「いただきます」

食事は各棟に併設されている下働きの為の宿舎毎に料理人がついていて彼等の裁量で決まる。

技術、献立、食材の違い。毎年料理大会なるものがあるようで各棟の料理人がそれに向け日々努力していると教えてくれた。

「美味しいです。」

伯爵邸の料理も美味しかった。でも魔法省の料理も侮れないくらい美味しい。

「でしょ、僕は寮の料理よりこっちの料理が好きだから、ついついこっちに入り浸ってる」

「料理のせいじゃないだろ。ニコルは、仕事のし過ぎ。死ぬよ」

「リオ、アランはねぇ、ニコルが心配なんだよ。優しいねぇ」

「そうですね」

「喋ってないで、食べろ」

照れたようにそっぽを向くアランにクリスが、笑顔ではぁーいと返事をする。

「アランは英語の時と大分雰囲気が違いますね」

ぶっきらぼうというか、つっけんどんな印象だ。

「言葉の相性だ」

「アランはまだ選べる言葉が少ないからかな」

「どっちのアランも、すきよ」

クリスの言葉のチョイスが面白かった。

夕食を食べ終えるとクリスが私の隣にきて、

「あのね、あのね。リオ、レイカはね、優しいよぉ。ぼく、よくハグしてくれるもん。マミィみたい。アランは、あんまりお話し好きじゃないけど、優しいの。」

内緒よと小声で教えてくれた。

昼間の事を喧嘩だと思ったのかもしれない。

「クリス、僕は?」

その横で聞き耳を立てていたニコルの問いに

「ニコルはペット」

間髪入れずに答える。

「酷い」

「ふふふ、レイカさんとアランはクリスの大切な人なんですね。昼間はびっくりさせてごめんなさい。」

「ううん、レイカが、プンプンしてただけなの。嫌いにならないでね」

クリスは首を横にふる。

「はい」

「おいクリス、風呂行くぞ」

「はぁーい」

アランに連れられ、クリスがお風呂に向かう。

するとニコルが向かいの席に移動し、転移者支援の話になった。



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