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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
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召喚課一日目2

転移者についての資料は、衝撃的だった。

クリス。

保護当時の年齢は推定三歳頃。アメリカ出身と推定。

一年前ウパラとマウリッツの境の村で保護された。

ウパラの神殿へ移動のちに魔法省が受け入れた。

当時は混乱状態にあり、毎夜両親を恋しがり泣いていた。

言葉が通じず、転移時の状況は分からない。

加護膜は形成されているが、不十分であり屋外での活動に制限がつく。擦り傷程度の外傷のみ確認。

転移者には珍しく魔力を持っている。

加護属性は闇と火である。


アラン。

保護当時の年齢は17歳。出身はイングランド。

一年前コランダム北西部の平原で冒険者により保護される。

その際、魔獣の死骸が散乱していたこともあり、状況から魔獣の群れの中へ転移してしまい、必死に抵抗したのではないかと推察される。

本人は当時の事を恐ろしい記憶としているため、思い出すことに抵抗があり、所々の記憶が抜け落ちている。

左足に大きな裂傷、全身に多数の咬み傷が残っている。

加護膜は形成されている。動物に恐れを感じている。

加護属性は火、土である。


レイカ。

保護当時の年齢は22歳。出身は日本。

一年半前マウリッツの海辺の街で騎士課により保護される。奴隷として外国へ密輸される所を保護。

本人は当時の状況を語らないが、一緒に売られてきた女性の証言から山間の集落から連れてこられた事が判明。

長期間の執拗な性暴力を受け、心身に深刻な被害が残る。

右肩から背中に裂傷、その他打撲、左上腕部の焼印、陰部に傷、骨折の跡などを確認。

心身共に衰弱が激しく、一時マウリッツで、療養。後王都へ移動。

転移した時期場所は不明だが、一年以上奴隷として扱われていたことは判明している。

加護膜は形成されている。

男性恐怖症であるが、同じ転移者のクリス、アランへの嫌悪はない。また、救出に携わった魔導局局長ジャック・ラングストンへ敬愛、憧憬のような感情を確認。

加護属性は水、風である。


資料を閉じる。

目を閉じて、息を整える。深呼吸を繰り返す。

無知は罪だ。

何も知らずに転移者の支援を考えた自分が安易に思える。

知らない世界に突然来て帰れない。生きることすらも簡単ではない。その実態を理解してはいなかった。

死亡しているのか、拐かされているのか、だって?ただただ言葉を追っていただけだ。

私は召喚でこの世界に来たけれど、状況は恵まれていた。

命の危険もなく、周囲の人達の支援があり、結局帰ることは叶わなかったけど何事もなく生きている。

危険と不安と計り知れない苦痛を、何も理解していなかった。そんな自分が恥ずかしい。

『知らないことは、知っていけばいい』

『悔しければ、学べばいい』

何度も深呼吸を繰り返す。

『自分自身への苛立ちを糧に力を尽くせ。』

何度も心が落ち着くまで繰り返す。

「よし。大丈夫」

目を開けると、目の前にニコルがいた。机の前にしゃがみ私を覗きこんでいた。

「じゃあ、これから学習の流れを教えるね」

「はい、お願いします」

ニコルは自分の席の椅子を運び、私と向かい合うように座った。そして、一枚の紙を机に置く。

「これは、彼等の一日の流れ。各棟に併設されている下働きのための宿舎があるんだけどそこで洗濯をしたり、食事をすることができる。クリスは加護膜が未熟だし、レイカは男性が怖いから食堂での食事はしない。食事はアランが運んで、ここで食べてる。洗濯はレイカが好きで率先してる。洗濯は女性が主に行っているから行きやすいってのもあるかな。朝の時間帯は大体家事をして過ごしている。クリスは、掃除を頑張ってるよ。机を拭いてる。可愛いんだよね、僕の毎朝の癒しだよ」

管理棟は人の数が少ないから下働きの宿舎は魔生物局の飼育棟の宿舎と兼用だ。丁度飼育棟と管理棟の中間の位置に建てられている。

「それでは、朝の時間帯の私の仕事は、彼等のお手伝いでしょうか?」

「いや、リオさんはこの部屋の隣りに資料室があるのでそこにある召喚者、転移者に関する資料の読み込みをしてもらいます。」

「わかりました」

「ふふ、いい顔ですね。えーっと、昼前から勉強を初めて、休憩をとりつつ、夕方まで。その後は、洗濯物を取り込んだり、夕食を取ったり、お風呂に入って就寝。」

「お風呂って何処に」

「管理棟の入り口に階段があったでしょ?その向かいのドアが宿直室。以前は管理者がいて使ってた部屋です。そこにはトイレも風呂もベッドもバッチリ完備されてます。台所も小さいけどありますよ。寮に戻るのが億劫な時に使っています」

「なるほど」

「それで、学習進度だけどアランは日常会話は問題ない。読み書きが少し不安。レイカは会話は問題ない。読み書きはアランと同じ位、でもすぐ日本語を使おうとしがち。クリスは知らない言葉が多いだけかな、二人よりお喋りだし幼いという事もあって同年代の子とあまり変わらない。」

学習方法などの確認をする。

「それから、この学習の中で彼等の母国語や文化、歴史、習慣を書き留めることが大切。召喚課はその情報を次の世代に繋ぐ役割を担っています。もし、僕達が居なくなって他の誰かが急に召喚課の仕事を引き継ぐことになっても最低限の混乱ですむように対策はしなくてはいけません。そのために情報を残す。」

「はい。わかりました、ニコル先輩」

「ニコル、今いいか?」

奥の部屋からアランがでてきた。

私達の所に来ると、勉強の準備が整ったと教えてくれる。

「レイカは、落ち着いてる?」

「まだ、少し気がたっている。でも、クリスはリオさんに興味津々で、分けて対応すると面倒な事になると思う」

「クリスがリオさんに懐いちゃってレイカがヤキモチ妬いちゃうかー、仕方ない。よし、リオさん。頑張っていこー」

「はい、頑張ります」

「教科書はこれね、はい」

ニコルは自分の机に手を伸ばし、本のようなノートのような冊子を私に手渡す。

中をパラパラとめくる。

色々な図解や事例をあげて単語の理解を深めるような内容だった。

「ほら、行くよ」

「はい」


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