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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
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ミラとセシル3

視線を巡らせてセシルを探すが、いない。窓の外は暗くなっていた。

「あ、」

「リオ様に部屋は関係ないようですね。」

ぐうの音もでない。

「すみません」

「夕食をとって、今日はもう作業しないでください。いいですね?」

「はい」

集中しすぎて、帰った事にも気づかないとか。

「それにしても、リオ様は裁縫がお上手ですね。何故今まで裁縫道具をねだらなかったんですか?」

ミラがぬいぐるみをくるくる回しながら尋ねる。

裁縫道具を購入したのは、王都についた日の買い物だった。

「作った物に不運が移るので、危険で。」

「あちらの世界では、危険ではなかったのですか?」

「あっちでは、千加が管理してたので安心してました。こちらではクラリス様は余り得意ではなかったのと闇属性を持ってない方に渡るのが怖くて」

「なるほど、ん?ちょっと良いですか?それは、どの範囲まで有効ですか?物の種類って」

「基準は私が意識を向けて作った物なので、」

「手紙や書類も含みませんか?」

いやいや、流石に違うと言いたい。

授業のノートの貸し借りでも少し影響があったような事を言われた事があった。先生からの指名が多くなる程度だったから、私のせいじゃないよと思っていた。

でも、授業のノートより手紙や報告書、読書メモは意識を割いていた。もしかしたら、

「う、可能性があると思います。」

あ、クラリスの報告書とか、あれは何処にあるんだろう。

「あ、あの。報告書は今どちらにあるんでしょうか」

「私が、原本はサイス領に持ち帰りましたよ。」

「よ、良かったー。はぁ、報告書や手紙は意識外でした。でも、手紙って送ってしまいましたよね。どうなったんだろ」

「セシルに探らせましょう。クラリス様の手紙をもらった後からついていないことが頻出した方と加護属性を照らし合わせると、面白いですね。グラッド様も喜びます」

「?グラッドが喜ぶのですか?何故ですか?」

「グラッド様の趣味、は怒られますね。ミランダとミゲルの指導内容に集められる情報は集めろというのがありまして。それ以降グラッド様は調べられる情報は調べるようになりました。学生の成績を把握するのもその一環です。大体一目で弱点が分かりますし。恐らく加護属性も調べていると思います。有効な攻撃を効率的にだせます。」

「クラリス様が趣味と疑うのも無理もないと思います。」

「まぁ、それすらも利用してますので問題ないですね」

「でしょうね」

ミラはなんだろう、加護属性や不運というよりも他の所に面白さを見出しているように感じる。

「ミラは戦うことが好きなのですか?」

「ええ。後どうやれば有利に戦えるかと考えるとわくわくしますね」

「ミラが私ならどうやって戦うのですか?」

「そうですね」

私の刺繍を活用した場合ならとミラが喋り始める。

対人であれば姿を隠す魔法、ミラ曰くレベル4の属性特化魔法を破れるのは相、反する高レベル属性特化魔法か、同レベル属性特化魔法しかないそう、を使い接近、刺繍をベルトなどに挟み様子を見る。自爆し始めた所を後ろから刺せば良い。自爆しない時は魔力でゴリ押しできるそう。でもそれでは面白くないので、視界を奪ったり、複数人が相手なら同士討ちを狙って自分に見えるよう魔法を使ったり、魔力の状態変化で足止めしたり、沢山案でてきた。

「リオ様が、真似するなら姿を隠し視界を奪って刺繍を仕込むといいでしょうね。接近が難しい時は遠距離から魔力を操り刺繍を仕込みましょう。後は豊富な魔力で強引に制圧しましょうか。接近戦はある程度経験と勘が必要になりますから」

生き生きと話すミラに呆然とする。おぉ、私が刺繍について語る時の千加の気持ちが何となくわかった。

やり過ぎ注意だ。

遅くなったが、セシルの作った夕食を食べる。

「美味しい、凄いです」

私のとは違う、なんだろ、料理人の味みたい。

アマチュアとプロの差のようなものを感じる。

「セシルは器用なんですよ、家事全般私よりも上手にこなしますし、侍従としても優秀です。まぁ、偶に天然発言でヒヤリとさせるんですけど」

「天然、」

そんな感じは全くないのだけど。とミラを見ると、

「偶に、ですよ。クラリス様の変化を感じた時に進言したのも天然が出てきた一例ですか。わざわざグラッド様の侍従がすすんで、あの場で口にしなくても良かった。でもあの場だったから口にしても良かったんです。他の場だったらと考えると少し怖いです。偶に、何も考えてない自分の感情に素直な一言が出るのはセシルの可愛いとこでもあるのですけど」

「ミラ、」

「惚気ですよ。リオ様、報告がございます。私が今ミランダとして話すことをお許しください。サイスに戻ったら、セシルと結婚します。大分待たせてしまいました」

居住まいを正し、そう報告したミランダに

「どうして、」

おめでとうという言葉よりも疑問が先に口をついて出た。

「祝福してはくれないのですか?」

少し寂しげに笑うミランダに、意を決して断言する。

「ミランダが本当に望んで結婚するなら、祝福します。でも、何かを黙って諦めて結婚するなら、反対します」

「何かを諦める、ですか。本当にリオ様は未成年ですか?ここは何も考えずにおめでとうでいいんですよ」

敵いませんねと笑う顔は、何処か嬉しそうだった。

「セシルとの婚約は10年前に結びました。ただ、セシルのおばあさまが反対をしていて、婚姻は叶わず今に至ります。その当時、私はただの冒険者でした。その後からミレニア様に誘われて侍女として働き、でも許しを得られる訳でもなく、セシルの望みで続いた婚約でした。セシルはああ見えて貴族の子息です。私とは身分が違います。本人とフレッド様達は気にしない人達ですから良いかもしれません。ですが、身分を超えることは想像するよりも厳しいのです。」

それからミランダはミレニアの話を例にだした。

ミレニアはニビ子爵の親戚であり、魔力も思想も問題なかった。実力主義のサイス領ですら、ニビ子爵の血筋とは言え傍流だと陰口を叩かれた。一般貴族だとはいえそういうことを言う人達はいる。

「ミランダは冒険者のミランダを諦めたのですか?」

「貴族の奥様は、冒険者なんてやらないし、今の本職は侍女で」

「セシルさんは、それ知ってるんですか?」

「いえ」

「ミランダが冒険者を辞めたって知ったら」

グッと手を握り締める。

「リオ様。セシルには言わなくていいことです」

「駄目。絶対駄目です。貴族の奥様を望むなら、セシルさんはミランダじゃなくて文句のつけようのない貴族の令嬢と結婚してます」

「……泣かなくてもいいと思いますよ。」

「諦めたら駄目です。」

「リオ様は私に辛い道を歩けと?」

「はい。その道は私も歩く道なので一緒に歩いて欲しいです」

貴族のミレニアだって言われるなら、私もそうだ。

クラリスの体に別世界人の心、貴族という身分を貰っても中身はただの庶民だ。ミレニアより粗探しが簡単で多くなるのはしっている。

「私は私の事を知らない人に悪く言われても、もう挫けません。それに、ミランダが冒険者を辞めても陰口の種類が変わるだけでなくなることはありません。絶対です。なら、好きなことやめる意味なんてない。」

チラチラとよぎる過去の嫌な事を抑え込み、言い切る。

中学の頃、行事に参加してもしなくても揶揄われるのは変わらなかった。作った人形は呪いの人形扱いされた、でも作らなくなっても今度は呪いの藁人形を作ってるんだって噂を流された。私は数少ない耐性のある友達がいたから頑張れた。

涙を拭うこともせず、興奮でプルプル震える私にミランダは降参ですと両手を挙げた。

「辞めませんから、もう泣かないで下さい」


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