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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
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ミラとセシル1

翌日セシルが一人でやってきた。

「リオ様、申し訳ありません。グラッド様は別件で不在でして」

グラッドに会えないのは残念、でも仕方ないことなのは分かる。

「私に謝られても、困ります。それに開口一番がその台詞なのもどうかと思います」

「あ、申し訳ありません。グラッド様が残念そうだったのでつい。」

「許します、是非その様子を教えて下さい」

家の中に招き入れる。ミラの部屋までの間、グラッドの様子を教えてもらう。

「可愛いなぁ、グラッド」

「そうリオ様が、言っていたとお伝えしておきます」

「いやいや、それは伝えなくてもいいんですよ。……ミラ、入ります」

ドアを開けると、ベッドに上体を起こしたミラが極悪な笑顔で待っていた。

「おはようございます、セシル。待ってましたよ」

「リオ様、私ミラが怒ってるように見えるんですが」

「気が合いますね、私もです」

入り口で立ち止まった私達に、ミラが早く入室するように急かす。ミラの側に寄る。

「おはようございます、ミラ」

「おはようございます、リオ様。すみませんが、セシルと二人きりにしていただけますか?」

悪どいどころではない笑顔に勢いよく頷く。

「わかりました。それじゃあ私は買い物にいってきますので、えっとセシルさん、台所に昨日作ったスープがあるので後で温めてください」

「買い物ですか?」

表情がいつものミラに戻る。

「昨日、千加と連絡を取ったんです。その時にぬいぐるみを作成して欲しいと依頼されて、今日買い物に行きたいのですが」

うぅ、言いづらい。お金を得る経験をした後だから特に言いづらい。

「ミラ、お金を貸してください。」

「ええ構いませんが、」

ミラは少し考え込むように黙り、セシルを見る。

「セシル、すみませんがリオ様について行ってくれませんか?」

「ミラ?だ、駄目ですよ。セシルさんはミラの為にきてるんですから。私は一人でも買い物してみせます。」

一応相場確認で色んなお店を回って大体の値段は把握している。一人で買い物にいける自信があった。

「リオ様、私は構いませんよ。午前中はミラの診察に費やすので、午後から一緒に行きましょう」

「セシルをつける理由は多々ありますが、まぁ気軽に荷物持ちにすればいいですよ。」

「荷物持ち」

納得してない私にミラが思案顔になる。

「ミラ、流石に私の扱いが酷い」

「どれほどの買い物かは知りませんが、治安は大分良い王都とは言えある程度の金額を持つのですから一人は危険です」

ミラの説明に頷く。午後からセシルと一緒に買い物に行く事が決まった。

「ミラ、朝ご飯は食べられますか?昨日の残りで悪いんですが」

「食べます。昨日のゼリーもまだありますか?」

「ありますよ。すぐ用意しますね。」

では私も手伝いますと言いかけたセシルの腕をミラが掴んだ。

「ちょっといいですか?セシル」

「良くないです」

そんなやり取りをする二人を残して、急ぎ台所へ向かう。

スープを温め、パンの表面を焼く。冷やしていたゼリーと一応茶碗蒸しも一緒にトレイに乗せる。ふきんとトレイを持ち階段を上がる。

「戻るの怖いな。でも、ミラが怒るってセシルさん何したんだろ。治療が雑だったとか……いや、無いな。」

繊細なお菓子を作る人だ、雑な事はないだろう。益々謎が深まるばかりだ。

ミラの部屋の前にきて気づいた。ドアが開けられない。仕方ない、開けて貰おうと声を出そうとしたら、ドアが開いた。セシルだ。

「良く分かりましたね。びっくりした」

ミラに開けるよう言われただけですよと笑いながら言う。気配に敏感なのか、はたまた魔法か。

「ミラ、お待たせしました。」

トレイをセシルに持っていて貰い、ナイトテーブルの下の収納スペースから小さなテーブルをだす。ふきんで軽く拭いて、ミラの前にセットする。トレイを受け取り乗せる。

「手際がいいですね、リオ様。というか、このテーブルがあるってよく知ってましたね。」

「私の部屋にもあったので、こっちにもあるかなって思って。なければ隣りから持ってこようと思ってました。」

設備の確認に余念が無いのは、よく私のだけ何か無いという状態が多いからだ。

身に染み付いた癖だ。

「うん、美味しいです。これは何でしょうか。たまご?」

「『茶碗蒸し』って料理です。プディングが近いですか、もしかしたらシノノメ領にはあるかもしれません。あ、これは、ミラの口に合うように鶏出汁で作りました。」

口元がにやってなったミラが可愛いなと思いながら、口にすると無表情に戻ってしまいそうだったから我慢した。

あっという間に完食して、デザートのゼリーをじっくり食べてる。

「ミラはゼリーが好きなんですか?」

セシルの質問にミラは意図がわからないと首を傾げた。

「?何故です?」

「私のお菓子をそんなに味わったことないですよね」

「あ、ああ。そうですね、お菓子は余り好きではないので」

セシルがわかりやすく落ち込む。

いいんですよ、知ってましたとぶつぶつ呟いている。

「ごちそうさまでした。リオ様、ありがとうございます」

「いえいえ、お口に合って良かったです」

食器とテーブルを片付けて、部屋を出る。ミラはお腹が満たされて少し眠そうな顔になっている。

ミラ、ちょっと、寝ないでくださいって焦ったセシルの声が聞こえた。

居間で朝ご飯を食べて、細々とした家事を済ませる。

午後からセシルと一緒に買い物に出る。

診察を終えたセシルの顔色が少し悪いのが気にかかった。

「大丈夫ですか?顔色が」

「問題ないです。リオ様、お金は私が預かっていますので気にせず買い物して下さい」

「はい。わかりました。では、宜しくお願いします」

鞄から取り出したミラ特製の地図を見たセシルが、

「ミラは真面目ですね」と笑った。

「ミランダとミゲルはそんなことしませんし、適当に道なんて歩いて覚えろな人達ですから」

「豪快な」

「ミランダは無頓着で、ミゲルは横暴、ミラは二人より真面目で世話好き。」

「セシルさんは、ミランダとミゲルの区別がつくんですよね」

地図を口元にあて小声で聞く。

「ええ、あの二人の入れ替えっこは昔からよくやる遊びなんですよ。ミゲルはもっと横暴、ミランダはもっと無表情って思ってるので見分けは簡単ですよ。」

そうなると益々ミランダの双子の兄ミゲル、本物が気になる。

「昔のミゲルは今よりも根無草で、それをミランダが引き留めていました。ミランダも昔は無頓着の上に無関心で、ほっとくと生きてはいなかったと思います。それをミゲルが生かしていました。二人で互いを支えて生きていました。ミゲルは妹のことになるとちょっとやり過ぎるとこがありますけどそんなに悪い奴ではありません」

楽しそうに話すセシルと布を買い歩く。

みせてもらったイラストの感じだと複数の服を要求されるのが目に見えていた。わざわざ着せ替え可能って紙の端に書いてあった。千加は言及していなかったから、要求を無視する気だけど絶対負けるのが分かっている。

結構な量の綿、布、糸、ボタンなどを買う。

全部吟味に吟味を重ねて神様が満足する品質にしなくては。ボタン一つとっても妥協しないよう見比べる。

「凄い量ですね」

「千加はここまでの準備はいらないって言いそうなんですけど、私は何度も助けて貰ったので。出来ることはしてあげたい。手芸は得意なので役に立ちそうでよかった。」

かなりの時間をかけて、買い物を終えて帰る。

「セシルさん、すみませんでした。こんなに長い間拘束してしまって、ミラの事を診るためにきてくれたのに」

「いいんですよ。グラッド様にはミラとリオ様を助けるよう仰せつかっていますので。あ、内緒ですよ。心配性なところ意外と気にしてるので」

「可愛いしかない」

「リオ様、ダダ漏れてます」

「すいません」

「構いません。グラッド様に報告しておきます」

「やめてください」

「では、リオ様の手料理で手を打ちましょう。お土産にさせて下さい」

「いいですよ。不運が仕事しないのが分かったので安心して料理できます」

守り石を外さなければ不運が漏れることはない。安心して耐性のないグラッドやセシルに料理を振る舞える。


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