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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
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不運実験4

不運体質を利用した実験は興味深いことばかりだったようだ。

まず、建築物の守り石よりアクセサリーにした守り石のほうが不運の封じ込めが完全であるということ。

以前は建物内であっても不運の飛び火はあった。現れるのは屋外のみではあるが。

それがアクセサリーをするようになってからは、屋外にいても起きなくなった。

約三週間程観察した結果だそうだ。

それから、不運の飛び火は急に現れるのではなく、私から飛んでくる。

あとは魔獣に変化させる。または、させるのではなくたまたま変化手前の動物を捕獲しただけ。

これに関してはどちらもありえる。自身に降りかかる不運の中で命の危険に直結する不運は今までなかった。ただし、あちらの世界での話だ。後、グラッドが被る不運だった場合は危険が伴うので、不運が変化に関与した可能性が高い。

いや、実際はどうあれ変化に関与していると考えていた方がいい。

そして加護属性のない人間が属性特化魔法を使用できるか否か。この実験の時は、よく覚えていない。

グラッドの話だと、接触率と好感度が関係しているようだった。グラッドへの飛び火の量とセシルへの飛び火の量は雲泥の差がある。その上で、私の肩を抱いた状態以上でないと属性特化魔法は使えない。一応、肩を抱いたり、離したり、どの程度接触で起こるのか確認はしていたらしい。

「どう活用するのか全然浮かばないんですが」

「んー、それは私の仕事かな。色々考えてみます。今日は検証に協力して下さってありがとうございます」

「いえ、私も知れて良かったです。あまり良い思い出がありませんから、この体質で実験とかあまりしたことなくて」

あ、そうだ。昨日少し説明した危険について話しておかなくては。

「昨日少しお話しした件なんですけど。私が作った物に不運が移っているらしいんですが、どういう感じかはミランダがサイス領に戻る時に持たせますね。その前にまた連絡して、屋内にいて貰うことになると思います。守り石外さないと不運が漏れることがないとわかったので、外して作成しますから。あ、後、耐性がないと持ってるだけで不運が一週間は続くらしいので気をつけてください」

不運軽減策を属性特化魔法に切り替えてから、軽減目的の刺繍をしてなかったからうっかり意識の外にいた。

「お待たせしました、グラッド様、リオ様。」

セシルが二階から降りてきた。少し気だるげな様子だった。

「あの、ミラは」

「先程の戦闘で毒を受けていたので、治療をしました。今は解毒を終えて眠っています。体への影響はありませんので、ご安心ください。あと、洗浄の魔法で綺麗にしていますのでお風呂も必要ありません」

普段より幾分早口なセシルに、気づく。

「そうですか。ありがとうございます。」

「二、三日は安静にしていただく必要があるので、私が様子を見にきます。普段食事はどうされていますか?」

「私が作っています。……何か注意点はありますか?食べてはいけないものとか」

「消化によい食事をお願いします。寝ている場合は起こさなくていいです。」

「わかりました。」

「宜しくお願いします。では、グラッド様、参りましょうか」

「ああ、セシルありがとう」

「いえ、」

「リオさん、また」

「はい。また」

二人を見送り、部屋に戻る。その時にミラの部屋をそっと覗いた。ベッドで眠っているミラの側、ナイトテーブルに今日着ていた服が畳まれて置かれている。

ちょっと待て。ミラは今何着てるの?全裸か?

音を立てず部屋へ入る。ベッドで寝ているミラを見ると、首元の緩めの服を着ているのが確認できた。

顔色は悪くない。良かった、と安堵の息を吐く。

「リオ様、」

ミラが目の覚ます。寝起きだからかいつもよりぼんやりしている。

「ミランダ、ごめんなさい。起こしてしまいました」

「いえ、構いません。あと、ミラです」

「う、すいません。具合は大丈夫ですか?何か必要な物があれば教えて下さいね」

「はい、灯りはそのままが、いい、です。今は、寝ます。おやすみな、さい」

あっという間に再び眠りにつく。要望通り灯りの魔道具は消さずにそのままにした。ゆっくり部屋を出て、ご飯の支度を始めた。

「消化に良い料理、か。冷えても美味しいのがいいよね。……自分でハードル上げたな、今。」

この世界で料理をして、一番の驚きは便利なこと。魔道具でコンロに似た設備があるし、冷蔵庫のような食材保管庫もある。温度は冷蔵庫より高いとは言え、十分涼しい。

便利さへの執念を感じる。

王都の裕福な層には大分普及していて一般層にも、性能は劣るが似たような物があるらしい。

ミラ曰くサイス領には別の職人が作った類似品があり王都からの輸入はしていないそう。

「卵料理がいいかな。茶碗蒸しっぽい物はできそうだし、うーん後は小麦粉があるからうどん作れるかな。あ、そうだ」

居間の壁に掛かっている鏡に「千加」と呼びかける。

『只今、学校に行ってます』と書かれたボードが映った。

「学校か、そうだよね。うどん好きに聞こうと思ったけど甘かったな」

自作するほどのうどん好きなら鏡ごしレクチャーも可能かと思ったが、仕方ない。

台所に戻り、取り敢えず今できる料理を作ってみる。

きのこ出汁、鶏出汁、野菜出汁の3種類で試す。

どれも味は中々の出来だったが、蒸し加減が難しい。

なんか悔しい。あ、違う。駄目だ、取り敢えず今はミラが食べられそうな料理を作らないと。

その他にも消化に良さそうなスープ、ゼリーを数点作った。

「こんなものかな。うん、よし。ゼリーは取り敢えず涼しいところに入れておいて。まずはミラの様子を見てこよう。」

台所から出てきたら、居間の鏡から「おーい」と声がする。ホラーだなと思いつつ、ほったらかしにしてたのを思い出した。

『千加、おかえり。……ごめんね、学校行ってたからさ、』

制服姿の千加がじとっとした目で見る。

『忘れてたのか、』

『あ、はい』

『それで、もういいの?』

『うん、大丈夫。うどんの作り方教えてもらおうとしてただけだから』

『いいの?今からでも教えるよ?』

声の調子が変わる。浮き浮きしている。

『いや、今は大丈夫。また夕食の後で連絡する』

『オケ』

鏡が元に戻る。

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