不運実験3
家に着くと、ミラはセシルに手を引かれミラの部屋に入っていく。呆れ顔で、それでも少し嬉しそうに笑っていた。
居間に二人きりになり、グラッドに取り敢えず席をすすめる。
そして台所でお茶を淹れ、ミラのようにはいかないがお茶を出す。
グラッドの隣りに座り、聞きたかった疑問を口にした。
「あの、ミランダとセシルってどういう関係なんですか」
一つの部屋に男女二人っきりという状況をミラが良しとしているってことは、ただの同僚ではないのは分かっている。話から昔馴染みだということも。
「ミランダが婚姻を了承していないので、未だ婚約中という仲です。大分経ちますけどね、婚約して」
「婚約してたんですか、全然知らなかったです。クラリス様も知りませんでしたけど秘密なんですか?」
「まぁ秘密ではありませんが、二人が積極的に言ってませんでしたから。ですが、クラリスにも話していなかったのは驚きました……あの、リオさん」
「?はい」
呼ばれて視線をグラッドに向けると少しだけ緊張しているようだった。目が合う。
「リオさんは転移者支援のための知識を得るため、冬から魔法省で働くと聞いています。……それで、これを受け取って下さい。」
差し出されたのは小さな箱だった。受け取り蓋を開けるとそこにあったのは、指輪だ。
「私はこの冬の終わりに学園を卒業して、成人を迎えます。春には貴女との婚約が成ります。ですが、その前に婚約指輪を贈りたいんです。狭量なお願いとは十分に承知していますが、外に出る際につけてはくれませんか?」
婚約指輪、その言葉を聞いて一気に顔が熱くなる。婚約するのは決めてたし、正式なお披露目とかはもっと後だからあまり意識していなかった。
「嫌でしたか?」
「ち、違います。一気に恥ずかしくなっただけで、う嬉しいです」
この世界でも婚約結婚指輪は左手の薬指だ。嵌めて、みせる。
「どうですか?似合いますか?」
「はい、似合っていますよ」
サイス領の紋章があしらわれている。その中央に小さな宝石が品よく収まっている。
「リオさん、触れてもいいですか?」
「……さっきは断りもなく肩を抱いたりしてたじゃないですか、いいですよ」
急になんだろうと思いながら、頷き向き直る。
左頬に手をあてられる。親指の腹ですりすりと撫でられ、くすぐったい。
グラッドの目が優しく細められ、微笑んでいた。
カタンと椅子から立ち上がり、身体を寄せ近づくと右頬に口づけられた。
「顔、熱くなってますよ」と耳元で囁かれる。
額、それから唇に口づけが落とされる。
触れるだけのキスだったが、離れるのが惜しくてグラッドの服を掴んでいた。
今度は少し深いキス。何度も口づけられる。
上手く息ができなくて、変な声が出た。
「ふふ、可愛いです」
グラッドの頬も赤くなっていて、可愛いのはお前だよと突っ込まないと直視できないほど破壊力の半端ない笑顔に叫び出したい気持ちを抑えて、抱きつく。
「グラッドは私をドキドキで殺す気ですか。可愛いし、カッコいいし、反則です」
「リオさんも大概反則ですけど」
黙ると恥ずかしさが襲ってくる。喋らないとと口を開く。
出てきたのは、
「グラッドは自分が美形なの分かって行動してるし、心配性かと思えば意外とドライだし、優しいかと思えば意地悪してくるし、お母さんみたいな怒り方するし、」
「悪口ですか?」
「意外と強引だし、いい匂いするし、笑顔は破壊力が凄いし、直視できない位カッコいいし、やっぱり優しいし、、、好き」
前回口走ったグラッドの好きな所だった。
「なんだか恥ずかしいですね。でも凄く嬉しいですよ」
「うぅ、防音室に篭りたいです。恥ずかしすぎる」
お前が言い出したんだろと自分でツッこむ。
「ここで吐き出していいんですよ?」
「恥ずかしい」
抱きついている今の状態も大分恥ずかしいけど、グラッドの匂いがして落ち着くなぁなんて考えて又恥ずかしくなる。
「そうですね、では恥ずかしくなくなるまでキスしましょうか」
「駄目です」
「では、リオさんの可愛いところを喋っていましょうか」
「駄目です」
「駄目ですか、では先程の実験の話をしましょうか」
「賛成です」
「駄目です、でもいいんですけど」
「グラッド、私が離れたら、すぐ着席して下さいね。いきますよ、せーの」
離れたのに、椅子に座らないグラッドを仰ぎ見るとちょっと意地悪そうな顔で笑ってた。
私はグラッドの横から向かいの席に移動する。
「可愛らしいです」
「さぁ、早く実験の話をしましょう。」
全身真っ赤だろうなと思うほど、体温が上がりっぱなしだ。落ち着くために淹れたまま放置していたお茶を飲む。まだまだ修行の必要がある。
「それでは、始めましょうか」




