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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
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不運実験1

王都に着いてから、ずっと機会を窺っていましたとしれっと言ったミラに毒気を抜かれた。

結局グラッドが家まで送ってくれた。明日の狩猟講座の後に実験することがその場で決まり、グラッド達とわかれた。

「リオ様、これは」

「夕ご飯です」

「肉が少ないです」

「ミラは好き嫌いせず食べたほうがいいですよ」

「く、致し方ありません」

野菜メインの料理はここにきて初めて作った。ミラが野菜を食べたがらないということもあるが、味と見た目の擦り合わせに時間がかかったこともある。

ミラはラドというニンジンっぽい野菜が苦手だ。美味しいのに、と思う。流石にクラリスの記憶に野菜の元の見た目はなかった。料理済みの野菜しか知らないのだ。

「リオ様、美味しいです」

「良かったです。」

野菜嫌いもお気に召したようだ。特にラドの嫌な甘みが気にならないと饒舌に語っている。

明日の準備をしたら、就寝だ。

「グラッドに変なとこばっかり見られてる気がする」

恥ずかしい。布団に包まりゴロゴロ転がる。

けど、気づけば朝だった。

あ、私なんだかんだと図太いな。

支度をしてミラと家を出る。今日はやけに荷物が多い。実験の為の荷物だろうか。

ギルドで依頼を受ける。ミラも窓口で何か提出していた。

「ミラ、何をしていたんですか?」

「同行許可書を提出していました。今日はグラッド様とセシルが一緒に王都の外に出るので、必要なんです。冒険者用出入り口を利用する為です」

冒険者用出入り口はギルドカードを持っている人が使える出入りの為の手続きが簡略化された出入り口だ。正門の少し離れたところにある。

同行許可書は一般人でも冒険者と一緒であればそこの出入り口が使えるようになる。

二級以上の冒険者でないと使えない。ミラは二級冒険者だそうで、ミラの身分証で再登録して冒険者ランクをあげましたとあまり見ない爽やかな笑顔で言われた。

それが普通なのかわからなかったので、後でこっそりグラッドに聞くと「そんなお金と手間のかかること普通はやりません」と答えが返ってきた。

ギルドの近くでグラッドとセシルと合流して外へ出る。

ミラから狩猟依頼の心得を教授され、一通りの流れを実際に見て覚える。

王都周辺は結構自然が豊かで動植物を探して遠出する必要がない。動物の人への警戒心も緩いため、比較的簡単に捕まえられる。

兎が草むらから顔を出した。地面に薄く魔力を這わせ、兎に迫る。ゆっくり、ゆっくり近づき、兎の体を魔力で包む。暴れる兎を包む魔力の質を変えて動きを封じる。

「では、この状態でペンダントをはずして下さい」

ミラは日傘を手に、私の隣に立つ。

「グラッド様はセシルが魔力壁を張って守ります」

グラッドを振り返り、その周囲に視線を巡らせる。

「わかりました」

ミラにペンダントを外し渡す。

ブレスレットも渡すと、「二重に用心していたのですね」とミラが驚く。

渡した瞬間、日傘に鳥の糞が落ちてきた。

「これは、以前にもありましたね。他は、」

「ミラ、捕まえた兎を見て下さい」

「失神してます。これで、狩りをすればいいんじゃないですか?」

「一人では無理ですよ。ペンダント外しても、持ったら意味ないですし、最初から外してたらそもそも獲物が見つけきれません。怯えて出てこないです」

「なるほど、残念です。それでは、グラッド様はどうでしょうか」

グラッドを見ると、珍しそうに魔力壁の上を見ている。どうやら、同じように落下物があったようだ。

私達の視線に気づいた、グラッドが手をふる。目が薄い黄緑になっていた。観察に注力しているのが分かる。

「あちらではどんな事がありましたか?」

「他は、不審者に遭遇とか、曲がり角でぶつかるとか、くじ運も悪いし、壊れそうにない何かが壊れるとかもありましたね」

「あぁ、なるほど。だから、兎が魔獣に変化してるんですね」

?魔獣に変化?

魔力で包んだ兎を慌てて見ると、ミラの言った通り変化していた。段々と禍々しい顔つきに変化していく。

その様子を息を呑んで見ていると、ミラが急にブレスレットを私の腕に嵌めた。

すると、兎の変化が止まった。元に戻ることは無いが、動物と魔獣の間のような生物になった。

「ミラ、今のは」

「魔獣に変化しました。変化が完了しなかったのは、予想外でしたが、よいサンプルが手に入りました。」

「リオさん、大丈夫ですか?」

グラッド達は急ぎ私達に近づくと、魔獣になりかけの兎をみて絶句した。

「グラッド様、観察してどうでしたか?何か他に気づいたことはありますか?」

「あ、あぁ。観察用に守り石を配置して観察してました。それが、リオさんがアクセサリーを外すとリオさんに近い位置の石から順番に闇属性の光を帯びていくのが分かりました。あと、私も小さい守り石を持っていましたが、それも光っていました。もう少し実験をしたいのですが、駄目でしょうか」

小首を傾げるグラッドを見ながら、平常心を唱える。

平常心がやってくることはなかった。

「グラッドが、安全なら」

「その前にグラッド様、私はこの魔獣擬きを魔法省に持ち込みたいです。ジャック様に売りつけましょう」

私の動揺なんて目に入っていないミラの発言に、グラッドがすぐさま、

「ミラ、許可します。人目につかないように行ってきて下さい。私達は此処で待っていますから」

許可を出した。ミラは驚きの早さで魔獣擬きを布に包むと後をセシルに任せて駆け出していった。

「グラッド様、リオ様、日陰に移動しましょう。」

セシルに先導され、日陰で休憩する。セシルはミラが持ってきた荷物の中からシートを出し、それを敷く。

それから、水筒とお菓子まで出てきた。

一気にピクニック感が増す。

「リオ様、魔力壁は張ったままにしていますし、大体のことはグラッド様がいるので大丈夫ですよ」

セシルがおっとりとした口調で教えてくれた。

グラッドはミランダとミゲルの弟子で、学園に入る前までは冒険者ギルドで依頼も受けていたという。

全然知らなかった。

「クラリスに知られたら大変ですからね。内緒にしてました」

主に魔獣退治と薬草採取の依頼を受けていたようだ。

ミランダとミゲルの指導の厳しさと冒険者としての実力を話してくれた。大きな魔獣を前にして「よし、グラッド倒してみるか」と急に言い出したり、「見守ってるからやれるとこまでやってみろ」と魔獣の小規模の群れに放り込まれたり。

グラッドの話の途中でセシルが、ミゲルは横暴が服を着て歩いている人だとか、あの人達は兄妹揃って野菜嫌いで苦労したとか、ちょっとした情報を挟んでくる。

「セシル、また怒られますよ」

グラッドの呆れた声にセシルとミランダ達の関係性が見て取れて笑ってしまった。

「仲良しなんですね」

「あ、やっぱりリオ様から見てもそう見えますか?」

「セシル楽しそうですね。腐れ縁ですよ、リオ様」

音もなく戻ってきたミラの笑顔から怖さが滲みでて、セシルの顔色が悪くなった。


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