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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
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王都2

一週間かけてやっと術式の仕込みが終わった。

「終わったー、疲れたー」

部屋でひたすら術式と睨みあっていた。

伸びをして、部屋をでて、一階へ降りる。

台所で水を飲んでいると、ミラが帰ってきた。

「おかえりなさい」

「あら、休憩ですか。リオ様」

「ふっふっふー終わりました」

得意げに胸を張る。

「お疲れ様でした。意外と早かったですね。もう少しかかるかと思っていました」

「頑張りました」

ミラは少し思案顔で私のことをみる。

「どうしましたか?」

「リオ様、まだ時間もありますし、冒険者ギルドへ行きませんか?」

「冒険者ギルド、ですか?依頼ですか?」

「いえ、リオ様が登録するんです。」

「は、い?」

「魔法省に入っても、初めはお金が足りなくて苦労する方が結構いるんです。その補填の為に冒険者ギルドで依頼をこなしている方もいます。副業のようなものです。簡単な採取系から狩猟、雑務、肉体労働まで日々多くの依頼がありますから、もしもの時の備えとして登録しましょう」

真剣な表情で説明するミラ。もしもの時の備え、この言葉に心動かされる。

「もしもの時の備え、ですか。確かにそうですね。絶対安全なんて、ないですもんね。わかりました。登録します。そして、依頼も受けてみたいです」

何があるかわからないなら、何があってもなんとかなるように準備をしておこう。

そう心に決めた。

ミラと一緒に冒険者ギルドへ出かける。

正門から王城まで続く中央通りと店舗通りの交差する場所に大樹が植えられている。その大樹の周りにベンチが置かれていて、人で賑わっている。

その横を馬車が通ったり人が横切ったりしていてちょっと怖い。

その近くにある一際目立つ大きな建物が、冒険者ギルドだった。店舗通りは露店でない店が連なる通りで、こちらも中々の大通りだ。一週間前に行った市場は正門側に向かうとあるとミラの説明に頷く。

「新規冒険者登録数が一番多いのは王都にある冒険者ギルドなんです。人の数が違いますからね。身分証の魔道具を作る職人も多く抱えています。」

「身分証は高いって聞いたんですけど、前金で取られるんですか?」

「リオ様はもうお持ちなので、ギルドカードを発行するだけでお金はかかりません。ギルドカードはギルド員である証拠です。身分証作成のお金は支払い期限があります。それまではギルドカードで街の往来ができ、依頼も受けられます。期限内に受けた依頼の報酬金などででも支払えれば新人冒険者と認められます。期限までに払えない場合は、ギルドカードは無効。再登録時に一括支払いになります」

ミラは慣れた様子で建物の中に入っていく。その後から続いて入る。

中は冒険者でごった返していた。男性が多いが女性の冒険者も結構いる。人の多さに、動悸が速まる。

「リオ様、手を。はぐれるといけません」

ミラの手を掴んで歩き、2階へ上がる。

「登録や依頼は2階で、行うんです。1階の混雑はいつものことですから」

2階の受付カウンターで、登録用紙を貰い記入する。

名前、年齢、出身、加護属性など項目があるが、名前と加護属性のみが必須項目だった。

「ミラ、属性は」

「闇3、水1で書きましょう」

小声で相談する。

ミラも随分前の登録だったからすっかり忘れていたと溢す。

身分証にその属性で登録されているそうだ。

レベル1の加護では属性特化魔法の効果は一般人レベル。個人差はあるが、レベル1の中でも強弱でわけられる。弱だと微々たる効果しか生まないので単独加護を隠すにはうってつけだそう。

提出時に、身分証の有無を伝える。すると、門で見た認証の魔道具を持ってきて、身分証に触れる。

ギルドでは名前と年齢、加護属性が確認できるようになっている。

「確かに。えー、ではこれがギルドカードです。これから、冒険者ギルドについて説明をいたします。宜しいですか?どうぞ、お掛けください」

ギルドで出来ることや、カードにはこれから受けた依頼内容や件数、完了の有無や質などが記録されていくこと、それらは各地のギルドで確認できること、冒険者ランク、依頼の受け方、完了、達成困難時の連絡などの説明を受ける。

「新人冒険者向けの講習会も定期的に行っています。狩猟や、薬草の見分け方など必要な技術です。ぜひ活用して質の良い成果を期待します」

「ありがとうございました」

ギルドカードを持ち、席を立つ。

ミラと手を繋ぎ、1階へ降りた。大きな掲示板に沢山の依頼用紙が貼られている。

「ここの新人のエリアから選びましょう。まずは、これとこれがいいですね。」

採取と狩猟だった。

「採取の依頼にします」

流石に狩猟は心の準備が必要だ。

「では、これをとって、カウンターへ行きましょう」

促されカウンターへ向かう。緊張しているのか、上手く説明されたことを消化しきれない。

依頼カウンターには女性職員がいて、にこやかな表情で迎えてくれた。

「依頼内容の確認を致します。薬草ククルポを採取してください。依頼有効期限や必要数はありません。一つにつき最大報酬は10アッズです」

アッズはこの国の通貨単位で、水の神様の名前が由来だ。1アッズは小銅貨、10アッズは中銅貨。

大銅貨の次は銀貨が大中小とあって、金貨、果ては白金貨と続くらしい。そんな大金は見たことがないので、知識程度だ。

「内容にお間違いはありませんか?」

「はい」

「では、ギルドカードをこちらに。」

ギルドカードを渡すと、なにやら魔道具を操作してカードを通す。

「はい、依頼を開始いたしました。宜しくお願いします」

ギルドカードを受け取り、冒険者ギルドを後にする。

「リオ様、冒険者ギルドはどうですか?」

「緊張しました。人が大勢いるので、気後れしてしまいました。」

「これから、慣れていきますよ。では、依頼達成の為に準備をしましょう。ギルドのある区画とは別に職人工房が集まる区画があります。其方で色々見繕うといいですよ。」

職人工房で探すのは、採取や狩猟に必須のナイフやスコップなどの道具類や保存袋だ。

職人工房なら自分の手に馴染むよう調整して貰えたり、見習い職人の作った道具なら格安で手に入るらしい。店舗通りと広場を隔てた反対側は工房区画と言い様々な職人工房がひしめき合っている。

そんな説明を聞き、ミラが案内してくれたのは『ウォルター工房』という小さな工房だった。

ドアを開けると、カランとベルの音がする。

「いらっしゃい、お、ミラ君か久しぶりだね」

声をかけてきたのは、柔和な表情の中年の男性だった。工房内の掃除をしていたようで、手には箒が握られている。突風で飛ばされそうな程、細い。

「親方、久しぶりです。」

ミラの言葉に耳を疑った。

職人のイメージとそぐわない男性に驚きを隠せなかった。がっちりした体格の頑固親父を無意識に想像していた。

「ミラ君、僕は引退したって何度も言ってるのに。君たち兄妹は揃いも揃って」

「まだまだいけます。それで今日は、」

「聞いて、他人の話はちゃんと聞こうか?!」

「新人冒険者用の道具一式が欲しいんですけど」

もう、いいよと諦めたように肩を落として箒を片付ける。工房の棚から、何種類かの袋をとり、注文カウンターに広げる。

「お嬢ちゃんが新人さん?ナイフを使ったことは?」

「料理で包丁を握るくらいです」

「これの中から握って、しっくりくる物を全部選んで」

ナイフを握って、手にあうナイフを選別する。

それから、よりあうナイフを選ぶ。

「ナイフはこれでいい。デザインには凝る性格かな?」

「いえ、奇抜なデザインでなければ大丈夫です」

「わかった。じゃあ、これでいいかな。うちの見習いが作った道具一式だ。使って感想を聞かせてくれ、壊れたらすぐ来て、いいね?」

「はい。ありがとうございます」

「親方、ありがとうございます。これ、代金です。」

「うん、ミラ君。……値札ついてない商品の金額が分かるのは君たち兄妹くらいだよ。」

「お褒めいただきありがとうございます。あ、そうだ。兄は、最近顔を見せましたか?」

「ああ、3ヶ月前に一度きてたよ。次はコランダムに行くと言っていたし、ミランダ嬢は剣の手入れにきてた」

「コランダム、ですか。姉は居場所がわかっているから連絡がつくのですが、兄は」

「あー、ミゲル君は風のような男だからね。今度来たら、ミラ君に会いに行くよう伝えるよ」

「ありがとうございます」

道具一式を購入して、工房を後にする。

気安い態度のミラを新鮮な気持ちで見つめる。

「リオ様、お顔が笑っておりますよ」

「あはは、だってミラのあんな感じは初めてだし」

「親方には兄妹でお世話になってますし、あの人ほっとくと本当に店を閉めるので定期的に見に行かないといけないんです」

「引退したって言ってましたね」

「誰かを育ててる間はいいんですよ、今は見習いが一人いるので安心してます。育って一人立ちした時ですよ、危ないのは」

何度、行方不明の親方を探し出したことかと不意に遠い目になる。

今日の所は一度家に戻ることにした。


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