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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
54/605

異国からの客人5

夕食後、フレッドの書斎に侍従長は呼び出された。

「ジョージ殿、よく来た。此方へ」

自分を殿付けで呼ぶ時はより私的な話をする為だと侍従長は気づいた。

席をすすめられ向い合うように椅子に腰掛けると、フレッド自らお茶を淹れる。

「ジョージ殿が淹れるお茶には勝てないが、まぁ飲んでくれ。」

「ありがとうございます、旦那様」

お茶を受け取り、口に運ぶ。趣味の域をでた味だった。

いつになく楽しげな主人をみて侍従長は気を引き締める。自室と同義の書斎に家族以外を招き入れることはこれまで一度もなかった。

使用人など執務室へ呼べばいいのだから。

「クラリスが帰ってきて大体2ヶ月近く経つが、私に報告することはないかな?」

「報告、でございますか?」

「ありますよね?貴方の中に育つ疑念が」

「旦那様、」

「正直に話して欲しい。侍従長として気づいたことを全てだ。ジョージ殿としてでも構わないが」

侍従長は、この2ヶ月考えたことを話し始める。

クラリスが変わってしまったこと、フレッドがそれを良しとし利用していること、自分達使用人に故意に黙っていること。

「それは使用人の間でどのぐらいの人間が感じている変化か、把握していますか?」

「恐らく、私とセシル、侍女頭のアンナ、料理長はそれとなく変化に気付いていると考えます。他のクラリス様との関わりが薄い使用人達はお体の調子が優れないことを心配しているだけだと認識しております」

「なるほどね。他には?」

確かめたいことが、あった。

「リオ様とは、一体どなたですか。クラリスと瓜二つの少女についてお尋ねしたい」

「あぁ、やっぱり貴方には彼女がクラリスとそっくりに見えるのか。」

考え込む表情をしたフレッドを見て、ジョージの頭をよぎったのは。

「旦那様はミレニアを裏切っ」

「そうではありません、彼女はクラリスです。ジョージ殿」

フレッドは慌ててジョージの言葉を遮る。

ミレニアの家族に不貞を疑われるとは思ってもみなかった。心外だ。

「ジョージ殿、私はミレニアを裏切ったことは一度もありません。安心して下さい。」

「それでは、あの子は」

「説明します。ですが、このことは内密にお願いします」

フレッドは、事の顛末を説明する。

その内容に侍従長は言葉を失った。

「そんなことが、」

「当初、ミレニアと考えていたのはクラリスがこの事件の後遺症で死んだことにする予定でした。それを、彼女の好意に甘えて留学に変更しました。」

俯き、きつく目を閉じる侍従長にフレッドは、

「協力していただけないでしょうか」

問いかける。

「協力、ですか。命令すれば良いでしょうに」

「クラリスやグラッドに内緒にしているとはいえ、家族なのですからあまり命令はしたくないです。養父上」

「甘い、ですね」

「父上と比べないで下さい、あの人が厳しすぎなんですよ」

「確かに、そうですね。貴方達は全然似てません。驚くほどに」

懐かしさに目を細め、ジョージはお茶を飲む。

「わかりました、協力致しましょう。お茶も美味しかったし、彼女にも興味があります」

「ありがとうございます。養父上」

「その呼び方は、やめてください。旦那様」

フレッドはジョージのカップにお茶を注ぎ足し、今後の流れを話した。



侍女頭アンナはミレニアの部屋に呼ばれ赴く。

「アンナ、貴女に聞きたいことがあります」

他の侍女を排して行われる話し合いに、自然と姿勢を正す。こんな事はこれまでなかった。

「なんでございましょうか、奥様」

「クラリスのことなのだけれど、貴女が感じていることを全て教えてください」

「奥様、?」

「戻ってきた日に、違和感を感じていたでしょう?他に何かあれば全て隠さず教えてちょうだい。どんなことでもいいの」

ミレニアの切羽詰まった物言いに、アンナは自身が感じている違和感を説明する。

クラリスの変化、ミランダのどこか張り詰めた気配、フレッドが何かを隠していること、そして、ミレニアの変化

「わたくしの変化ですか?」

「はい。奥様はクラリス様が戻られる前と後では、すこし変わられたように感じます。最近は以前の奥様と似た雰囲気を感じましたが、今はまた変わっています。……クラリス様のことを諦めたのではないかと思いました。申し訳ございません」

「アンナ、続けて」

「私は奥様がクラリス様を導くために気を張り詰めているように感じておりました。その張り詰めたものがこの2ヶ月ほどなくなり、ああやっとクラリス様の手を離されたのかと思いました。ですが、1週間ほど前でしょうか?また雰囲気が強ばり、どうしたのかと思いましたが、また強ばりがとけ安心しておりました」

「クラリスを諦められないわたくしは、アンナの目には滑稽に映ったでしょうね。大奥様に早い段階で諦めろと言われていたのに」

「奥様、そうではありません。大奥様は貴女様を案じておられました。届かない物に手を伸ばして苦しむことになるとよくおっしゃっていました。それが闇属性持ちの性でもあるから支えて欲しいと」

「闇属性持ちの性、」

「光に抗えない、惹かれるのは仕方ないことだとおっしゃっていました」

「そう、」

ミレニアは微笑む。

「アンナ、教えてくださって、ありがとうございます。これから、話す事をよく聞いて下さい。そしてどうか、内密に」

召喚事件の真相とクラリスとの別れ、これからの予定を話し始める。

「クラリス様が、別人に」

「収穫祭の時に接してどうだったかしら、気づきました?」

「いえ、全然わかりませんでした。少しお疲れなのかと思っただけでございます」

「わたくしは、彼女を守ると決めました。アンナにも協力してほしいの、いいかしら?」

「奥様は本当に宜しいのですか?」

「クラリスと向き合って、やっと気づいたことがあるわ。わたくしの気持ちが伝わっていなかったこと。この気持ちが重荷だったこと。それでもクラリスを愛していること。クラリスから本音を引き出せたのは、彼女が怒ってくれたからだと思っているわ。だから、いいの。」

「では、私も協力致しましょう」


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