異国からの客人3
「リオ様、ジャック様がいらっしゃいました。」
お茶の後、荷解きをしているとジルから声をかけられた。
「わかりました。お通しして」
手早く片付けて、応接スペースに移動する。
「リオ、すまない。」
「いえ、私が勝手に追ってきただけですので。ジャック様が謝ることではありません。私の方こそ、迷惑をかけてしまって申し訳ありません」
「リオ、今後の事を話したいが、いいか?」
「はい、お願いします。どうぞ、此方へかけて下さい。ジル、お茶を」
「いや、長居をする気はない。すまないが、席を外してもらえるか?」
ジルが退室するのを待って、二人してため息をついた。一応、防音の魔法を使う。
「緊張しました。ミランダは大丈夫だと言ってくれたんですが、ジャック様の目から見ても別人ですか?」
「別人だな。君の凄さが、分かるよ。役者として生きていけるんじゃないか?」
「なら、いいです。後数日頑張ります。」
この後の流れについて再度確認をして、ジャックは席を立つ。
「あ、そうだった。グラッド君の侍従のセシルだったか?彼にバレたそうだよ。」
「え、それは大丈夫なんですか?」
「フレッドとグラッド君はそこまで心配していないようだから、気にしないでいいと思うが。一応連絡だ」
「わかりました。」
魔法を解き、用意されたベルを鳴らす。
ジルが部屋へ戻ってきた。
「ジャック様が、お戻りです」
「それでは、また」
ジャックを見送り、荷解きに戻る。
量は多くないが、一度服を寝台に出し、皺を手で伸ばす。それからハンガーにかけて、クローゼットに収める。
セシルにバレた?んーそれってつまり、ミゲルを見た時にってことだよね。
何処で気づいたんだろ。気になる。
「リオ様、旦那様から夕食の誘いがございます。如何致しますか?」
ぼんやりそんなことを考えていたら、ジルの声にびっくりした。
「わかりました、お受けします。」
なんでもないように振る舞うも、心臓がバクバクしている。
「かしこまりました。しばらくおそばを離れることをお許し下さい」
「はい。お願いします」
なんだろう、声かけの間かな?存在感が薄いのかな?それとも私の問題?思索に耽ると周りが見えなくなるからか。
ジルが戻ってくるまでに荷解きを終え、室内の装飾をじっくり観察する。
ジルは他の客間の見学許可も取ってきてくれた。
早速ジルの案内で他の客間の見学へ向かう。
確かに説明通り、職人の個性がはっきり出ていた。
それぞれを時間をかけじっくりと観察して至福の時を過ごした。
幸せなため息がでる。
「はぁ、楽しかったです。ジル、ありがとうございます」
「リオ様は芸術がお好きなのですか?でしたら、お嬢様と話が合うかもしれませんね」
ジルが微笑む。
クラリスとの接点ができるのはいい。
「お嬢様、確かクラリス様でしょうか?」
「ご存知でしたか」
あれ?目がキラキラしてる。
「ええ、珍しい光属性を持つ美しい方だと聞いたことがあります。芸術を好まれるのかしら?」
「はい。クラリス様は、とても綺麗な絵を描かれるのです。よく、お庭で花々をスケッチされていました。」
「そうなのですね。ジルは親しくしていたの?」
「あ、いえ。私は、とても畏れ多くて遠くから眺めていました。いつかは、お嬢様付きの侍女にと思っておりますが。」
ジルはクラリスのファンだった。今にも饒舌に語り出しそうな勢いがある。
「憧れの存在なのね。ふふ」
「リオ様、申し訳ございません。今のはお忘れ下さい」
あ、自力で抑え込んだ。凄いな。私だったら、ミランダに止められないと、無理だな。
見学を終え、客間に戻る。
夕食までゆっくりと過ごす。
夕食の時間の少し前に、ジルから今晩の夕食にクラリスが同席しないことを知らされる。
「そうなの。残念ですが、仕方ありませんね」
残念そうな表情で笑う。ジルも心なしか残念そうだ。
「ご案内致します」
食堂で、ミレニアに挨拶をして夕食会が始まった。
ジャックの隣に座り、食事をする。
王都からの道中の話しをしたり、故郷の話しをしたりして過ごした。
ただ、一つだけ気になっていることがある。
グラッドの給仕をしている少年に見覚えがあった。
同学年の学生で、グラッドが腹心として育てている学生の内の一人だった。
クラリスとは余り接点のない学生だったけど、緊張する。
「リオ、どうかしたか?」
ジャックに小声で問われる。
「いえ、なんでもありません」
今言えることではないため、口をつぐむ。
「リオさんの話は興味深いね。今日は体調が優れなくて同席していないが、私の娘も興味を示すだろう。リオさんが迷惑でなければ、クラリスと話をしてみてくれないか?」
「あ、わたくしで宜しいのですか?」
「外に出られない日々を送っているから、良い気分転換にもなると思う。頼めるかな?」
「はい、かしこまりました」
そこからは話が纏まるのは早かった。
就寝前にジルが明日の午後からクラリスとのお茶会があると報告してきた。頬が紅くなっている。
「もしかして、ジルが口添えしてくれたのかしら」
「差し出口かとは思いましたが、お二人なら話が合うのではと。申し訳ありません」
「いえ、ジル、ありがとうございます。明日が楽しみです」
その日は夢も見ずに眠った。




