異国からの客人2
領主の屋敷に到着した。
はしたないと思いつつ、外観を細部まで観察する。
クラリスの時は出来なかったことをあえてやってみる。
「リオ様、口が開いてる」
呆れたミゲルの声に、おっほんとわざとらしい咳払いをする。
玄関前で馬から降ろしてもらい、ミゲルが控えていた使用人に馬と荷物を預けている隙にと思っていたが、戻ってくるのに気づかなかった。
「お待ちしておりました。」
侍従長から声をかけられた。いつから控えていたのか全然気づかなかった。もしかしたら、最初から居たのかもしれない。
緊張してちょっとテンパっていたようだ。
「ご案内します。ミゲル様も一緒にと伺っています」
「わかった」
侍従長の後ろを歩く。
やっぱり自分の目で直接見たい欲求が何処かにあるのか、ついキョロキョロしてしまう。
「リオ様、落ち着け」
小声で嗜められる。
「建築様式をもう少し堪能したいです」
小声で愚痴る。
「闇属性持ちの性ですよ、ミゲルも分かるでしょう」
「リオ様、そろそろ口縫い付けるぞ」
おっと、やり過ぎたかな?
ミゲルの眉間に更に深い皺が刻まれる。
しばらく無言で歩き、執務室の前で止まる。
「こちらでございます。」
侍従長がドアを開ける。
「ありがとう」
室内に足を踏み入れるとその後ろからミゲル、侍従長が続く。
机に向かうフレッドとその側で資料を読むジャックがいた。その他にも仕事をしている人達がいる。
「ようこそ、お嬢さん。どうぞ此方へ」
「はい」
執務机の前まで近づく。
「私はサイス領の領主、フレッド・サイスだ、貴女の名前は?」
「わたくしはリオ・ヒグチと申します。お会い出来て光栄でございます」
丁寧に挨拶の礼をする。周りの視線が集まる。
「ジャックに会いにはるばるサイス領まできたと先触れにはあったが、」
「フレッド、彼女は私の知人の娘で、これから魔法省に入省する。私は彼女の後見人だ」
「ふむ。それはさぞ大変だったな。王都に行けば、頼りの後見人はいない。ラングストン家にいた方が良かったのでは?サイス領までくることではないと思うが」
フレッドはジャックの方を見ながら、当然の疑問を口にする。
「それは、」
「ラングストン家の居心地が悪いのは今に始まったことではない。リオ、すまない」
言い淀んだ言葉尻をジャックがさらう。
「いえ」
「では、客間を用意させよう。ジャックの仕事が済むまで滞在するといい。ジョージ、任せた」
「かしこまりました」
侍従長を部屋を後にする。
「ミゲルもここまでご苦労だった。」
「依頼を受けただけだ。これに依頼完了の署名を」
ミゲルはジャックに依頼用紙の控えを渡す。
ジャックはその場でサインをして用紙を返した。
「たしかに。では、俺はこれで失礼する」
ミゲルはあっさりと踵を返し、部屋を出ていこうとする。
「ミゲル、あの、ありがとう」
咄嗟に振り向きお礼を言う。ミゲルは此方を一瞥して、無言でドアを開けた。
ドアの先には、ちょうど執務室を訪れたグラッドとセシルがいた。セシルは傍目にも分かるほど驚いた顔をしていた。
「ミ、……ゲル」
ミゲルは思わずといった様子で声をあげたセシルを睨み、黙らせる。セシルの顔色が悪い。
「ミゲル、久しぶりですね。お元気でしたか?」
グラッドの言葉に、ミゲルは姿勢を正して挨拶の礼をとる。
「グラッド様、お久しぶりです。突然の頼みで申し訳ありませんが、少しばかりセシルを借りても宜しいでしょうか」
ミゲルの口から始めて敬語を聞いた。
「ええ、構いません。」
「ありがとうございます」
部屋にはグラッドだけが入り、セシルはミゲルに連れられていった。
グラッドと目が合った。にこりと互いに外行きの笑顔で会釈する。
「グラッド、彼女はジャックの被後見人のリオさんだ。ジャックの仕事が済むまで滞在する予定だ」
「初めまして、グラッド・サイスです。ゆっくりしていって下さい」
「ありがとうございます、リオ・ヒグチと申します」
「リオさんは其方にかけていてくれ。部屋が用意でき次第案内させよう」
「わかりました。ありがとうございます」
執務室のドアの横に椅子が並んでいる。
何の椅子だろうと思ったが、広い机に地図のような物を広げて何やら話し合っている人達が目にはいる。全員が立ったままということは、あの机の椅子かな?
椅子に座り、広い室内を見回す。
執務室は一度しか入ったことがない。
フレッドのいる執務机が部屋の中央奥に位置する。
両壁側に並ぶ資料棚に、執務室の両側の部屋は続き部屋になっている。
資料室になってるとグラッドが言ってたっけ。
極力きょろきょろ、そわそわしないように気をつけながら、待つ。
そこに、顔色の悪いままのセシルが戻ってきた。
グラッドやフレッドから休むようにと告げられると
「リオ様を部屋まで案内してから、休みます」
と私の方を見る。セシルの案内で客間へ向かう。
通された部屋には侍女が一人ついていた。
「リオ様、何かありましたら彼女に申しつけ下さい。
ジル、挨拶を」
「ジルと申します。リオ様、宜しくお願い致します。」
ミランダから事前につけられるであろう侍女の予想を聞いていた。ジルかニーナの二択。
ジルはクラリスとそんなに年も変わらない、オレンジ色に見える茶髪が特徴的な新人の侍女だ。
新人使用人の試用期間を経て侍女に配属されたのはジルだけだった。確か満場一致で決まったとミランダが「アレは圧巻でした」としみじみ呟いていた。
「宜しくお願いします」
それでは、私はこれでとセシルが部屋を出て行った。
「あの、ジル、さん?」
「私のことはジルとお呼び下さい」
「ジル、あの私侍女がついた経験がないのだけれど、どういう時に呼べばいいのかしら?」
「そうでございますね。どのよう用向きでも対応致しますが、お茶やお菓子の準備、どなたかに会われる場合の先触れや外出、買い物などのお供などを致します」
「わかったわ。取り敢えず、お茶をお願いします。」
「かしこまりました。茶葉は、」
「サイス領でよく飲まれているお茶がいいわ。砂糖、ミルクも無しで」
「かしこまりました」
被せ気味だったかな〜、いやミランダに言われた通りにしただけだから気にしない。気にしない。
ジルの実力をはかりたいので、少し奇をてらった質問とかして下さいって指示が大雑把だった。
椅子に座り、室内を見回す。
客間はクラリスの部屋より狭いけど、作りは同じだった。違いは勉強机や本棚がない、装飾も何故かこの部屋の方が細かくて作りが良い。
あれ、書斎やミレニア様の部屋よりも装飾が多くて細かい。
クラリスの記憶に何か残ってるかな?うーん、これかな、あ、違った。
「お待たせ致しました」
「ありがとう、ジル聞いてもいいかしら。」
「はい」
「この部屋の装飾がとても細かく綺麗な装飾で、見入ってしまうのだけど、他の部屋も同じような装飾がされているの?」
「……この部屋は元々伯爵夫人となる方が自室の内装を入れ替える際に生活していた部屋でございます。客室は後数部屋ございますが、意匠は異なります。躍動感のある装飾、繊細な装飾、各部屋ごとに携わった職人が違いますので、職人の個性が表れた装飾が楽しめます」
「それは、凄いわね。後で見学をさせて欲しいのだけど、許可はおりるかしら?」
「後ほど確認して参ります。」
「宜しくお願いします。」
「リオ様、宜しいでしょうか?」
「はい。なんでしょう」
「ミゲル様より、荷物を預かっております。荷解きはしなくていいと承っており、寝台の隣りに運びました。後でご確認ください」
「ありがとうございます」
しばらくは用もないので、下がってもらう。
お茶を飲みながら、ミランダの淹れるお茶とジルが淹れたお茶の違いを考える。
少しだけ硬い?苦味?があるかな?
あんまりお茶には詳しくないけど、ミランダとは大分差がある。というか、全侍女のお茶の腕前を知らないからどうこう言えない。




