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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
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召喚4

「望みによっては叶えることが出来ないものもあるので絶対ではありませんが、叶えることが前提です。」

後は、金品でも待遇でも支援でも構わないこと。ニコルの説明を聞きながら、考える。何故か、引っ掛かりが拭えない。この違和感は何だろう?

「…これ、か」

紙を触っていると、記憶が不意に甦る。

クラリスの趣味は絵画鑑賞と絵を描くこと。特に紙には拘っていた。これは、魔紙だ。微かに魔力を感じるのが特徴的な、契約書に使われる紙だ。しかも、比較的大規模な魔法陣が働く、強者に対しての契約書。

たかだか望みを叶えるにしては、大袈裟では?しかも、相手側に説明もない。何かを隠している?少し探りを入れないと。

「はじめに召喚者への補償とおっしゃってましたが、『転移者』には補償を行なっていらっしゃらないのですか?」

クラリスのお気に入りの画家が、『転移者』だった。

転移者は何故かこちらの世界に迷い込んだ、異世界人の事を指す。

私の言葉遣いが、変わったのに気づいたニコルの顔に焦りが見える。

「…転移者の方達は、発見次第保護し、支援を行なっています」

「が、大々的に補償はない。彼等との違いは何でしょう。落ち度、負い目以外で、ありますよね?」

契約は信用が第一だ。隠し事がある時点で結ぶ気は毛頭ない。それを言外に表す。

「貴女は本当に…いえ、なんでもありません」

小さく咳払いをして、つい口をついて出た言葉を誤魔化す。

「召喚者は、非常に特異な存在です。魔術によって世界を超える。その際に、常人には持ち得ない強大な力を授かります。それは恵みとなる場合も、災いとなる場合もあるのです。転移者にはない力です」

歴史の教科書に、載っている召喚者についての記述が、不意に甦る。しかし、後に続いた言葉は、載っていなかった。

「召喚者の力を見誤ると、国が滅びます。それだけの力があるのです。その力の暴走の切っ掛けが、『絶望』です。」

死に至る病、か。

「それでは、この契約書はその暴走を抑える役目があるという事でしょうか?」

「望みを叶えた場合にのみ、効果を発揮する術式が組み込まれています。まあ、それでも一都市は吹き飛びますけどね。」

そんな危険な存在になってしまったのかと、驚きで言葉が出てこない。

「対応手順書には、召喚者の暴走については伝えないとあるんです。衝撃的でしょう?人によっては不安に押し潰されたり、または勘違いをして好き勝手に振る舞うからとされています。リオさん、知って良かったですか?」

ショックはショックだ。でも、

「納得していないのに、署名をする方が嫌なので知れて良かったです。」

引っ掛かりが無くなるほうを優先した。それは、後悔していない。いっそ清々しいくらいだ。

「そうですか」

「手順書があると言う事は、召喚者は結構な人数いるんですか?」

口調も戻して、話を続ける。

「いいえ。我が国では、法律に則って無用な召喚を禁じています。過去、数度やむを得ない状況で召喚した記録がありますが、今現在我が国で召喚した召喚者は貴女だけですよ」

「他国には、いるんですね。リスク管理が大変だから、やめたほうがいいと思いますけど。」

「本当にそうですよ」

このまま、リスク管理の話に花が咲きそうになった所にグラッドが割ってはいる。

「ニコル様、話が脱線してますよ。リオさん、望みは決まっていますか?」

あ、この笑顔はクラリスの手綱をきつめに締めるときの、後で説教パターンの顔だ。すっと背筋を伸ばして、居住まいを正す。母さんに叱られる時の様な緊張感がある。

「望みは、決まっていますよ。勿論ですよ、グラッド様」

納得したのだから、さっさと書き込む。

『帰る為の支援』

『情報の開示』

『身の安全』

最後に署名をして、紙をニコルに返す。

「ありがとうございます。では早速、帰国に関して、これからの予定を説明させていただきます。精神が入れ替わる召喚の場合、お互いの意識が、同じ方向を向いていないといけません。ですから、あちらの世界にいるクラリス様に召喚術式の一種で、手紙を送ります。相手が返答を書き込むと戻ってくるので、手紙の内容を確認後、入れ替え召喚を行うという予定です。大体3ヶ月ほど時間がかかります。」

「3ヶ月ですか。」

「ええ。リオさんはこれから召喚者が必ず通る、召喚酔いで1週間は寝込むことになります。それは、クラリス様も同じです。そして、この召喚は心身共に余裕がないと成功確率が下がります。焦る気持ちもわかりますが、異世界観光でもしてゆっくり過ごしてください」

召喚酔い、って凄い言葉が聞こえたけど、どんな症状なのか少し不安になる。が、それを聞く前に、ニコルからの聞き取り調査が始まった。

「リオさん、少々お聞きしたいことがあるので、ご協力下さい。貴女自身とあちらでの生活環境について質問してもよろしいですか?」


『嘘はついちゃダメだよ、理央。何故か、バレてる。』こそこそと教えてくれた兄の実体験に基づいているのだろう。この時は、説得力を凄く感じた。


「この質問は、入れ替わったクラリス様の状況を推測する上で重要な聞き取り調査です。ご協力下さい」

質問の意図の確認をしようとしたら、先回りをされた。行動が読まれている。


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