選択5
「それでは、クラリス嬢についてですが、病死か事故死、はたまた野に下り平民とする等色々な案がでていますがどうしましょうか」
ジャックが渋い顔でそう切り出す。
クラリスの領内の認知度は高い。どういう風になっても影響はある。
「ミレニアは召喚の後遺症で死んだことにした方が後腐れないと感じているが、私は少しだけ違う。領地間の賠償問題もそうだが、彼等が召喚については縛られて伝えられないとしてもクラリスの死については語れることで問題がでてきそうな気はする」
「そうですか、それじゃあ事故は」
「事故はね、工作が大変なんだよ。サイス領の人達、馬車に並々ならぬ情熱をもってるから。領主一族が事故で死んだなんてなれば、調べに調べて事故の偽装がばれる可能性が大きい。」
三人で頭を悩ませる。
病気は健康優良児のクラリスとは無縁で、サイス領の領民の間でも有名だ。そのクラリスが病死となれば、領民の中からも疑問が出て来る。さらに召喚事件を結びつけて発表すると他領への反発が強くなる。
「野に放ってしまいたい。」
流石に平民にはできない。反発が大きいことは想像に難くない。
「ジャック様、投げやりになってます」
「もう、いっそのことクラリスは異国に行ったことにしようかな」
ため息混じりの呟きに、
「フレッド様、それですよ」
私は賛同する。
「リオさん?」
「私の身分設定をちょっといじって、その異国出身にしましょう。私はソルシエールに来てクラリス様と知り合い、クラリス様は好奇心から異国へ留学。異世界も異国です。」
「君はそれでいいのか?」
ソルシエールは島国で、他国人を余り見かけない。貿易が盛んなマウリッツなら沢山の外国人を見ることができる。サイス領にいる外国人は全て冒険者で割合は少ないため、珍しがられる。
最初の設定はジャックの知り合いの王都出身の魔法省職員。今回の件で知り合ったとする予定だった。
「いいんですよ。多少珍しがられたって構いません。フレッド様、気にしないで下さい」
「君たちにばかり、負担をかけてしまってすまない」
「君、たち?……あぁ、私の家族のことですか?母から話し合ったことは聞いています。まぁ内容は秘密と言われましたが。」
「そうか」
「負担がないとはいいませんけど、それは覚悟済みです。サイス領の役に立ちたいんです。それに私は」
すとんと言葉が落ちてきた。
「私は母さんが『私の娘って凄いでしょ』って言える人でありたいんです。」
「ありがとう、リオさん。」
「リオさんの家族が気になりますが、ではその案を採用しましょう。リオさんは、私の知り合いのお嬢さんで」
「ジャック様を訪ねてソルシエールにきた。が、サイス領に出かけているので、サイス領まで追ってきた。」
「あ、いいね。この色々時間が節約される感じ」
「そこでクラリスと会う。」
「意気投合して、クラリス様が異国へ留学に行きたいと言い出す。」
「ジャックのすすめもあり、」
「フレッド、色々仕事振る気じゃねーか」
「クラリス様の留学が決まる」
取り敢えずはこれでいこうと話は終わった。
それを見計らってミランダがお菓子を持ってきた。
細かい所の詰めは二人に任せて、私はミランダにクラリスとは別趣味の服を手に入れられないか尋ねる。
「お任せ下さい。すぐお持ちします」
ミランダは側務めのスペースに戻るとすぐに何着か服を手に戻ってきた。
全体的に明るい色合いだけど、クラリスが着ないだろう趣味の服だった。デザインはシンプルだ。
「これは、ミランダの?」
「いえ、以前クラリス様に様々な洋服を見たいと言われ集めた服の一部です。これは、ちょうど結論がでた後に手に入れたものでクラリス様にはお見せしていませんでした。」
「あぁ、一年生の長期休暇の頃だったね。他領の学生と服の系統が違うからとか言って服を集めてた。あの時の」
フレッドも合点がいったと納得している。
服は各領地の特色がでていてクラリスには新鮮に映ったようだ。リーベックは領地での服装と王都での服装は全然違う。王都では王都貴族に合わせた服装に、領地では厚手防寒に優れた服装に。逆に何処でもシノノメは漢服、韓服、着物と色々混ざった感じの服装、コランダムは男女問わず軍服系の服装。マウリッツやウパラは王都貴族と系統はほぼ同じ。ちょっと端々で流行を織り交ぜて違いを表現する位。
意外だったのは王都の女性貴族はデコルテを見せる派、中には胸元を強調するドレスを好む方もいることだ。
サイスの女性貴族はシンプルな形のドレス、ワンピース、男性はスーツ。肌はみせない。
色々集めて、試着して気づいたのは他領の服よりも元々サイス領で着ていた服のほうがクラリスの美しさをより際立たせたことだった。
それもそのはずである。クラリスの服を作っている職人がクラリスの良さが充分活きるようにと作った服だったのだ。
品がよく、ふわふわの金髪が映え、すらっとしてみえるよく出来た衣装。
多分ミレニア様の依頼じゃないかとは思ったが口にはしなかった。
「取り敢えず、着てみましょう」
部屋の奥で着替えをする。ミランダが持ってきた服は一人でも着やすい服だった。
淡い菫色の長袖のシンプルなスタンドカラーのシャツ。同色のプリーツスカートを穿いて、その上から足首丈で長袖のゆったりとしたチュニックのような濃紺色のワンピースを着る。スリットが入っていたようで、動くたびにプリーツスカートがちらりと見える。ベルトをして、完成だ。
ミランダが細部を整えてくれる。
「異国感がでてます。この服どこで手に入れたんですか?」
「そうですね、シャツと中のスカートはサイスで、上から着ているワンピースはマウリッツにいる友人が送ってくれました。ベルトはコランダムです」
「上から着る物で大分印象が違いますね。それにこの布量、あの時とは違いますね」
「一般貴族はこれくらいの布量です。あの時は高位貴族用で」
「沢山色んな服が集まりましたよね」
布の山に埋もれかけた思い出が甦る。
「そうでございますね。」
基本的に貴族の服は術式を組み込むため布地が多く使われる。高位貴族の服は特にその傾向が強い。
その点サイス領はちょっとだけ浮いている。
他と比べて圧倒的に布地が少ない。一般貴族並みなのだ。
術式を効率的に組み上げた結果なのだが、他領からの評価が真っ二つなのだ。
貴族的でないためサイス領を下に見る領地と効率的な術式に身構える領地と。そのためサイス領の次に布地の少ないコランダムからは無用のライバル認定、シノノメからはあんまり目立っては変な奴がよってくるよと心配される始末。
歴代伯爵の手記を纏めた本に幾度となく出てくる内容だ。どの世代でも良くも悪くもサイス領は浮いている。
意図的にだろうとは思うけど。
「リオ様、また思考が脱線していませんか?」
「……ミランダは私のこと分かりすぎです。もう隠し事なんて出来ないですね」
「いつ隠し事を?」
「いやいや例えですよ?」
神妙な顔をしたミランダに汗がでる。墓穴を掘った。
フレッドの元に戻ると、
「似合っているよ、リオさん」
二人からこれでいこうとお墨付きをもらった。




