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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
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選択2

フレッドが部屋を後にすると、私は契約の更新について考えていた。

何が必要だろう。サイス領の後ろ盾を得るとして、というか、フレッド様はサイス領で囲いこみたい様だった。加護障害もなんとかしそうな感じがする。いやいや、そんなに容易くはないだろう。甘く考えないようにしなきゃ。

どちらにしろ身の安全は大事だよ。後ろ盾がないと危険なのはわかった。でも、後ろ盾があっても危険なことに程度の差はあれど変わりはない。ここはちゃんと守ってもらわないと。でも身の安全って広義的だよな。あ、そうかその方がいいのか。

他に何か危険を回避できる言葉はあるだろうか。

意に沿わない行為の強要をしない、とかはどうだろうか?

人質をとって従わせるとかは安易に出来ないのではないだろうか?

なら契約に反すると暴走しますよという内容がいい?

うーん、難しい。あ、そうだ。よし、これなら。

身の安全(外敵に対して)

意に沿わない行為の強要(人質などの搦手できた場合のため)

自由意志の尊重(催眠術とかありそうだなぁとふと思ったから)

安全に重心をおいた内容になった。なんだろ、私らしい内容だな。精神的な項目二つ。精神的な不自由に弱いんだろうなという弱味が晒された結果になった。

でも、これならわざわざ地雷踏みにいく人も少ないだろう。踏みに行く気ということは滅びもじさないってことだから。

「さっきも連絡したけど、いいかな。『千加』」

鏡を手に呼びかける。千加の横顔が映り、此方を見ずに話し始める。

『早くない?』

『ご、ごめん。あの、千加はいつ頃こっちにくるのかなと思って、色々準備があるからさ』

『オッケー、ちょっと待って。えーと、最初は直ぐにでもと言ったけど、半年から1年は時間がほしいな。』

鏡の向こう側で何かを漁っている音がする。

『うん、わかった。他に何か必要なものある?』

『いや、理央の環境に合わせて欲しい。理央がグラッド様と婚約するなら、領主一族の近くに家と立場が欲しいけど、そうでないなら不要だし。』

『お、おぅ』

『バレてないとでも思ったか』

『いえ、でも』

『自分の気持ちは伝えたほうがいいよ。その方が上手くいく場合もある。』

『私、不運体質をなんとかしたい。あと、転移者についてもできることをしたい。』

『いや、天然か。まぁいいや、オッケー。なら外国語辞典と習慣や文化に関しての本も持っていくか』

『ありがとう。千加あの、何してるの?さっきからガサガサ音がしてるけど』

『連絡網の構築に必要な、理央の刺繍を探してて』

はぁ?と私の声を無視して千加は

『燃やさなかった刺繍を沢山保管してたんだけど、何処に置いたかなって』

色々暴露する。燃やしたと言った言葉を信じていたのに、燃やしてないって何で?

『不運は私や耐性がある人間には関係ない。理央の加護が染みついてるから理央と連絡つけるには有効なんだよね。良かった残してて』

「リオ様、グラッド様がいらしています。如何されますか?」

ミランダがこちらを窺うように声をかけてきた。

「あ、はい。通して下さい『千加、色々言いたいことがあるけどまた連絡するね』」

『グラッド様に宜しく』

鏡はすぐに元に戻り、黒髪黒眼のクラリスの顔を映す。大分変わっちゃったな、あのあとからちゃんとグラッドと向き合うのは初だ。

「リオさん、今少しお時間いいですか?」

部屋に入ってきたグラッドは、出かけていたのか屋敷では珍しくジャケットを着ていた。

グラッドが微笑む。変わらない笑顔にホッとする。

「はい、どうぞ。テーブルでいいですか?」

「長椅子がいいです」

「え、?あ、はい。分かりました」

長椅子に並んで座ると、グラッドが来訪の理由を話し始めた。

「実は、リオさんに内緒にしてた事があります。私の目を見てもらえませんか?」

高鳴る胸を押さえ、目を合わせる。

グラッドの目が薄い黄緑色に変わった。

「これは、金属性特化魔法の一つです。養母上からリオさんの加護障害について聞いた後、確認したいことがあって使いました。」

「書庫の本を確認した時の、」

「そうです。この魔法は、鉱石の変化を視認できます。それで、この部屋の守り石を確認していました」

グラッドが天井や柱に視線を向ける。

「守り石は霊素から守るだけではなく、他の働きがあるのではないかと以前から個人研究の一環で資料を集めていました。その中に少ないですが加護障害を抑えるのではないかとの記載があり、この目で確かめたかった」

確かに、此方にきてから不運体質を感じることが少なかった。その一因が守り石にあるのだろうか?

「どうでしたか?」

「守り石が加護を帯びていると言えば伝わるでしょうか?リオさんの部屋の守り石と他の所の守り石では状態が異なります。加護を調べた時の魔道具と同じ様に、光っているんです」

「部屋にいれば、安全ってことですか?」

「そうですが、それではあまりにも不自由です。だから、その、」

急に歯切れが悪くなったグラッドを見つめる。

元に戻った緑の瞳と目が合った。

「リオさん、これを受け取ってください。」

グラッドはジャケットの内ポケットから小さな長方体の箱を取り出した。戸惑いつつも受け取り、蓋を開ける。

その中には、ペンダントが入っていた。ペンダントトップには大きめの宝石のような、緑色の石があしらわれていた。

「あ、あのこれは」

「守り石を、身につけられるように加工しました。加護障害を防げるのではないかと、思って」

嬉しさと共に急に恥ずかしくなって、体温が上昇する。目を合わせ続けられなくて、つい逸らしてしまう。

「グラッド、、様」

いつものように呼び捨てようとして、もうクラリスではないんだと気づき、寸前で様付けに戻す。

「迷惑でしたか、すみません。」

すると、見るからに悲しい顔をされた。

「違います。あ。あの嬉しいです。呼び捨ては、もう出来ないかなって思って、でもタイミングを間違えました」

「良かった。つけた時の反応を確認したいので、ちょっといいですか?」

箱の中からペンダントを取り出したグラッドは留め金を外し、なんだか浮き浮きしていた。可愛いな。

グラッドに背を向け、髪を纏め、首が見えるように上げる。

失礼しますと近い位置で聞こえた声にドキドキしながら、待つ。

「どうですか?守り石に変化はありましたか?」

髪を押さえた手にグラッドが触れる。

「こっちをみて下さい。うん、似合ってます。」

破壊力抜群の微笑みに晒されて、頭が真っ白になる。

普段より多めに平常心を唱え、持ち直す。

「変化してます。リオさんは不安かも知れませんが、窓の外に手を出してみませんか?」

「わ、わかりました。」

二人のやり取りを見ていたミランダが近寄り、窓を開ける。恐る恐る、手を出す。

いくら待ってもあの嫌な音がしない。

虫も飛んでこない。

「リオさん、」

「外に出て、みます。」

目が潤んでいるのを見られたくなくて、早口で宣言すると、立ち上がりこの部屋にきて一度も使用しなかったベランダへ駆け足で向かう。

ノブを掴み、一瞬躊躇したけど、外へ出る。

日傘を持たず外に出たのはいつぶりだろう。

なにも起こらなかった。

嬉しすぎて、その場で蹲り泣いてしまった。


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