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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
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選択1

ミランダが戻ってきた。

眉間に皺が寄って、ちょっと怖い顔になっていた。

「ミランダ、具合が悪かったら休んでて、ね?」

「いえ、なんでもございません。リオ様の方こそ目元が……泣かれましたか?」

「あはは、大丈夫です。あの、フレッド様にお話があるんですが」

「かしこまりました。」

ミランダは特に何も言わずに、部屋を出て行く。

それから直ぐにフレッドが部屋にきた。

あまりの早さに驚く。

「フレッド様、急かしたようですみません。」

「いや、いいんだ。ミランダ、部屋の外に出てくれないか?」

「かしこまりました」

手早くお茶の準備をして、ミランダが部屋をでる。

テーブルで向かいあい、お茶を飲みながらフレッドの様子を観察する。やっぱりわかりづらい。優雅にお茶を楽しんでるようにしか見えない。

「リオさんの話は、心が決まったということでいいのかな」

「はい。こちらに残ります。」

「そうか。これからはリオさんとして生きていけるよう手を尽くそう。」

「クラリスの振りはいいのですか?」

「あぁ、今年の冬に葬儀を行うことになった。」

薄く微笑んだ。私はその意味に何も言えず息を呑んだ。そのことについてフレッドはこれ以上何も言わなかった。

「君には、いくつもの選択肢がある。初めの選択肢は大まかに四つだ。君の後ろ盾についてだ。」

一つ、サイス領。

二つ、王族。

三つ、ジャック・ラングストン。

四つ、後ろ盾なし。

「ジャック様って個人で後ろ盾になれちゃうほど凄い方なんですか?」

「あぁ、彼の外見は他と違うのはなんとなく感じているだろう。白髪に金の瞳、あれはラングストン一族の中でも光以外の全属性持ちで且つ高レベルの加護を持つ者にしか表れない特徴だ。他の人間ではああはならない。特殊体質の一族。この国でもっとも歴史のある家でジャックはそこの現当主だ。」

「それにしては、フレッド様扱いが雑では?」

「従兄弟だからな。多少気安くはなる。……各選択肢を選んだ際の説明をする。前提として、召喚者契約の更新が必須だ。どう契約するかで、変わってくるが」

サイス領が後ろ盾の場合は、比較的自由度が高い。クラリスの件があるから、王族や今回の事件関係者のいる領地からの干渉を極力減らせる。互いに人となりを知っているから交渉がしやすい。

王族が後ろ盾の場合は、権力闘争に巻き込まれる危険性が高い。召喚者と知る人間が増える危険もあるが、この国でなしたいことがあり、高い志と覚悟があるなら最適。

ジャック・ラングストンが後ろ盾の場合は、魔法省に就職し、生活したいなら一番。邪魔も殆ど入らないが、一、ニ年の期間限定で短い間に出世して外部からの干渉を防ぐ必要がある。出来ない場合はジャックと婚約の可能性もある。

後ろ盾がない場合。身の危険が他の選択肢と比べて格段に高い。暗殺の危険を常に考える必要がある。

「暗殺、ですか」

「国が滅ぶ危険がつきまとう存在を放置は出来ない。絶望する前に殺す。危険を回避する一番の近道だな」

背中を嫌な汗が伝う。

「フレッド様、私、先に伝えなければならない事があります。私の加護のことで」

「加護障害のことかな?ミレニアから報告があったが」

「はい。あの時は、三ヶ月もすれば戻れるし、嫌がられたくなくて、黙ってた事があります。全て包み隠さず話せていればよかったんですけど。でも、言えませんでした。」

自分に不利なことはなるべく言わずにいた。

「それは、当たり前のことだよ。リオさん。弱味は出来るだけ隠しておかないと、後で痛い目にあってからじゃ遅い。それで聞いても構わないかい?」

「はい。ミレニア様には落下物に当たると言ったのですが、全てにおいてついてないというか。不運体質で。嫌なことには当たるし、動物には怯えられるし」

不運の内容を伝えた。フレッドの眉間に皺が寄る。

「一つ一つは大したことはないんです。でも頻度が酷いし、それに」

「それに」

私の不運体質はこの際、別にどうでもいい。問題は。

「闇属性加護のない方が私と親しくなると、不運体質が感染るんです。その場合は実害がでて、だから、私」

後ろ盾にサイス領を選びたい。でも

「グラッドがいるから、サイス領を後ろ盾に選べないとか考えてる?好ましく思っているんですよね?」

「はい。だから、もう、影響がでてます。」

「じゃあ、その問題が解決できないと、サイス領を選べないってことかな?」

「どう生きるにしろ、後ろ盾ということはこの先も接する機会がありますよね。精神的に距離が開かないと多分無理だと思います」

「なるほど、第一候補としてはサイス領だが、代替案は」

「ジャック様ですね。」

「王族はいいの?」

「大層な野望も覚悟もないです。サイス領の為なら頑張りたいことはありますけど、国全土となると無理です。危険すぎるのは駄目なので後ろ盾は欲しいです。あ、そうだ千加は如何いう扱いになるんでしょうか。来るのが確実になりましたけど」

「本人の希望通りにするが、一先ず今の所サイス領が保護した転移者という立場を取ろうと思っているよ」

「ありがとうございます。」

「取り敢えずサイス領が後ろ盾ということで、話しを続けよう。加護障害については、後で考えよう。いいね?」

「はい」

話題はサイス領の後ろ盾でできることと私がこの先やりたいことの話になった。

私は加護障害をなんとかしたいこと、転移者について力になりたいこと、サイス領の役に立ちたいと思っていることをあげる。

「それは嬉しいけど、無理をしているのではないかい?」

「無理はしてないです。フレッド様やミレニア様、グラッドにミランダの役に立ちたいだけです。サイス領のと言ったけど、もっと我儘な個人的な感情です」

「ふむ。転移者支援は充分に手の回せていない部分だ。」

とフレッドは転移者について説明をする。

今、サイス領では冒険者ギルドに常時『転移者の保護』という依頼をだしている。彼等は魔獣討伐などの依頼を受けて領地南西部に広がる大森林付近での活動が多い。そして、転移者は大森林でよく見つかる。初代様がたてた仮説を100年近く経って証明するだけの情報がようやく集まってきた。

転移者は年間多くても片手で数えられるくらいしか発見されない。発見されない年もあったり、実数がわからない。亡くなっている割合が多いのか、拐かされ他国に売られているのか。

ただ、魔障の起こる地域で発見されている。

サイス領は年間転移者発見件数と生存率の高い領地だ。初代様の仮説はこの世界の食べ物を摂取する事でこちらの世界に馴染むのでは?という、ギリシャ神話などに見られる話を元に導き出したものだった。

大森林には単体で実をつける植物が多く植樹されている。枇杷やベリー系などだ。

それを口にして生き延びた転移者を冒険者が依頼のついでに保護し神殿へ、神殿から魔法省へ。魔法省で言葉や習慣などを教育し、市井へ。その時にサイス領へ戻ってくる転移者もいるが、殆どは他領ウパラやマウリッツへ流れている。

「ウパラとマウリッツは流行の最先端ですからね。商業の土地は魅力的ですし、住めば都といいますけど、出来ることなら便利な都市部に住みたい気持ちもわからなくはないです。」

「確かに、ウパラやマウリッツは賑やかで、色彩鮮やかで魅力的な領だ。ただ、住民と転移者との間にいざこざが起きていると言う話も聞く」

「あぁ、大なり小なりどこにでもありますね」

「すまん、脱線したな。リオさんが望みを叶えるなら、領主一族に加わったほうがやりやすい。けど、加護障害が不安。では、グラッドと婚約した上で一、二年ほど転移者について理解するためにも魔法省で働くのはどうだろうか?」

「婚約、」

「手に入れられる機会を逃しては良縁なんてさっさとどこかへ行ってしまうよ?」

フレッドは軽い口調で、決定事項にしようと告げる。

「う、グラッドにもちゃんと確認して下さい。拒否する権利を奪わないで欲しいです。」

「君は本当に良い子だね。わかった、ちゃんと本人の意志を尊重しよう。それで、魔法省入りのことはどう思う?」

「転移者の身柄を最終的に魔法省が保護する。体制が確立してますから手順を学ぶなら必要ですね。はい、お願いしたいです。」

「リオさん、これからも宜しく。近い内にジャックが新たな契約を結びにくるから、内容を考えていてくれ。チカさんとも話を詰めて、こちらへくる時期がわかるとありがたい。住居や身分など用意することがあるからな」

「はい。宜しくお願いします」

深くお辞儀をする。

「お辞儀は美しいけど、こちらでは浮くからやめたほうがいい。」

「う、そうでした。気をつけます」


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