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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
43/605

樋口家1

ミレニア達はフレッドの書斎に場所を変え、話し合いの続きを始めた。

ミランダは鏡の設置をしてドアの横で控える。

「ミレニア様、言葉は通じるようにしています。どうぞ、始めて下さい」

鏡に映る黒髪の穏やかな表情の男性と茶髪の女性が理央の両親だと千加から説明を受けた。ミレニアとフレッドは並んで座る。緊張の面持ちで此方を見ている二人に向かい、先に謝意を表す。

「この度はこちらの世界のいざこざに巻き込んでしまったことをお詫び致します」

「そして、クラリスを保護していただき、ありがとうございます」

「いえ、こちらも理央がお世話になっています。私は理央の母親で、樋口要です。此方は父親の聡史。奥にいるのが、兄の翔です。」

「わたくしは、」

「ミレニアさん、フレッドさん、後ろにいるのがグラッド君かしら?千加ちゃんから聞いています。」

先程の緊張の面持ちが嘘のように要は笑顔で対応した。

「カナメさん、クラリスについて知らされていると思います。」

「はい。ですが、その前にこの話し合いの内容を端的に教えてください。」

要はミレニアをじっと見つめ、そして不敵な笑みを浮かべた。ミレニアはふとリオの顔が浮かんだ。クラリスの体なのに、目の前の要と雰囲気が似てると思った。フレッドも同じ様に感じたのか、似てますねと小さく笑う。

「まずは、謝罪とクラリスに対してどう考えられているかの確認とリオさんの今後についてを話し合えればと」

「謝罪については、先程いただきました。次に、クラリスさんは、天真爛漫で、自分に正直だし、芸術系の才能があって、立居振る舞いに品がある。人を惹きつける魅力のある子です。ただ理央と違いすぎて、私達は正直持て余しています。千加ちゃんから話を聞いて、もう彼女が元の体に戻ることはないと知ってからは、別の人間として接していますが、家族としては受け入れられていません。私達の前に彼女自身が私達を家族として生きていくことを拒否しているように感じます。」

冷静に話す要の後ろで、翔が眉間に皺を寄せていることにミレニアは気づいた。そして、隣りの聡史の顔色が悪い事も。

「あの、カナメさん、」

「あぁ、二人は無視して結構です。どうしたって冷静ではいられないので、喋らないことを条件についてきたのですから。」

あははと笑う要に違和感を抱くが、そうですかと頷く。

「私達は、クラリスさんのご家族の希望を確認したいです。いやぁ、よそのお嬢さんを預かったことがなくて、困ってたんです。」

「わたくし達が希望するクラリスの扱いですか?」

驚いた顔のミレニアに要は優しく笑いかける。

「ん?そうですよ。別世界で生活する家族を心配する気持ちは一緒です。貴女達の世界の神様や人間が引き起こしたことでも、クラリスさんやそのご家族の所為ではありません。そこは間違えてはいけない。」

理央が代わりに怒ってくれたから、冷静にクラリスと向き合えた。でも、胸の苦しさは晴れなかった。

まだ完全に飲み込めてない気持ちが湧き上がってくる。

「外面が良くて、人の話なんて聞いてなくて、あんなに迂闊で、でもあの眩しい笑顔が愛しくて」

「うんうん、可愛いですよね」

「わたくしは、あの子にとって負担でしかなかったけれど。わ、わたくしは、あの子が生きて、元気でいるなら、それで」 

「はい。そうですね。大切なことです。フレッドさんは?」

言葉を詰まらせたミレニアの肩を抱き、フレッドが続ける。

「クラリスを叱って下さい。見捨てないで、見守ってください。私達の代わりに」

「それはありがたい。口出す口実が出来ました。グラッド君は、」

にこにこ笑う要と目が合う。

「私ですか?いえ、特にはありません。」

「おや、ドライだね。まぁ、理央がタイプならしょうがないか」

「それは」

赤面するグラッドを翔と聡史が睨む。喋らないという条件を守るか破るかの瀬戸際にいるようで、口をパクパクさせている。

「喋ったら即刻退場してもらうからな」

ドスの効いた声で要が二人に釘を刺す。

「それでは、これからはクラリスさんのことを、私達が見守り導きましょう。では、理央についてですが」

一旦言葉を切り、深呼吸をする。長めに息を吐き出す姿は理央と似ているとグラッドは緊張する。

理央の場合、深呼吸は気持ちを切り替える為の動作だから。

何かあるのかもと、無意識に身構えた。


「その前に理央のことをどう思っているか、聞いてもいいですか?」

さっきと何ら変わることない笑顔で尋ねる。

「勉強熱心で、よく人の事を見ている子だなと思います。思いやりがあって、魔法の発想も面白くて良いですね。……ただ、あまりにクラリスと違いすぎて、それを目の当たりにする度に、あの子を導けなかった自分たちの不甲斐なさに苦しくなります」

フレッドの言葉に、ミレニアが涙を流す。グラッドは俯いた。

「評価していただいてありがとうございます。頑張っているようで安心しました。えっと、理央の今後についてでしたね。」

少し考えた後、

「理央についてはあの子の選択に任せます。」

笑顔でキッパリと言い切る。

「其方で生きること、戻って死ぬこと、どちらを選んでもあの子の意思を尊重してください。死んでほしくないですけど、戻ることを選択しても私達は受け入れます。」

「わかりました。では、戻らない場合は」

フレッドの言葉に要は頷く。

「その場合も、あの子に選ばせて下さい。どんな状況にあるのか、この先どういう展開が予想されるのか、どんな選択肢があるのか、それを伝えていただきたいです。そこで、選んだ先にあなた方と敵対する未来を予想できる場合は教えてあげて下さい。あの子は、色々考えて一見大人びているようにみえるかもしれませんが、意外と視野が狭く、抜けてる所があります。調子に乗るとこもありますね。それは私と翔に似たのでしょう。でも、あの無表情の奥で自分の自意識過剰気味に気づいては反省と後悔を繰り返していますので、可愛くて仕方がないのですけど。あ、今のは親バカ発言ですね、お恥ずかしい」

頭を掻きながら要は、更に続ける。

「あの子は、弱くて強い子です。嫌なこと、辛い事に対して即反撃のできる瞬発力のある子ではありません。我慢したり、挫けたり、立ち止まる子です。でも、自分で解決策を考えられる子です。だから、私達が願うのはあの子が自分の意思で選ぶことです」

「わかりました。」

フレッドが了承するのを見て、

「ではこれで終了で構いませんか?あ、そうだった。ミレニアさん」

解散を宣言しようとした要は、もう一つ言い忘れていたことを思い出した。

「は、はい」

「クラリスさんのことは任せて下さい。私がきっちりシメときますから」

気持ちの良い清々しい笑顔で言う。

「はい?」

「母さん、本性でてる」

困惑するミレニアに翔と聡史が口を開く。

「ミレニア、さん。さっきのクラリスさんとのやり取りを私達も聞いていました。要は大分怒っているようでして、理央が怒らなければ多分要があの場に乗り込んでいました。」

「ちょっと二人共、喋ったんだから退場だよ。ほらほら、でてって」

「理央のこと、よろしくお願いします」

聡史が丁寧にお辞儀をする後ろで翔がグラッドを睨みつけている。

「俺はグラッドに」

「それでは、私達はこれで失礼します。……千加ちゃん、任せた」

慌ただしく三人は退室していく。遠くの方で騒いでるのが聞こえる。

「あはは、びっくりしましたか?あれが理央の家族です。愉快な人達でしょ。」

要の座っていた場所に千加が移動する。

「そうだね。驚いた。こんなに早く話し合いが終わるとは思ってもみなかった」

「あぁ、そうですね。感情的になってしまいそうな案件ですから。」

「カナメさんは凄く冷静だったね」

「要さんは、表情を出すのが上手いんですよ。いつもは感情にあった表情をより伝わり易く出す人なんですけど、今日は表情に感情がついてこればいいって考えたのかもしれませんね。」

「冷静を装ってたと?」

「はい、要さんの中で、冷静さの象徴は笑顔みたいなんですよ。だから、終始笑顔だったんです。時間制限があったようですけど、あの中で一番冷静に話が出来るのは要さんだけなんで」

フレッドは穏やかな表情で要の隣に座っていた聡史のことを考えたが、

「理央のお父さん、一番狼狽てますから。初めの頃なんて泣きっぱなしで。」

千加の言葉に驚く。

「それはともかく、フレッド様ミレニア様。クラリスのことは要さんに任せて下さい。何かあれば、連絡できるように手配しておきます。」

「ありがとう。ところで、君はリオさんが此方に残る際は、此方にくるつもりだったね」

「はい。神様の愛し子としての役目も兼ねてますけど、一番は理央がいる世界にしか興味がないので。」

「リオさんのいる世界にしか興味ない、それは」

「それは秘密です。でも、其方にも似た人達はいると思いますよ、騎士とか神官?とか。」

自分以外の誰かの為に全てを捧げる覚悟をもった人達。フレッドには良くわからない感情だったが、追及することはしなかった。

「チカさん、差し支えなければ、神様の愛し子とは何か教えてほしい。役目というのも」

昨日理央から受けた説明は別世界の神の加護を一身に受けているから魔法のない世界でも魔法の様な力を扱うことができるといった内容だった。

「構いませんよ。神様の愛し子は、神様の力の一端を借り受けることができる代わりに、神様の欲求を満たしてあげなくてはいけないんです。私の神は天帝の分身、貴方達の世界でいうところの眷属のような存在です。」

属性神の手足、目や耳となる存在が眷属。

「主神が地上を知るためにばら撒いた分身で、回収されなかった、地上に取り残された神です。」

地上の光景を見ていただけだった神にやがて自意識が芽生え天帝とは別の神になる。

それでも、最初の存在意義は変わらずあり、世界を知ることに貪欲だ。

「特に私の神は、貴方達の世界を知っています。ひい爺ちゃんが愛し子だったんですが、一度神の庭に踏み入ったことがありました。そこで別世界の神と交流し知識を得たようです。ただ、ひい爺ちゃんは世界を渡れない体質だったので、その時は諦めて戻ったと聞いています。今回の事で諦めた欲求が再燃しているのと私が渡れる体質なこともあり、理央が戻っても戻らなくても最終的には其方の世界へ行くことになります。私の役目です。」

「わかった。こちらへ来た際は、サイス領を訪ねてほしい。力になろう」

「ありがとうございます。理央には内緒でお願いします。そんな話ししたら、戻りたくても戻れなくなりますから。」

「チカさん、ありがとうございました」

ミレニアはまだ目は潤んでいるが、落ち着いたようだった。

「では、今日はこの辺で失礼します」

通信が切れた。鏡にはフレッドとミレニアの姿が映る。


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