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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
41/605

クラリス1

ミレニアが来る前に、一応千加と打ち合わせをと思い、鏡に呼びかける。

『千加、聞こえる?』

すると、鏡の中に千加の姿が映る。

『お、やっぱり時間前に絶対打ち合わせしたいだろうなと思ってスタンバイしてました。流石、私』

『千加、それよりも、クラリス様の様子はどう?ミレニア様が少し冷静ではないようなんだけど』

『ん?あー、いつも通り。多少は緊張してるみたいだけど、クラリスとしては怒られるのが分かってるし、言いたいこと言ってスッキリしてやる位にしか考えてないよ』

『子供か!』

『子供も子供。其方の世界は15から成人って聞いて目眩したもん。ま、私が言えたことではない』

『はぁー、気が重い』

『クラリスのことはミレニア様に任せて。あ、そうだ理央、日本語訳要らないから。』

『?いいの?』

千加は頭を掻きながら、今日は神様が同席するからと少し言いにくそうに続けた。

『今はクラリスに興味津々で、半分以上くっついてる。』

半分以上、千加の神様は自身を分割して別々に行動が可能と聞いていた。割合が多いほど状況解析能力が上がるとかなんとか。三割以上いれば、異言語通訳も可能だ。

『お役目だもんね。たくさん色んな事を体験するだったっけ?』

いつもは千加に五割、家に三割、残りが散策にでてると聞いたことがある。

『じゃあ、クラリスのオーラから予想できる発言を言っていくから、覚悟決めてて』

千加がクラリスの発言を予想してつらつらと挙げていく。

感想は、正直だな、オブラートに包んで!だ。

『返答は予想出来そう?』

『言われたこと全部に丁寧に返答がありそう。』

『あー、じゃあもうミレニア様には諭すんじゃなくて喧嘩する気で臨んでって伝えておいて。兄貴さんと似た事してたわ。』

『やっぱり喧嘩してるよね』

『水と油だよ。最初は大変な状況にクラリスに気を遣ってたよ』

『兄貴が!?』

『でも、やっぱり駄目だった。すぐ喧嘩してた。』

『そっか、、千加、私』

『会えなくなったわけじゃないよ、理央。直接は難しくても鏡越しになら何度でも会える。それに、どうしても、会いたい時は日帰り帰省を私が実現させる。だから、』

二の句を繋げなくなって千加が黙る。

『日帰り帰省って出来るの?』

『まぁ、常習化はできないけど出来る』

『千加、それって無理してない?』

首を横に振り、神妙な顔で告げる。

『私は無理してない。無理させるのは連れて行く理央の方。世界の往復は負担が大きいから神様ではフォローしきれない所がある、ごめん変に喜ばせた』

『ううん、ありがとう。千加、もう絶対会えないんじゃないって分かって安心した』

それからミレニアの訪問までクラリスの発言に対してどのようにフォローしていくかを話し合った。


いよいよクラリスとの対面の時間になった。

鏡の前にミレニアと私が座り、その後ろにミランダ、少し離れた所にフレッドとグラッドが立つ。

鏡に映る『私』の姿に違和感しかない。

黒髪ストレートだった姿は何故か、茶髪のゆるふわボブになっている。

イメチェンにも程がある。誰だコイツ。

私が黒髪直毛だと知っているミレニア達も目が点になっている。

「あら、貴女も自分の髪色に変えたのね?おそろいですわね」

クスクスと笑うクラリスはもう『私』ではなかった。

表情も何もかも別人だった。

「クラリス、久しぶりね。」

「お母様もお元気そうで」

クラリスの声色がそっけない。嫌な予感がする。

「体調を崩してはいない?」

「特に問題ありませんわ。お母様、言いたい事があるならはっきり言って下さいませ。ないならわたくし失礼致しますわ」

予想通りだな、おい。

「今回の召喚について貴女が思っていることを知りたいわ。教えてくれるかしら?」

「特にありません。まぁ、巻き込まれたリオさんは可哀想だと思いますけど、どうにもなりませんもの。」

「特にない、そうですか?帰りたい、会いたい方はいませんか?今の状況に不満はないのですか?」

「何が言いたいのですか、お母様。チカから説明があったのですよね?わたくし帰れませんの」

「貴女に関してはチカさんは帰れないとは言っていませんよ。明確には帰ってもまた、世界から追い出されるとだけ聞いています。帰れないことを免罪符のように使って逃げないで下さい。」

ミレニアの強い言葉にクラリスが狼狽える。

「な、なんですの!?いつもは感情を出しすぎだという癖に、ここはよく隠せていると褒める所ではないのですか?」

「貴女のそれは、都合の悪いことを隠したいだけの取り繕いだとわたくしもいい加減学びました。何を隠しているのですか?わたくし達から離れられて嬉しいですか?伯爵令嬢という肩書きが無くなって良かったですか?」

泣き出したいのを堪えて問いかけるミレニアは普段よりも感情的だった。クラリスの本音を聞きたいという気持ちが伝わってくる。

隣りに座るミレニアを心の中で応援する。

ミレニアの言葉にクラリスが真っ赤になる。

「そうよ、これでもうお母様やミランダの小言を聞かなくて済むと思うとせいせいする。お母様だってせいせいするでしょう?わたくしのことなんて愛していないんだから!」

クラリスが叫ぶ。その一瞬でミレニアは言葉を失う。

耳鳴りがする。

自分でもびっくりするくらい低い声がでた。

「おい、それマジで言ってますか?」

「理央、落ち着こう」

千加の声が聞こえたが、それどころではない。

「愛していない?どこをどうみたら、愛していないに辿りつくんだよ。馬鹿か?」

唖然としているクラリスを見据えたまま続ける。

「アンタが伯爵令嬢として振るまえたのはミレニア様の教育のおかげだ。教育に力を注ぐのは、アンタが思っている以上に大変なんだよ。どれだけの時間と労力を費やしてきたと思ってる?」

椅子から立ち上がり鏡に近づく。

「教育なんて当たり前なこと」

「当たり前?愛情もなく、そんなこと出来るわけないだろ。アンタのことがどうでもよければ、家庭教師に丸投げしてるわ。それに、自分の武器を磨けたと背中を押してもらいながらその努力を怠ったくせに何が愛してないだ?ふざけんな」

「わたくしは、」

「教育は貴女を守る鎧、武器は自分で磨いて認めさせろ。アンタの武器は?芸術?その為の努力は?作品を売り込んだか?芸術家の卵の支援でもしたか?芸術の啓蒙活動は?何でもいいからしたか?」

顔色が悪くなるクラリスを睨む。

「愛されているのに、その愛情の上に胡座をかいて終いには愛されてない?根拠は?」

「愛してるって言われてない!」

「はぁ?」

とうとうクラリスが泣き出した。それでも追撃の手は緩めない。

「言葉だけでいいの?言葉なんて、心の中でどう思っていようといくらでも言えるけど。」

嫌な記憶が甦るのを無理矢理追いやる。

「態度で示されているものがあるのに、それは知らない?因みにクラリス、アンタも愛してるって言ったことない。アンタの言葉を借りれば、自分は相手を愛していないのに自分にだけは愛してるって言えってことか?」

「態度って何よ」

「小さい頃から不安になる貴女を抱き締めて大切なクラリスと不安を解いてくれたり、何かが出来るようになる度褒めてくれて、駄目な言動を注意してくれる。貴女を大事じゃなきゃやらないわよ、そんなこと」

「あ、、」

「何よ、まだ何かあるの?」

「リオ様、失礼します。」

ミランダに後ろから手と腰を掴まれ部屋の奥へ連れて行かれる。

ベッドに座らされて、奥様とクラリス様の話し合いの機会だから落ち着くように諭された。

はっと我に返る。やってしまった。ミレニアとクラリスの喧嘩に横入りしてしまった。

「あ、ど、どうしよう。」

狼狽して立ち上がる私を

「リオ様、怒ってくれてありがとうございます」

ミランダが抱きしめた。


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