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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
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事件の終わり6

術式の最終調整がしたいとジャックに言われ、準備をして玄関に向かうと何故かフレッドとミレニア、グラッドまでそこにいた。

「どうしたんですか?」

ジャックとミランダと三人で行くつもりだったので、少々面食らう。

「こんな機会はないからね、見学させてもらおうと思ってね」

フレッドが爽やかな笑顔で、ジャックに圧をかけていた。

その様子を、気持ちに整理がついたのかなと観察する。

ジャックが渋々折れて6人で行くことになった。

クロムから出てしばらく馬車を走らせる。

サーカスやキャラバン隊のテントのような物がみえてきた。

「あそこから術式の設置されている施設へ移動します」

テントの横に馬車を停める。入り口には魔法省の制服を着た男性が立っていた。

私達が馬車を降りると御者を促して裏手に回っていった。

中へ入ると、移動用の術式の書かれたシートが中央に敷かれていた。

「ミレニア、術式を細部まで観察しない。フレッドも、おい、リオさんもか。」

一斉に術式に釘づけになった三人にジャックが天を仰ぐ。

「闇属性持ちの性ですね」

ミランダの言葉に

「ミランダも闇属性持ちでしたよね。」

グラッドが不思議そうに問う。

「私は術式に興味がありませんので」

ミランダとグラッドが術式に見入る三人をシートの上に追い立てる。

「はぁ、呑気な」

ジャックの呟きに私は少しだけ違和感を覚えて、顔を上げる。表情は全く読めなかった。

「それじゃあ、行きますよ」

ジャックが移動術式を発動させた。

一瞬眩い光に包まれ、目を瞑る。

眩しさが収まり、目を開けるとそこは、見知らぬ場所だった。

術式の調整をする部屋は青色の照明で薄暗いが神秘的な雰囲気だ。

広い円型のホール、2階もある。人が数名作業をしているのが見える。天井はドーム型。

なんだかコンサートとかしそうな建物だなと辺りを見回していると、ジャックが

「リオさんは、ホール中央へ。後は、この陣の上から離れてあの小さい円陣の中に一人ずつ立って待っててくれ」

ホールの壁側にある人一人分の大きさの円陣を指差して言う。

私は言われた通りホールの中央へ、床に描かれた魔法陣を眺めながら歩く。床に描かれた術式は仄かに黄色く光っている。

中央に近づくと床が二重構造になっているのに気づいた。細かな術式が組まれている。入り口側からは分からなかった。

「ここは、神の庭を模して作られた魔法省の術式実験施設だよ」

ジャックに後ろから声をかけられ、振り返る。

「神の庭って何ですか?」

初めてきいた言葉だ。

「転移者の中に稀にとある場所を通ってこの世界にくる人達がいる。彼等はそこを神の庭と呼んでいて、神様に会ったと言う。大きな水晶が草木のように生えていて、青色と仄かな黄色の光が神秘的な場所だそうだ。そこを通った転移者は自らの意志でこの世界に行くことを決めた人達で中には引き返す人もいたとか。彼方と此方を繋ぐ場所なのだと思う」

「何処にあるかは、分からないんですか?」

「ああ、入り口も出口もバラバラだった」

ジャックが指折り教えてくれた入り口は古代より神々との交信が行われたとされる遺跡だった。

出口とされる場所に定期的に調査に行くも収穫はない

ようだ。

「昔から神様と交信する場所とされてる遺跡はどうですか?入り口はそういう遺跡からかも知れませんし」

「なるほど、一方通行ということか」

「あの、ジャック様。ここで、私は何をすればいいですか?術式の調整って……」

足元の術式を見て、ふと気づいたことがあった。

これは、この術式は。胸が冷たくなる。

「ジャック様、これはどういうことでしょう?」

足元に広がる術式を指差して、声が震えないように尋ねる。

召喚者を制御するための契約書に使われている文字が見える。魔紙に興味をもっていたクラリスの知識の中にその術式はある。

間違いであれば、それでいい。魔紙に使われている術式と同じものがここの術式にあっても、私の帰還方法に必要かもしれないから。

ジャックの眉間が一瞬寄った。

「リオさん、クラリス嬢から手紙が返ってきた。……ここには帰らないと書いてあった。」

ジャックの声がホールに響く。

私も聞こえたはずなのに、意味が理解できなかった。

「え?」

帰らない?

なんで?

どうして?

「リオさん、」

なんで、なんで、なんで?

目の前がボヤけ、周囲の音が聞こえなくなる。そのかわりに耳鳴りが強くなる。

「なんで」

帰らないの?なら私は?

「帰りたい……帰りたい、よ」

母さん、父さん、兄貴、会いたい。もう会えない?

そんなの嫌だ

嫌だ

「嫌だ!!!!」

目の前が真っ暗になった。


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