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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
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事件の終わり5

収穫祭は大盛況の内に幕を閉じた。

翌日不機嫌なクラリスを宥めるとの口実でグラッドが部屋にやってきた。

「クラリス、お土産を買ってきたからそんなに怒らないでくださいよ」

グラッドは飛んできたクッションをキャッチする。

「セシルは待機してて下さい」

「はい。……クラリス様はかなりお怒りですね。お菓子も持参すれば良かったですか」

「大丈夫ですよ。セシルは意外とクラリスに甘くないですか?」

「そんなことは」

「ちょっと、グラッド!入らないなら帰って下さいませ」

「はいはい。ご機嫌斜めですね、クラリス」

「収穫祭を楽しみにしていたんですよ!少しも参加できなかった、わたくしの気持ちが分からないんですの?」

ドアを閉めて、クラリスに近づく。クラリスは腰に手を当てて、グラッドを睨みつけている。

本当に機嫌の悪い時のクラリスだ。

「今日も凄く、クラリスですね」

「褒められている気がしません。」

目を逸らし、クラリスの表情が消える。

グラッドはこの瞬間がいつも少しだけ残念だった。

「リオさんは、いつも私とは目を合わせて下さいませんよね、まだ慣れませんか?」

「美人を直視できる頑強な精神を持ち合わせていないので、ご容赦下さい」

「大分見慣れたと思いますけど。まあ、いいでしょう。はい、お土産です。」

手渡されたのはお菓子の詰め合わせだった。クラリスの好きなお店のお菓子もあった。

「?それは、口実では」

「じゃないですよ。お土産話も一緒にいかがですか?」

「あ、ありがとうございます。では、此方へ」

応接用のテーブルに案内する。向かいあって座ると、ミランダがタイミング良くお茶を運んできた。お土産のお菓子もだしてもらう。

グラッドが語る今年の収穫祭は、リーベック領の友人の視察に付き合ったので内容が偏っていた。

クロムの建築様式、露店で売られているアクセサリーなどの細工技術、料理人の使う道具。収穫祭の視察にかこつけて他領に来たかっただけではという内容だった。

「流石リーベックですね。」

リーベックは鉱山資源の豊富な領地で、鍛治、建築、宝石加工等の職人が多い。初代様の大鎌はリーベック製だ。それ以来サイス領とは良い関係が続いている。

「イヴァンは他領へ行く機会がないから珍しいものばかりだと浮かれてました。そんな彼が石のカット技術が凄く丁寧だと言っていたのが、此方です」

何やらテレビショッピングのような文句と共に差し出されたのはコンパクトタイプの手鏡だった。蓋の部分に色とりどりの石がモザイク画のように貼り付けられている。

「へぇ、凄いですね。」

「お土産です」

「ん?私に?」

「はい」

「……あ、ありがとうございます。でも、さっき、お土産は貰いましたよ?」

「迷惑でしたか?」

「いえ」

「なら、貰って下さい」

「ありがとうございます」

鏡はサイス領では身だしなみの道具としては勿論、お守りとしてもよく贈られる。

そういえばクラリスはこの前落として駄目にしてたな。あ、それでか。

「クラリス様の好みとは少し外れてますけど、いいんですか?前に割れた鏡の代わりですよね」

合点がいったとグラッドを見る。

「違いますよ。私が貴女に贈りたくて選びました。」

あ、失敗した。

「ごめんなさい、グラッド。」

笑ってるのに笑ってない。傷つけてしまった。

「いえ、いいんです。私が、浅慮でした。もうすぐ戻られるのに、贈り物なんてややこしいことしてしまって」

「違います」

グラッドの言葉を遮り、否定する。

脳裏をよぎったのは嫌な思い出。

「あげる」と、渡されて開けた箱の中に『魔女』と書かれた紙が入ってた。胸が苦しくなる。

頭を深く下げて、謝る。ぎゅっと強く目をつぶる。

「ごめんなさい、言い訳をさせて下さい。……昔、男の人から揶揄うための贈り物を贈られたことがあって、その……素直に受け取れなくてごめんなさい。」

そうだ、あれ以来贈り物の理由を探すようになった。

「ごめん、なさい」

グラッドは良かれと思ってお土産をくれたのに。

「リオさん、顔を上げて下さい。怒ってませんから」

「でも、傷つきましたよね」

「ふふ、大丈夫です。謝ってもらったので」

「グラッド」

顔を上げる。グラッドの表情に悲しんでる様子はない。よかったぁと安堵して微笑む。

「手鏡、受け取ってくれますか?」

「はい。嬉しいです」

それから暫くお喋りを楽しみグラッドは帰っていった。

貰った手鏡を見ていたら、ミランダが笑っている気がした。相変わらずの無表情なのだが。

「ミランダ」

「何も言ってませんよ」

「なんだか、顔が笑ってます」

「いえ、いたっていつもどおりです」

手鏡はお守りの意味もあるから、無事帰れるようにとの願いも込めてポケットにしまう。

それから三日後、ジャックが術式の最終調整をしたいと訪ねてきた。



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