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不運な召喚の顛末  作者:
第一章
34/605

事件の終わり3

フレッドから呼びだしがあった。

執務室にはフレッドとミレニアの二人だけだ。資料を片手に何やら話し合っている。

「二人共、御苦労だった」

フレッドは私達に気づくと立ったまま、話を進める。リリアナは無事?ジャックが王都へ連行していったそうだ。

散々喚き散らすリリアナを防音と気配を消す魔術で隠し、悪どい笑顔で帰っていったと淡々とフレッドが話す。

「グラッドには収穫祭の準備を、リオさんには今日の報告書をお願いしたい。……リオさん、昨日は色々すまなかった。それでは、戻って構わない。」

手短に話を切り上げる。

フレッドの様子はいつもと同じ様に感じた。どうやら落ち着いたらしい。

私は一人、部屋に戻った。

報告書を書きながら、属性特化魔法を使って屋敷内を歩き回る。影の一部を小さく切り取って、動かす。天井を這えば、気付かれずに移動できる。

結構難しくて、楽しい。最近やっと『ながら運転』ができるようになった。

私自身は部屋に引きこもっているので不運に見舞われないとはいえ、やっぱり油断は出来ないし、グラッドに影響がでている状況を改善したい。なるべく特化魔法を使って軽減を図りたい。

『クラリス様は面会謝絶だというのに、パイライト伯爵様の御令嬢が、無理矢理会いにきたのですって』

『あぁ。でも、ミランダさんがお相手して帰っていただいたって聞いたわ』

『クラリス様の具合はどうなのかしら。あんなに活発なお嬢様が部屋からでてこないなんて』

侍女達の話に耳を澄ませる。

彼女達はクラリスに好意的な方だ。別の人の方へ移動する。

『おい、聞いたか?パイライト伯爵のお嬢様がミランダ嬢に追い出されたって』

『クラリス様といい、パイライト様の所のお嬢様といい、こんな忙しい時期に暢気なもんだ』

庭師のおじさん達の会話が聞こえてきた。そちらへむかう。

気になるのはパイライト伯爵令嬢がきたと家人達が認識していることだ。隠さないでいい、むしろ知らしめようという意志を感じる。

『クラリス様は療養してるんだろ?相当具合が悪いじゃねぇか?』

『なんでだよ』

『お前知らねーのか?クラリス様はよく庭にスケッチにきてたんだよ、ミランダ嬢が許可しねーってことは本調子じゃないんだろう。』

『じゃあ、追い出されるのは当然か』

部屋にこもるクラリスらしくない行動が結果的にクラリスが療養が必要な状態であると皆が認識する状況を生み出している?

庭師のおじさん達から離れて今度は、洗濯室へ向かう。あっちにいる人達はクラリスのことが苦手な人達だ。

『クラリス様が部屋にこもっているだけでこんなに平穏な秋休暇になるなんて知らなかった』

楽しそうな声が聞こえる。

『本当、いつもいつも仕事の邪魔ばかり。これは何かしら?じゃないっつーの』

『これならずっと部屋にいて欲しいくらいよ。あのお転婆お嬢様、ミレニア様が何度言い聞かせても何一つ聞いてないのよ、耳ついてる?って思うわ』

『あ、わかるわかる。そういえば、グラッド様も振り回されてたわよ。昨日、クラリス様がグラッド様をエスコートして歩いてたの。やれやれって顔してたわ。でもさ、なんか療養必要?って感じだったけど』

私の行動がクラリス療養話をひっくり返してしまうのではないかと息を飲み見守る。

『療養じゃないのよ、きっと。』

『え、なになに?』

『クラリス様の婚約を決めるんじゃないかしら。花嫁修行をしてるのよ』

……花嫁、修行?

『あー、なるほど。でもさ、誰に嫁ぐのかね。あのお転婆お嬢様。やっていけるの?』

『たしかにー』

た、たしかに。気になる話題だ。

『領地内ならニビはミレニア様が嫁いできたから、ニビはないでしょ。フォッグはグラッド様のご実家があるでしょ?スレートかしら。でもスレート子爵のお子様はまだ幼かったわよね。どうするつもりかしら』

『領地から出すんじゃないの?リーベックとか?』

『グラッド様と、だったりして』

『えー、嫌だー。グラッド様可哀想』

そっと魔法を解除した。

ちょっとだけ疲れた。筆を止めて、大きく伸びをする。

初代様の子供達がそれぞれ分家を継ぎ、主家をサポートする体制を作った。子爵位はニビ、フォッグ、スレートが、子供達の分家はその下についた。

土地持ち貴族ではないが、サイス領の名門中の名門。

クラリスを受け入れる先があっただろうか。

ん?あれ?領地内で家格やら魔力やら諸々の釣り合いを考えたら、グラッドしかいない?釣り合い無視なら、いるけど。

待て待て、そもそも私が考えることではなかった。

すぐ思考が飛ぶなぁ、一先ず、落ち着こう。

大袈裟に深呼吸をし始めた私に、ミランダが

「また、脱線してしまいましたか?今度は何が気になっているのですか?」

淡々と声をかけてきた。

バレてる。

「いやー、クラリス様はどんな方がタイプなのかなぁって思っただけです」

唐突な話題だったが、ミランダは真剣な顔をして頷く。

「なるほど、リオ様はグラッド様がお好きですものね。クラリス様は、そうですね。グラッド様と真逆の方がお好きです」

!?

「ミランダ、あ、の、それは」

「あ、失礼しました。うっかり口を滑らせました。お忘れ下さい」

出来るか!!

「クラリス様はまず、ちやほやしてくれる男性がお好きですね。」

私が脳内でツッコミをいれてる間にクラリスのタイプについてミランダが滔々と語り始めた。

終いにはミランダが考えるクラリスの理想の結婚相手まで。

「ちやほやしてくれて、年上で、土地持ち貴族ではなく、芸術に理解のあるって、いるんですか?そんな相手」

「おりますよ、他領の殿方ですが」

いるのか!

「しかし、貴族社会での柵諸々ございまして叶わない結婚相手ですが。」

たしかに、領主一族としかも他領の一般貴族では釣り合いがとれない。

「結婚って難しいんですね」

「クラリス様の場合、今後特に難しくなると思います」

今後……召喚者だからだろうか?例え本人が人畜無害であっても性質上危険人物に認定される。

絶望感を抱かせないように、より慎重に扱われるのだろう。クラリスがそれをよしとするなら、それでいい。よしとしない場合が大変だな。折り合いのつけ方が問題になる。

「あまり深く考えすぎないで下さい。リオ様が思うよりクラリス様は能天気な方です。なるようになります」

ミランダのクラリスの扱いに驚きつつも、はいと返事をした。

そして、忘れろと言われたが衝撃的な発言をされたのを思い出す。

「バレバレなんですかね。私の気持ちは」

「フレッド様と私しか気づいていないので、そこまで危うくは感じませんが」

「フレッド様が何処で気づいたのかが気になります」

表情筋が仕事していない私の何処をみて、グラッドを好きと思ったのか。凄く気になる。

「ミランダ、カマかけられたんじゃないんですか?」

「流石、リオ様」

当てずっぽうだったが、正解だった。

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